籍を入れて親子になったはずだった。え、結婚って、どういうこと?

棚から現ナマ

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39 第3部隊 小隊長②

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スタンピートの功績をたたえるとして、ルロイが王宮に呼ばれた。
同行者として騎士団団長と第5部隊隊長。そして第1小隊隊長の俺。一応上司になるからな。
そして、ジャークとフリックの保護者二人。ジャークはルロイに正装をさせ、ちゃんと髪も整えてやっていた。さすがはお母さんだ。
それなのに、保護者達は謁見の間には同行できないという。どうしてだ? この二人がいないと、ルロイの扱いに困るじゃないか。

謁見の間に入ると、辺りが一気にざわめきだした。まあね、ルロイは恐ろしい程に美しいからな。
魔獣から人々を護った英雄だと言われていたから、皆はいわおのような筋肉塊の大男を想像していたのだろう。それなのに現れたのは、年若い小柄な美しい少年だったのだから。
本当は小柄では無いのだが、同行しているのがマッチョのおやじ達だから、そう見える。

もともと美形だったルロイは、スタンピートの一件で色白になってしまい、それが高貴な雰囲気を醸し出している。
軍の正装と相まって、どこかの国の王子様か高位貴族の子息に見える。あちらこちらでルロイの美しさに感嘆のため息が漏れている。

そんな中、ルロイは大人しかった。
馬車の中で、団長や部隊長が口酸っぱく色々と指導していたから従っているのだろう。
団長、部隊長、ルロイ、俺の順で横並びに玉座の前で膝を着く。

隣のルロイを目線だけで伺うと、表情が『無』なのが恐ろしい。
一緒に仕事をしてきたから、ルロイが真面目で理不尽なことをやらない奴だとは分かっている。分かってはいるが、ガイドロ辺境伯には平気で盾突いていた。
田舎の村で育ったルロイは、身分の上下には無頓着みたいだ。団長相手にもタメ口だったし……。

国王陛下から功績を称えられているのにルロイは動かない。もしかしたら無の顔の正体は、目を開けたまま眠っているのかもしれない。
慌ててルロイを肘でつつく。

「ありがたき幸せです」
ルロイは頭を下げ、馬車で教えられた返事をする。部隊長から、この言葉以外は喋るなと言われていたのを憶えていたらしい。

「この若き英雄の働きは素晴らしい。国からは1,000万エタを報奨金として与え、騎士爵を授けることとする」
国王の言葉に、辺りからは歓声が上がる。

「安っす」
ルロイが漏らした声が聞こえてきた。
止めろ、不敬だから! 俺以外に聞こえていないだろうな。目線だけ動かして辺りを伺うと、ルロイの反対側に並ぶ部隊長には聞こえたらしく、ビクリと肩が動いていた。

ルロイよ、ドラゴンの時とは違うんだぞ。
ドラゴンは辺境伯に大金をもたらした。それに討伐の報奨金には規定があるから支払いが高額になったんだ。だがスタンピートは被害を押さえたのであって、王家には1エタも入ってはいない。金額が低くなるのは仕方がない。その代わりに名誉を与えているんだよ。
成人になったばかりの農村出身の子が、騎士爵貰えるのは凄いことなんだ。分かっちゃいないだろうけど。

「ルロイよ、そなたへの報奨は、これだけではない。それだけの偉業を成し遂げたということだ。そなたをルッテア公爵家は養子として迎え入ることにしたのだ。我は王女との婚姻を許可しようではないか」
国王陛下の話は続いていた。
将来的には貴族、それも最上位の公爵家を受け継ぎ、さらには姫を嫁に貰える。王族の一員になれるのだ。国王は、どうだと言わんばかりのドヤ顔だ。
辺りにざわめきが起こり、それは歓声へと変わっていく。次々と寿ことほぐ言葉が投げかけられる。

そうきたか!
国としてはルロイを脅威にならないように、どうにか囲い込まなければならない。そのために娘と結婚させて王家に縛り付ける気だ。
最初に騎士爵を与えたのは、我が国の法律では侯爵家以上の高位貴族の養子になるには、貴族家の者という決まりがあるからだ。

国王陛下の後ろに立つ王女達は、ルロイをうっとりと見つめている。どちらの王女になるのかは分からないが、彼女達に異論はなさそうだ。ルロイが謁見の間に入るまでは、平民のゴリマッチョと結婚したくないと、押し付け合いをしていただろうが。

養子先のルッテア公爵家は、もちろん了承しているのだろう。あそこは公爵家とはいえ、先々代が放蕩者で、ほとんどの領地を売り払ってしまい、未だ身代が傾いたままだという噂がある。ただ爵位が残っているだけの家だ。
ハッキリ言って不良物件だ。
だが姫を降家させるのだから、それなりの援助はするだろう。もしかしたら、ルロイに魔獣討伐などの仕事を押し付けて、借金返済をさせようと一石二鳥の考えなのかもしれない。

「え、何言っているの? 養子になんかならない。勝手に籍を扱わないでくれ。それに俺は結婚しているから、お姫様と結婚はできないよ」
大人しく無だったルロイは立ち上がると、軽い口調で、だがキッパリと断った。

全員が一瞬固まり、その後、驚愕に騒ぎ出したのだった。

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