籍を入れて親子になったはずだった。え、結婚って、どういうこと?

棚から現ナマ

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52 トニー

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せっかくルロイが帰って来たからと、風呂桶に湯を入れようとしていたらルロイがやってくれた。それも超短時間で。
風呂桶を一杯にするためには、何度も川から水を運ばなければならないし、お湯にするのだって時間はかかるというのに。
どれだけ手際がいいんだ。

ありがたく頂戴して、後は寝るだけとなったのだが、ルロイの様子がおかしい。モジモジクネクネとして、寝ようとはしない。
寝たくないのか?
ルロイが王都に行く前までは同じベッドで一緒に寝ていた。だってこの家にはベッドが一台しかないから。
ベッドをもう一台買う金もなかったし、ベッドを置くスペースも無い。

今も何も考えずに一緒のベッドで寝ようと寝支度をしていたんだけど、ルロイがこちらに来ない。どうしたんだ?
俺よりもルロイは大きくなってしまったから、狭苦しいとは思う。しかし、他に寝る場所は無い。

「ト、トニー、あの、お、俺……」
ルロイも風呂上がりとはいえ、顔が赤いままだ。ルロイのおかげで湯がタップリと入っていたから、湯あたりしてしまったのかもしれない?

「どうしたんだ? 一緒に寝るのは嫌か?」
「嫌じゃないっ! いっ、一緒に寝たい」
ルロイは慌てて頭を振る。

「そうか、嬉しいな」
ついつい顔が笑ってしまう。
やっとルロイが帰って来た実感がわいてきた。もう一緒に寝ることは無いのかと思っていたから。

「お、俺も嬉しい。やっと、やっと俺達本当の夫夫になれるんだねっ」
「へ……?」
食事の時に聞いたルロイの勘違いを、どう訂正すればいいのか分からなかった俺は、風呂に入ろうといって、うやむやのままにしてしまっていた。
難しいことを先送りにしてしまう、俺の悪い癖だ。でも、どうすればいいのか分からなかったんだよ。今も分からないままだよ。

「お、俺、ちゃんと精通もしたよっ。やり方も教わったから、できると思う」
笑顔のルロイを見て固まる。
できるって……。何が?

「そ、そうか。ルロイはもう成人した大人だもんな。精通もしているよな。ところで……。それは何だ?」
ルロイは椅子に掛けていた鞄の中から何かを取り出して俺に見せる。蓋のしてある小さな瓶には、液体が入っている。

「Hの時に使うんだって、友達から分けてもらった。使い方も聞いたから任せて!」
任せてって、何を任せるんだ?
それに友達が、なぜそんな物を持っている?

ジリジリとルロイが俺に近づいて来る。
なぜか身の危険を感じた俺は、後すざっていったが、数歩でベッドにぶつかって動けなくなってしまった。
もしかしてだが、Hって、やっぱりあのHなのか。ルロイは俺と性的なことをやろうって思っているのか?

「は、話し合おう。なっ、話し合おう」
うやむやにしたのがいけなかった! ちゃんと話をしておくべきだった!
俺は両手を突っ張って、迫って来るルロイを止めようとしたが、すぐにルロイは俺の目の前まで来ると、俺を抱きしめる。

「嬉しい、やっとだ。やっとトニーと夫夫になれる」
「ご、誤解があるみたいだっ。話を聞いてくれ。話せば分かるからっ」
俺は焦りまくる。
どうして息子から迫られないといけないんだ。

俺はなんとかルロイから逃れようとするが、強い力で抱きしめられて、身じろぎすらままならない。それに頭をルロイの胸に押し付けられているから、大きな声も出せない。
それでも、なんとか声を振り絞る。

「ル、ルロイッ。お前は何をしようとしているのか分かっているのか?」
「分かってる!」
即答が返ってきた。

俺はルロイのことを自分の息子だと思っている。それなのに一線を越えてしまったら、もう親子ではいられない。
一緒にいられなくなるかもしれない。それなのにルロイには躊躇いがない。

「フリックに教わった。誘うのがヤル方で、待っているのがヤラレル方だって。だから分かっている。俺はちゃんとヤレる。トニーは俺に任せてくれたらいいんだ」
「えええ~」
そっちか。そっちが分かっているのか。俺はヤラレル方なのか。
違う! そんなことを分かりたかったわけじゃない。勝手に決めるな。聞きたくもなかった。

フリックさんっ、子どもに何を教えているんですかっ!
爽やかそうな好青年に見えたのに。もしかしてルロイが言っていた友達って、フリックさん繋がりとかじゃないよな。
ルロイがあの二人から世話してもらっていると言っていたけど、どんな世話なんだよ。

「おわっ!」
胸の中で二人に罵詈雑言を浴びせていたら、いきなり身体が浮き上がった。
お姫様抱っこをされてしまった。

いくらルロイが俺よりも大きくなったとはいえ、それは身長だけのことで、身体の厚みはそこまで変わらない。
それなのに、軽々と抱き上げられてしまった。
そのままベッドの上へと寝かされる。

「まっ、待って待って。ルロイ、俺の話しをっ」
ルロイに俺の言葉は届かない。

ルロイは素早くベッドへと乗り上がると、俺へとのしかかってきたのだった。
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