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58 トニー
しおりを挟む「ガイドロ様の使者様がいらした。ルロイを養子にしたいそうだ」
「え?」
村長の家に着くなり、思ってもいなかったことを言われた。
養子って、あの養子なのか。ルロイを息子にしたいということか?
ガイドロ様といきなり言われても、誰なのかさっぱり分からない。
「あの、ガイドロ様とは?」
「この村からは、ずいぶんと離れているが、ガイドロ辺境伯領を治められている領主様だ。爵位も高い。領地も広く、とても裕福だと聞いている」
「その使者様は本物なのですか? そんな高位の方がルロイを養子にしようなんて信じられません」
信じられるわけがない。
だいたい領主様が、なぜルロイのことを知っているのか?
ルロイが騎士団にいたとしても、下男仕事のルロイが領主様と知り合いになることなどないだろう。
「そこは心配いらない。家門の入った書状を持ってこられた。使者様は、すぐにでもルロイを辺境伯領に連れて行きたいようで、戻らずに隣村の宿屋で待たれている」
「どうして……」
呆然と村長の顔を見ているだけだったが、少しずつ話の内容を理解してくる。
せっかく戻って来てくれたルロイを連れて行ってしまう。そして相手が貴族なら、もう二度と会うことは出来なくなる。
嫌だっ!
とっさに出そうになる言葉をなんとか押さえ込む。
「家にルロイが居たのに、どうして俺に話をするんですか?」
「どうやらガイドロ様は、ルロイに直接話をされたようだが、断わられたらしい。保護者のお前から、言い聞かせるようにとのことだ」
「ルロイに直接……」
俺と離れている間に、ルロイには色んなことがあったのだろう。
そんな話があったことをルロイが俺に言わないのなら、その話は終わったことだ。
「ルロイが断った話なら、俺が進めるわけにはいきません」
「お前は何も分かっておらんのだな。相手は貴族だぞ。断るなど、そんな失礼なことが出来るわけがないだろう。ルロイもだが、お前もどんな目に合わされるか分からんぞ」
村長は、なぜ分からないのかと言わんばかりの態度だ。
「ルロイは断っているんですよね。断ることが出来ているのなら、無理強いしなくてもいいはずです」
「だからだ。罰することなく再度話を持ってきたということは、それほど本気だということだ。ありがたい話だと、どうして分からんのか。ルロイは成人したとは言っても、まだまだ子どもで、親と離れたくないと駄々をこねているだけだ。それを大人は正してやらんといかん」
いくら相手が貴族でも、ルロイが養子に行きたくないというのなら、俺はルロイの思いを尊重したい。
ルロイは15歳だとはいえ、自分のことを決めることはできるから。
「お前がルロイを引き止めると、ルロイの将来を潰してしまうことになるんだぞ。お前もルロイの親になっているのなら子どものことを考えてやれ」
「それは……」
「貴族になって裕福な生活を送ることができる未来があるのに、こんな田舎の百姓になれとお前は言えるのか」
村長の言葉は、俺に突き刺さる。
ルロイは騎士団にいるとはいえ、嘱託団員だと言っていた。
百姓の息子の上に、ろくに学校にも行かせてやれなかった。正団員になんてなれなかったのだろう。いつ解雇されるか分からない立場だ。
「だけど、その貴族がルロイを本当に養子にするからは分からないじゃないですか」
ルロイは、際立った美形だ。
養子にすると言って、邪なことを考えているかもしれない。
一度断られても執着しているのは怪しい。
「お前には読めないだろうが、ちゃんとした書状だ。ルロイが承諾すれば王家にも申請して、正式な息子として迎え入れると書かいてある」
村長は俺の目の前に一枚の紙を広げてみせる。
丸められていたのか、クルリと下の方は丸まっているけど、上等な紙で、一番上には紋章が書かれている。
「お前が言い聞かせないでどうする。息子にしたとはいえ、一生お前が面倒みてやれるわけじゃないんだぞ。ルロイの将来を潰すんじゃない」
村長の強い言葉に、俺は俯いてしまう。
どうすればいいんだ?
今までの俺だったら、村長の話なんて聞かない。いくら裕福な貴族の子どもになれるのだとしても、ルロイが断ったというのなら、俺はルロイに進めたりなんかしない。
でも……。
俺はルロイの思いを受け止めてやることができないでいる。
ルロイを息子として愛しているけど、ルロイの向けてくれるような恋愛感情を持っていない。
ルロイの望み通りに夫夫になることができない俺が、ルロイを縛り付けてもいいはずはない。
手を離すべきなのか……。
それなのに嫌だ。ルロイと離れるのは嫌だ。心が駄々をこねる。
やっと帰って来たルロイと、もう離れたくない。
またルロイが俺の前からいなくなったら、俺はどうなってしまうだろう。持て余すほどの強い執着がある。
ルロイには幸せになって欲しい。そう思っているのに、俺はルロイを手放したくない。どうすればいいのか分からないままだ。
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