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34 ルロイ
しおりを挟む「この森は魔素が薄い。いくら俺が魔素を集めることができるといっても、スタンピートの魔獣を移動させるような濃い魔素を溜めるには時間がかかる。それまでにスタンピートが起こらなければいいんだけど……」
一角ウサギは魔獣の中でも最小の大きさだから、短時間で魔素を集めることができた。でも、何十、何百という魔獣を移動させるための魔素を集めるのには時間がかかる。
「それにさ、どこに移動させればいいの?」
「そうだな、それが重要だ。おいっ、地図を持っている奴はいるか?」
「はい、こちらに!」
俺の問いに、小隊長は団員達を見回す。一番右端にいた団員が腰に下げていたポシェットから地図を取り出す。
「この辺りには魔獣のいる森は無いな……。一番近いのは魔の森になるか。ここからだと約20キロ。いくらルロイが魔獣を誘導できるとはいっても、20キロをどうやって移動させるべきか」
小隊長が考え込む。
魔の森。トニーがいる村に隣接している森だ。
魔の森に行くのなら、そのまま帰りたい。そう考えていると疑問が出てきた。
「魔の森に魔獣達を連れて行ったら、いっきに魔獣が増えてしまう。魔の森には村が二つ隣接しているのに大丈夫なの?」
俺のせいで、トニーに危険が迫るなら、絶対にやらない。
「ああ心配いらない。魔の森は大きいし、魔獣は魔素のある森からは出ない。いきなり魔獣が増えたとしても、魔獣同士で争いが起きるかもしれないが、村に被害は出ないだろう。ただ魔獣の誘導時に村へ近づけないように注意しないといけないな」
「そうか、分かった」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
「やはり馬にルロイを乗せて魔獣を誘導しましょう」
「それが一番いいと思うが、20キロも走ることは無理だ」
ジャークとフリックが考え込んでしまった。
いくら訓練された軍馬だとはいっても、20キロ一度に走ることは出来ない。途中で休憩を入れてやらなければ、倒れて使い物にならなくなる。
それに魔獣に追いかけられる状態になるのだから、馬も全力疾走しなければならない。そうなると10分も持たない。距離的には5~7キロがせいぜいだろう。残りの10キロ以上をどうするか。
そして一番困ったことが、俺が一人では馬に乗れないということだ。
「途中まで一緒に馬に乗せてもらって、そこからは走る」
「「「走る?! 無理だっ!!」」」
「魔素を使えば早く走れる」
「いや、それは……」
「だが、10キロ以上もあるんだぞ……」
皆は反対するが、他に方法は無い。それに、俺がガイドロ辺境領でドラゴンを倒した時の素早さを思い出したのか、反対の声は小さくなっていく。
「今は、いつスタンピートが起こるかわからない状態だ。そして我々にはそれを止めることが出来ない。スタンピートはどこに向かうか分からない。進行方向に村や町があったなら潰されてしまうだろうし、どれほどの人達が被害に遭うかも分からない。お前一人に負担がかかることになってしまうが、ルロイに頼むしか他に方法が無い。頼む、どうか魔獣を誘導してくれ」
小隊長は、俺に向かって膝を折り、そして深々と頭を下げた。
決まったことは、ジャークと俺が一緒の馬に乗り、魔獣達を誘導する。他の騎士達は、スタンピートの後ろから追いかけ、他の方向へと行こうとする魔獣を討伐する。
俺は急いで森の少し奥へと入り魔素を吸い込んで行く。一緒に来てくれたジャークとフリックが、俺が魔獣に襲われないよう護ってくれる。
「ルロイ、おまえ……」
「ルロイが別人……」
少しずつ魔素を取り込でいく俺を見て、ジャークとフリックが驚いている。
魔素を身体に入れると俺は変わる。
肌は褐色に。髪は赤味の強いものになり、瞳は深い青になった。魔素を身体に入れれば入れる程、色濃くなっていく。
今の俺は、限界近くまで魔素を取り込んでいる。
二人が驚くほどに色が濃くなっているのだろう。自分の腕を見てみると、小麦色の肌よりも濃い色になっていて、自分でも引いた。
森の入り口まで戻り、その場で俺は立ち止まる。ジャークとフリックは馬を準備するために戻って行った。
スタンピートがいつ起こるかは分からない。それを待つだけだった。
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