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46 第3部隊第1小隊フリック⑤
しおりを挟む「そういえばルロイ、職はどうする?」
さあ出発しようと、荷物を馬車に積み込んでいるルロイに、今気が付いたと言わんばかりに問いかけてみた。
「職? 騎士団は辞めているけど」
「契約期間は終了しているから、辞めたと言えば辞めているな。だから今のルロイは無職だ。でも考えてみれば、トニーに無職っていうと、心配するんじゃないか」
「そ、そうかな……」
「そうだぞ。いくら2年間は家賃無料で屋敷に住めて、金持ちになったといっても、トニーにすれば無収入な状態なんだから、心配するに決まっている。自分が働こうとするんじゃないか」
「トニーが働きに……。せっかく楽してもらいたいのに」
「だよなぁ」
俺は腕を組んで、いかにもルロイに賛同しているという態度を見せる。
そんな俺に対してジャークが隣から、よからぬことをまた考えているんじゃないかという、視線を送ってくる。その通り、良く分かってくれている。愛しているぞ。
「でも俺はトニーと一緒にいたいんだ。仕事に就いて離れ離れになるのは、もう嫌だ」
「そうだろう、そうだろう。せっかくトニーと一緒に住めるんだからな」
「うん。嬉しい」
ルロイは笑顔を見せる。
いつもは表情の乏しいルロイは、トニーの話をする時だけ表情が動く。それだけトニーのことを慕っているのだろう。
「俺は考えてみたんだが、どうかな、騎士団の嘱託団員として働かないか?」
「しょくたくって、なに?」
「ほら、ルロイは契約書にサインをしてしまったから、騎士団を辞められなくて腹を立てていたんだろう」
俺の問いに、ルロイは頷く。ムッとした表情をしているから、腹に据えかねていたのだろう。
「嘱託団員は団から依頼があった時にだけ仕事をするっていう働き方だ。これだったらトニーに仕事を聞かれた時に、騎士団で働いているって答えることができる。今までみたいに契約に縛られて毎日勤務しなくていいから、普段はトニーと一緒にいることができる。仕事は依頼が来た時にだけだ。もちろん依頼内容を聞いて気にくわないって所があれば、変更してもらってから受ければいいし、依頼自体が気に入らない時は断ってもいい」
俺はルロイに不利なことが無い仕事なのだと分かって貰いたくて、一気に説明する。
「……。依頼ってどんなの?」
「今までやってきた魔獣の討伐とか……。たぶん今度は魔獣のいる森の魔素を調べる仕事も依頼されると思う」
「そんなんでいいの?」
「ああ、魔素が見えるのはルロイだけだからな。高い報酬が貰えるぞ」
「でも、どの依頼も王都からは遠いよな? 遠くに行かなきゃならないなら、またトニーと離れることになるから嫌だ」
ルロイはフンと横を向く。
今までトニーと離れ離れにさせられていたのだから、また離れるのは嫌だというのは分かる。
さて、どうしたものか。
「じゃあさ、一緒に現場に行ったらどうだ?」
「え?」
ジャークが閃いた! と人差し指を立てて話に加わる。
「ルロイが依頼を受けて遠くに行く時には、トニーも一緒に行ってもらうってのはどうだろう。もちろん魔獣の討伐や危険なことに、トニーは関わらせないよ。安全な場所でゆっくりしていてもらう。ちょっと遠い場所の依頼だとしても、トニーには宿に泊まってもらって野宿なんてさせないし、二人専用の馬車も用意する。これだったら二人が離れることは無いし、ちょっとした旅行気分が味わえる。トニーにも喜んで貰えるはずだ」
「旅行……。トニーが喜ぶ?」
ジャークの提案に、今まで絶対に引き受けないという態度だったルロイは、考え込んでしまった。
たぶん田舎に住むトニーは、旅行なんてしたことは無いだろう。もしかしたらルロイは二人で旅行したいと思っていたかもしれない。
「そうそう、もちろんトニーが同行してくれたら、トニーにも賃金は支払われるよ。トニーは嘱託団員じゃなくて、依頼ごとの契約社員になるし、危険手当とかは付かないから安いとは思うけど」
「トニーにも賃金……」
「そうだよ。トニーは畑仕事ができなくなるから丁度いい小遣い稼ぎになる。もちろんすぐにじゃない。トニーが王都に馴染んで、暇になったから何かしたいって言った時でいいんだよ」
ジャークも笑顔で押せ押せだ。やるなジャーク。
後一息。
「依頼のことやトニーがどうしたいかは、ゆっくり考えればいいよ。ただ無職を回避するために、団に所属しているってことにしておくと便利だぞ」
「そうだよ。久しぶりにトニーと会えるのに、心配させたくないじゃないか」
「そ、そうだよな……」
二人揃って追い打ちをかけていく。
「じゃあ騎士団の嘱託団員ってことでいいよな。俺が団長に言っておくよ。これでトニーには、経済的余裕のある立派な大人として会うことができるな。良かった良かった」
「立派? 俺ってば立派に見える?」
「ああ、もちろんだ」
「トニーに会うときは、騎士団の制服を着て会おう。男ぶりが上がるぞ」
俺とジャークは大きく頷く。
騎士団長、ルロイを王都に住まわせ、騎士団に残留させることに成功しました。依頼を完遂することができました!
俺は心の中で敬礼するのだった。
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