籍を入れて親子になったはずだった。え、結婚って、どういうこと?

棚から現ナマ

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35 ルロイ 

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スタンピートは起こらない。何時間も待ったままだ。
このままスタンピートが起こらなければ、それに越したことは無い。
日も暮れ、もうすぐ夜が訪れる。そんな時に物音が聞こえてきた。
森の奥からこちらへと向かって来る音は、少しずつ大きくなっていく。
スタンピートが始まった!

「こっちだっ! お前達が欲しがっている魔素マナはここにあるぞっ!!」
魔獣達に向けて大声を張り上げる。

「ルロイっ、馬に乗れっ!」
騎馬で近づいてきたジャークが、俺を引っ張り上げる。
もうそこまで魔獣達は近づいて来ている。

俺は少しの魔素を先頭の魔獣にぶつける。
正気を失っているようだが、魔素には反応し、こちらへ顔を向けた。

「ほら、魔素はここにあるぞっ」
俺は今、魔素の塊のようになっている。魔獣達は求める魔素を見つけたと言わんばかりに、俺へと向かって来た。

「いくぞっ!」
ジャークが馬の腹を蹴る。
馬を全力疾走させるために、ジャークは両手で手綱を握る必要があり、俺は必死でジャークにしがみ付く。

小隊の中で一番の駿馬に乗っているだけあって、馬は魔獣に追いつかれることなく走る。
馬としても、魔獣に喰われたくはないから必死だろう。
だが5分もしないうちに馬の速度が落ちてきた。魔獣達は正気を失っているからなのか、速度が落ちない。これ以上は追いつかれる。

「降りるっ」
「頼むぞっ」
俺は抱き着いていたジャークから手を放し、そのまま馬から飛び降りる。
ジャークは馬を今までの進行方向から脇にそらしながら走り去る。
俺は無造作に着地するが、身体に魔素を纏っているから、どうということは無い。

「さあ、こっちだ。このまま着いて来いっ!」
魔素を少しずつ放出しながら、俺は走り出す。
魔素を求めて魔獣達は、そのまま俺を目がけて追いかけて来る。

魔獣をおびき寄せるために魔素を放出し続けなければならないし、魔獣と同じ速さで走るためにも魔素を使わなければならない。魔素の減りが早い。
魔素を取り込もうにも、魔の森に着くまで魔素は無い。
なんとか魔の森まで走り続けなければならない。

走って、ただ走って。
魔素はだんだん減ってくるし、魔素を使っているといっても身体は疲れてくる。
あと何キロ走ればいいのか。
息が上がって来る。足ももつれてしまいそうだ。
魔獣に追いつかれると、そのまま喰われてしまうだろう。必死で足を動かす。

走り続ける。
意識がもうろうとしてきた。息が苦しいし、目も見えにくい。俺はこんなに苦しいのに、魔獣達は速度を落とすことなく走り続けている。
後ろを振り返ると、やはり途中で魔素が尽きてしまった魔獣は脱落しているみたいで、数が少しは減っている。それでも、まだ何百と残って追って来ている。

魔の森が見えてきた!
あと少しだ、最後の力を振り絞り、がむしゃらに走る。

ドサッ!
あと少しという所で、足がもつれて倒れこむ。もう起き上がる力は残っていない。
それでも何とか倒れたまま身体を回転させ、進行方向から横へと転がっていく。
魔獣達は魔の森から溢れる濃い魔素に気づいたのか、追っていた俺のことなど見向きもしないで魔の森へと進んで行った。

魔獣達が魔の森の中へと入って行くのを見送る。
終わった……。
俺の役目は果たした。もう指すら動かせない。
俺はそのまま気を失ってしまったのだった。

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