上 下
46 / 63

46 第3部隊第1小隊フリック⑤

しおりを挟む



「そういえばルロイ、職はどうする?」
さあ出発しようと、荷物を馬車に積み込んでいるルロイに、今気が付いたと言わんばかりに問いかけてみた。

「職? 騎士団は辞めているけど」
「契約期間は終了しているから、辞めたと言えば辞めているな。だから今のルロイは無職だ。でも考えてみれば、トニーに無職っていうと、心配するんじゃないか」
「そ、そうかな……」
「そうだぞ。いくら2年間は家賃無料で屋敷に住めて、金持ちになったといっても、トニーにすれば無収入な状態なんだから、心配するに決まっている。自分が働こうとするんじゃないか」
「トニーが働きに……。せっかく楽してもらいたいのに」
「だよなぁ」
俺は腕を組んで、いかにもルロイに賛同しているという態度を見せる。
そんな俺に対してジャークが隣から、よからぬことを考えているんじゃないかという、視線を送ってくる。その通り、良く分かってくれている。愛しているぞ。

「でも俺はトニーと一緒にいたいんだ。仕事に就いて離れ離れになるのは、もう嫌だ」
「そうだろう、そうだろう。せっかくトニーと一緒に住めるんだからな」
「うん。嬉しい」
ルロイは笑顔を見せる。
いつもは表情の乏しいルロイは、トニーの話をする時だけ表情が動く。それだけトニーのことを慕っているのだろう。

「俺は考えてみたんだが、どうかな、騎士団の嘱託団員として働かないか?」
「しょくたくって、なに?」
「ほら、ルロイは契約書にサインをしてしまったから、騎士団を辞められなくて腹を立てていたんだろう」
俺の問いに、ルロイは頷く。ムッとした表情をしているから、腹に据えかねていたのだろう。

「嘱託団員は団から依頼があった時に仕事をするっていう働き方だ。これだったらトニーに仕事を聞かれた時に、騎士団で働いているって答えることができる。今までみたいに契約に縛られて毎日勤務しなくていいから、普段はトニーと一緒にいることができる。仕事は依頼が来た時にだけだ。もちろん依頼内容を聞いて気にくわないって所があれば、変更してもらってから受ければいいし、依頼自体が気に入らない時は断ってもいい」
俺はルロイに不利なことが無い仕事なのだと分かって貰いたくて、一気に説明する。

「……。依頼ってどんなの?」
「今までやってきた魔獣の討伐とか……。たぶん今度は魔獣のいる森の魔素を調べる仕事も依頼されると思う」
「そんなんでいいの?」
「ああ、魔素が見えるのはルロイだけだからな。高い報酬が貰えるぞ」
「でも、どの依頼も王都からは遠いよな? 遠くに行かなきゃならないなら、またトニーと離れることになるから嫌だ」
ルロイはフンと横を向く。
今までトニーと離れ離れにさせられていたのだから、また離れるのは嫌だというのは分かる。
さて、どうしたものか。

「じゃあさ、一緒に現場に行ったらどうだ?」
「え?」
ジャークが閃いた! と人差し指を立てて話に加わる。

「ルロイが依頼を受けて遠くに行く時には、トニーも一緒に行ってもらうってのはどうだろう。もちろん魔獣の討伐や危険なことに、トニーは関わらせないよ。安全な場所でゆっくりしていてもらう。ちょっと遠い場所の依頼だとしても、トニーには宿に泊まってもらって野宿なんてさせないし、二人専用の馬車も用意する。これだったら二人が離れることは無いし、ちょっとした旅行気分が味わえる。トニーにも喜んで貰えるはずだ」
「旅行……。トニーが喜ぶ?」
ジャークの提案に、今まで絶対に引き受けないという態度だったルロイは、考え込んでしまった。
たぶん田舎に住むトニーは、旅行なんてしたことは無いだろう。もしかしたらルロイは二人で旅行したいと思っていたかもしれない。

「そうそう、もちろんトニーが同行してくれたら、トニーにも賃金は支払われるよ。トニーは嘱託団員じゃなくて、依頼ごとの契約社員になるし、危険手当とかは付かないから安いとは思うけど」
「トニーにも賃金……」
「そうだよ。トニーは畑仕事ができなくなるから丁度いい小遣い稼ぎになる。もちろんすぐにじゃない。トニーが王都に馴染んで、暇になったから何かしたいって言った時でいいんだよ」
ジャークも笑顔で押せ押せだ。やるなジャーク。
後一息。

「依頼のことやトニーがどうしたいかは、ゆっくり考えればいいよ。ただ無職を回避するために、団に所属しているってことにしておくと便利だぞ」
「そうだよ。久しぶりにトニーと会えるのに、心配させたくないじゃないか」
「そ、そうだよな……」
二人揃って追い打ちをかけていく。

「じゃあ騎士団の嘱託団員ってことでいいよな。俺が団長に言っておくよ。これでトニーには、経済的余裕のある立派な大人として会うことができるな。良かった良かった」
「立派? 俺ってば立派に見える?」
「ああ、もちろんだ」
「トニーに会うときは、騎士団の制服を着て会おう。男ぶりが上がるぞ」
俺とジャークは大きく頷く。

騎士団長、ルロイを王都に住まわせ、騎士団に残留させることに成功しました。依頼を完遂することができました!
俺は心の中で敬礼するのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

処理中です...