籍を入れて親子になったはずだった。え、結婚って、どういうこと?

棚から現ナマ

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51 トニー

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「だから300万エタは、ドラゴンの討伐で報奨金を貰ったんだよ」
「ルロイ、ドラゴンって最上級の魔獣じゃないか。いくら騎士団が精鋭揃いでも、討伐が難しいことは俺だって知っているよ。それをルロイが一人でやっつけたっていうのは、さすがに無理があるな」
「本当だってば。俺はトニーに嘘なんかつかない」
ルロイは訴えるけど俺は信じない。信じられるわけがない。

ドラゴンって、あのドラゴンだ。噂にしか聞いたことはないけど、Sランクの冒険者がチームを組んで討伐しようとしても難しいってジルが言っていた。そんなドラゴンを3匹同時に倒したとか、いくら魔獣に疎い俺でも嘘だと分かる。

ルロイは “魔の森” で魔獣を仕留めて肉を持って来てくれていたけど、罠で捕らえていると言っていた。
だいたいルロイは剣を持っていなかった。俺は高いから買ってやれないし、俺は剣を使って魔獣を狩ることを許可していなかった。
剣を扱ったことのないルロイが、凶暴なドラゴンをやっつけただなんて、設定自体に無理がある。

「それにキトン村のことも噂で聞いたよ。スタンピートが起こりそうになったのを騎士団の英雄様が止めてくれたって。でもそれがルロイのはずがないじゃないか」
噂に聞いたのは、身の丈2m越えの筋肉ムキムキの大男が、スタンピートを起こした魔獣達を、ちぎっては投げちぎっては投げして、村を救ったとのことだった。騎士団の中では一番華奢だろうルロイが、自分だと言ったところで、俺どころか周りの誰一人信じやしない。

大金を持っているルロイが、こんな作り話をするなんて。やっぱり俺には言えないようなことをしていたのだろうか。
自警団に行くと言った時、すがってでも止めるべきだった。

それに自警団から無理やり騎士団に連れて行かれたとか、契約書に気づかずにサインをしていたとか、やっぱり騙されていたんじゃないか!
自警団の団長を殴っておくべきだった。絶対敵わないけど。

「ルロイ、俺はお前がどんなことを王都でしでかしてきたとしても、絶対に嫌いにならないし、見捨てたりなんかしない。もし一緒に来ている騎士様達から脅されているのなら、二人で分からない場所に逃げよう」
俺はルロイの両手を自分の掌で包み込む。俺の本気を知ってほしい。

「だから違うって。俺はちゃんと騎士団で働いて、金を稼いだんだよ。それにジャークとフリックは俺の世話をしてくれている良い人達だ」
「俺には騎士団の給料がいくらか知らない。それでもたった2年で300万エタもの大金を貯めることができないのは分かっている。そもそもルロイは本当に騎士団に入団しているのか? あの二人も本物の団員なのか?」
考えてみれば、そこからして疑ってしまう。

「本当だよ。今は嘱託団員だけど、ちゃんと騎士団の制服を着ているじゃないか」
ルロイは椅子から立ち上がって、自分の服を引っ張って見せる。
仕立ての良い上等な服だけど、それが騎士団の制服なのか、俺には判断できない。

「全部本当だってば。それに俺は王様から家を貰ったんだ。だからトニーと王都で一緒に暮らそうと思って、迎えに来たんだ!」
「家を貰った? 王様に……。あーーーっ!!」
「えっ、なになに、どうしたの?」
俺はルロイを指さして、大声を上げてしまった。

「そうだよっ、王宮から使者がやって来たんだっ」
「使者? 使者が何しに」
「ルロイが結婚しているから相手は誰だって調べに来た」
悲しい気持ちを思い出した。
なぜ一言でもいいから、結婚したことを知らせてくれなかったのか。

「ああ、王様がお姫様と結婚しろって言ってきたから、俺はもう結婚しているから出来ないって断ったんだ。まさかトニーの所まで調べに来るなんて、王様もしつこいな。使者が嫌なこと言ったり、変なことをしなかった? トニー大丈夫だった?」
ルロイが心配そうな顔をこちらに向けてくる。

「ああ、話をしただけだけど……。お姫様と結婚しろって言われたって。まさか王様に会ったのか? 普通は会えるもんじゃないだろう」
混乱してしまう。
王様に会ったとか、お姫様との結婚とか、にわかには信じられない話だけど、使者は王宮から来たと言っていた。本当の話なのか?

「国王様に結婚しているって言ったのか……」
もしお姫様と結婚するのが嫌だとしても、国王様に嘘なんか吐けないはずだ。
やっぱり結婚したのは本当のことだったのか。

「そりゃあ言うよ。俺はトニーと別れるつもりなんてないから」
「へ……?」
ルロイが、さも当たり前と言わんばかりに言ってのける。
結婚している。で、なぜ俺と別れることになるんだ?

「結婚を断ったから、替わりに報奨は何がいいかって聞かれたから、家を貰うことにしたんだ。その家の改修がやっと完了したんだよ。新築じゃないけど綺麗な家で、雨漏れしないし、隙間風も無い。やっと夫夫で一緒に住めるね!」
「え……?」
嬉しそうなルロイの言っている話の内容が、理解できない。
夫夫って何だ? もしかして男同士の夫婦のことなのか?

そして、ルロイが帰って来た時のことを思い出す。
振り回されて、意識が朦朧としていたから、ハッキリとは憶えていないけど……。
俺はルロイとキスをした?
えええっ。俺の顔は一気に赤くなる。

「トニーどうしたんだ。もしかして使者から嫌なことをされたのを思い出した?」
「お、俺と結婚しているって……。こ、国王様に言ったのか?」
「もちろん。ちゃんと言ったよ。王様のことを心配しているのなら大丈夫。王様だって正式に入籍している夫夫を別れさせることなんかできないよ。もし俺達を別れさせようとしてきたら、俺も黙っちゃいないから、安心してよ」
制服を見せるために立ち上がっていたルロイは、そのまま俺に抱き着いて来る。

いや待って、待ってくれ。混乱していたのが、もっと酷くなった。
結婚しているって俺と? 俺が結婚相手だっていっているのか?
入籍はしたよ、村長と村役場に行ってちゃんとした。でもそれって養子縁組だったはずだ。だって村長だって村役場の人だって『若いお父さんだね』って、言ってくれたし。
ルロイはいつから勘違いしていた? もしかして俺が入籍したって言った時からか?

どうする。どうする俺。
ルロイに抱き着かれたまま、混乱している俺は途方に暮れてしまうのだった。

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