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38 第3部隊 小隊長①
しおりを挟む俺は第3部隊に所属して10年以上が経つ。
第3部隊は魔獣討伐や国境付近の警備など、他の部署に比べると、移動も多いし命の危険度も高い。そのため給料は高いが、死んでしまえば金の使い道なんて無くなってしまう。
それでも隊員達は、文句も言わずに働いてくれている。
隊員達は全てがガタイの良い脳筋ばかりだが、そんな中に毛色の変わった者達が入ってきた。第5部隊にいたジャークとフリックだ。
二人は夫夫ということだった。この国では同性同士の結婚は禁忌では無いし、少数だが騎士団の中にもいる。それはなんら問題にはならない。問題にはならないんだが、問題なのはジャークが、しっかりした体格はしているが、他の奴らに比べたら華奢なうえに身綺麗にしており、あか抜けているということだ。よからぬ奴らに目をつけられないといいのだが……。まあフリックが周りに睨みを利かせているから大丈夫だろう。
この二人が入隊してきたのには訳がある。ルロイという少年のお世話係として、まとめての移動だった。
このルロイという少年は、未成年だが騎士団が勢力を上げて退団を阻止している逸材なのだという。
ルロイを何とか騎士団に引き止めるためだけにジャークとフリックは巻き込まれたのだ。ちょっと同情してしまった。
言われてみれば、ジャークは雰囲気が柔らかく、ルロイの世話をよく焼いている。お母さんっぽいな。フリックの方は、ルロイを子ども扱いして、いつも頭を撫でている。こっちはお父さんか。
そんな二人にルロイも懐いているのが分かる。
保護者付きで入隊してきたルロイだが、一目見た時に第1小隊に入れるのは、ちょっと……。と、躊躇ってしまった。
ジャークですら貞操の危機だと思えたのに、ルロイは美少女にしか見えない。
遠征が多いうえに女っ気が無く、欲求不満状態の隊員の中に、か弱そうな少女を投下するなんて余りにも危険すぎる。
部隊長に進言したが、すでに第5部隊でゴタゴタは経験済みとのことで、対策を色々と指示された。とはいっても、ルロイを一人部屋にして、保護者の二人と一緒にしておくぐらいだったが。
まあ結果としては、ルロイは凄かった。騎士団が総力を挙げて団に繋ぎ止めておきたいのは分かった。十分に分かった。
ドラゴンを倒したのだ。それも3匹を一度に。
ドラゴンが3匹出現した時、全員が自分達の死を確信したというのに。
それ以降、隊員達のルロイへの態度は一変した。力至上主義の脳筋達だからな。ルロイはヒエラルキーのトップに駆け上がったのだった。
その上にルロイはやってくれた。
今まで謎だったスタンピートの発生理由を発見しただけではなく、スタンピートを導き、進行を意図した方向に持って行ったのだ。
どれほどの偉業か。
これ程の逸材を逃すことはできない。それは騎士団もだが国もそうだ。
スタンピートの進行方向を決めることができるということは、非常に有益だ。
スタンピートを他国に向けることが出来れば、戦争を仕掛けるための大義名分も必要なく、他国に大ダメージを与えることができる。それも金がかからない。
だがしかし、それと同時に諸刃の剣でもある。
嫌になれば自分の国を潰すことができる。
スタンピートを王都に向けさえすればいい。魔獣達によって、国の中枢は壊滅し、王城も壊されてしまうだろう。
ルロイが他国に行ってしまえば、この国は怯えて過ごすことになる。
ルロイは、それほどの脅威になってしまった。
だが、ルロイを拘束したり、強制することは、やろうと思ってもできない。
ドラゴンを簡単に仕留めることが出来るのだ、人の手でどうにかできるはずがない。誰が牢屋に入れることが出来るというのか。
騎士団が総出でかかっても、簡単に殲滅されてしまうだろう。
薬を使って傀儡にしようにも、魔素を取り込むことができるルロイには未知の部分が多い。薬は効くのか分からない。ルロイに薬を使ったとして、もし効かなかった場合、敵と認定されて、どんな報復をされるか分からない。一か八かにかけるのは余りにも危険が大きすぎる。
どうにかしてルロイを国に繋ぎ止めなければならない。国王は必死だった。
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