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47 トニー
しおりを挟む今は冬も近くなってきたから畑仕事は少ない。午前中に済んでしまったから、洗濯でもしよう。今日は天気がいいからな。
一人暮らしが長くなると、家事をするのが億劫になる。
ルロイと一緒に暮らしていた頃は、何をするのにもやりがいがあったけど……。
一人分の洗濯物を洗い終えると、家の裏にある物干し竿に干していく。
「やばいな、もう破れそうだ」
上着の一枚が古いために生地が薄くなり、破れそうになっている。とはいっても買い替えることも躊躇われる。
金が無い。
いや、上着一枚ぐらいなら買えるのだが、金を貯めているから。
また嫁を貰うために支度金を貯めているわけじゃない。ルロイに会いたいから、王都に行くための金を貯めている。
自警団の団長の話では、ルロイは王都の騎士団に入団していると言っていた。
信じちゃいないけど。
自警団に入るのですら、地元民からすれば高望みといわれる職業だ。王都の騎士団に入れるわけが無い。
どうして、そんな嘘を団長がついたのかは分からないけど、ルロイが王都にいるのは間違いないようだ。
ルロイが王都に行ってすぐの頃、村長宛てに手紙が届いたから。
村長が手紙を持って、会いに来てくれた。俺は文字の読み書きができないから、村長に代読してもらった。
手紙には、王都で働いているから、自分のことは心配しないでとあり、俺はホッとした。
でも続けて、トニーには早く結婚して家庭を持つようにとも書いてあるとの村長の言葉に、俺は呆然としてしまった。
まさかルロイから、そんな突き放すようなことを言われるなんて。
俺に別の家庭を持てとは、自分がもう王都から戻ってはこないからと、そういうことなのだろうか……。
もやもやとしながら、それでも待っていたけど、ルロイは帰ってこなかった。
そんなある日、ルロイのことを調べていると、王都から王家の使いという使者がやって来た。
立派な馬に乗り、立派なお仕着せを着ていた。
本物だと思う。そんな身なりの良い人が俺を騙す必要なんてないから。
使者はルロイが王都ですでに結婚していると言った。その確認を取りに来たのだと。
なんで王家がルロイのことを知りたがったのかは謎だ。ルロイが罪を犯してしまったのかと身構えたけど、そうじゃないみたいだ。
使者はこちらには根掘り葉掘り質問をするくせに、こちらからの問いかけには、何一つ答えてはくれなかった。
ルロイが結婚したなんて知らなかった。
王都に行ってしまったルロイのことを知るすべは無い。ルロイからの手紙も一度きりだ。
なぜ結婚したことを教えてくれなかったのだろうか。
結婚式にも呼んではくれなかった。
どんな人とルロイが結婚したのか知りたかった。
王都で幸せにくらしているのか知りたかった。
俺はルロイと仲良くやっていると思っていたけど、違ったんだろうか?
俺のことが嫌で、ルロイは遠い王都へと行ってしまったんだろうか?
俺がルロイを引き取ったのは間違いだった? 籍を入れて親子になったのは嫌だった?
色々なことをグルグルと考えてしまう。
ルロイに会いたい。ルロイに会って聞きたい。
もし俺のことを嫌っていたのなら、俺は謝りたい。謝らなければならない。
子どものルロイにすれば、保護者になってしまった俺に逆らうことなんてできなかっただろうから。
家を出て、頼る人の誰一人いない王都に行かなければならないほど、ルロイを追い詰めてしまっていたいのかもしれない。
ルロイに会いに行くには金がかかる。
馬車の代金だけじゃなくて宿屋代もかかる。野宿でもいいけど、やったことが無いから、出来るか分からない。王都では食事代だって高いだろう。
それに王都に着いたからといっても、簡単にルロイに会えるとは思わない。探すのに何日もかかるかもしれない。
俺は領主様のいるイジザの町までしか行ったことがないから、どれくらいの金を用意すればいいのか分からない。
それでも、ルロイに会うために俺は金を貯めている。
もともと百姓の収入は微々たるものだ。外貨を稼ぐために日雇いの仕事を探しているが、体格が良くないから力仕事は無理なうえに、読み書きができないから、やれる仕事自体が少ない。
なかなか金が貯まらない。
「おーーーい!」
ん?
何だろう、人の声だろか何かが聞こえた。
誰か来たのかな? 俺の家は道のどん詰まりにあるから、用事がなければここまで入ってくる人はいない。通りすがりというのは、道を間違えた人ぐらいだ。
声が聞こえた方へと視線を向けてみると、誰かが遠くの方から走って来る。
徐々に近づいて来るのは……。
「ルロイっ!!」
俺は洗濯物を放り出すと、走り出したのだった。
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