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49 トニー

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「うううう……」
「そんなに泣くな。大丈夫だから」
「そうだぞ、お前の力が強いことが分かってよかったじゃないか。今度は気をつければ、トニーは許してくれるよ」
……ん?
周りが煩くて目が覚めた。

見慣れた天井に、いつものベッドの上だ。
吐き気が凄かった記憶があるから、きっと熱中症になったのだろう。いくら晩秋とはいえ、直射日光に当たりすぎた。
もう眩暈も具合の悪さも無い。もともと身体は丈夫だから、すっかり良くなった。
いつの間に寝たのか記憶になくて、頭を捻る。でも、ちょっと笑ってしまう。夢の中だけどルロイに会えたから。嬉しかったな。

「トニー! 良かった目が覚めた」
「え?! おわっ、だ、誰だっ」
ルロイが跪いて、寝ている俺の手を握っていた。それも涙を流しながら。
そして、驚いたことにベッド脇に男性が二人立っていた。知らない人だ。

「勝手に家に入ってしまい申し訳ありません。私はルロイ君の同僚で、騎士団第3部隊所属のジャーク=イヤソンです」
「初めまして。同じく騎士団のフリック=イヤソンです。無作法をお許しください」
寝たままの俺に向かって、二人が頭を下げる。

「あ、あのトニーです。え、騎士団? 同僚って、まさかルロイは本当に騎士団に入団していたのか?!」
「ごめんなさい。トニー、ごめんなさい。苦しい? 怒ってる?」
まだルロイは泣いたままだった。
あ、そうか、思い出した。俺が気を失ったのはルロイに振り回されたからだった。

「ああ、もう良くなったから気にしなくていいよ」
本物のルロイがいる。夢じゃなかった。
ルロイが手を放してくれたから、俺は上半身を起こす。

「力が強くなったんだなぁ、びっくりしたよ。大きくなって。本当にルロイなのか、よく顔を見せてくれ。お前が王都に行ったって聞いて、心配したんだよ。騎士団に入ったのは本当だったんだなぁ。こんなに色が白くなっちゃって、騎士団では内勤だったのか?」
両手でルロイの顔を包み込む。

ずいぶんと大人びて、美少女めいた雰囲気はなくなったけど、成長と共に日焼けしていた肌が色白に戻って、高貴な王子様風になっている。
きっと騎士団では、建物内で下働きをしていたのだろう。

「会えて嬉しいよ」
感極まって、ポロポロと涙が落ちてくる。
ルロイも俺に抱き着いて来た。ルロイの背中をポンポンと叩く。

「あっ、すみません、失礼しました。ルロイ放して、ほら、お客様に失礼だろう」
二人の存在を忘れていた!
慌ててルロイを引き離そうとしてもできなくて、そのままの変な体勢で二人に向かって頭を下げる。

「いえいえ、こちらが勝手に押しかけてしまったので、お気になさらず。私達はルロイ君と一緒に王都から来たのですが、村が見えてきたらルロイ君が馬車から飛び降りてしまって、追いつくのに時間がかかってしまいました。もう少し早かったら、トニーさんが気を失う前に止めることができたのですが」
ジャークさんの不思議な説明に頭を捻る。
馬車から飛び降りた? 走ったルロイに馬車が追いつかない?

「今日はご挨拶に伺っただけです。久しぶりに会えたのですから邪魔はしませんよ。我々は隣村に滞在しておりますので、落ち着かれたら、ぜひ一度お話をさせて下さい。それと、これを良かったら受け取ってください」
フリックさんが手に持っていた包まれた品をテーブルの上に置いている。もしかして手土産だろうか? なんだか上等そうだ。

「え、あの……。ありがとうございます」
田舎者の俺に礼儀作法なんてものは身についていない。どう対応すればいいのか分からず、ルロイに抱き着かれたまま、なんとか礼を言う。
そんな俺に二人は微笑んでくれる。

ジャークさんは柔らかい感じの綺麗な人で、フリックさんは体格のいい爽やかな人だ。二人共に俺と同じくらいの年齢だが落ち着いていて、あか抜けている。田舎臭い自分が恥ずかしい。
騎士団のだろうか? 制服を着ている。そういえば、抱き着いたままのルロイも同じ制服姿だ。

「あの、ルロイを村まで連れて来てくださって、ありがとうございます」
ルロイのために、何日もかかるというのに王都から付き添ってくれたのだろうか?
子どもだとはいえ、もう成人している下男のために、二人も騎士様が同行してくれるなんて、騎士団はなんて良い職場なんだ。

「いえいえ、私達は “魔の森” の調査をするために来たのですから、気にされることはありません。長居するのもなんですから、今日は失礼します。お身体お大事にしてください。ルロイ、ちゃんと話をするんだぞ」
「今日は失礼します。また伺わせていただきます。ルロイ、俺達は宿屋に泊まっているから、ひと段落したら連絡してくれ」
二人は俺に一礼し、ルロイに手を振って出て行ってしまった。
ルロイに抱き着かれたまま、引き止めることも出来なかった。お茶一杯出していない。
まあ貧乏な俺の家に茶葉なんて物は無いけど。

「ルロイ、帰って来てくれて、ありがとう」
俺は抱き着いたままのルロイを再度抱きしめるのだった。

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