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32 ルロイ
しおりを挟む「なあジャーク、この森は魔素が少ないよな。元からこんなに少ないのかな?」
「え、魔素が少ないって?」
俺の問いかけにジャークは不思議そうに、逆に問いかけて来た。
俺はキラキラしているのが魔素だと気が付いていた。
ガイドロ辺境伯領に行った時、ドラゴンのいた山は、キラキラが溢れていた。
ジャークから魔素が濃い場所は、魔獣が強くなると聞いていたし、ドラゴンと戦っている時に、ドラゴンが俺みたいに魔素を吸い込んで攻撃してきた。
キラキラは魔素なんだと、その時に気づいたのだ。
「どうして魔素が少ないなんて言ったんだ?」
「だって、キラキラが少ないじゃないか」
「キラキラ? もしかして魔素が見えたりするのか?」
フリックが恐る恐るという感じで聞いてくる。
「見えないの? 魔素ってキラキラして綺麗だよね。ここの森って、他の魔獣がいる場所に比べてキラキラが薄いよ」
「「はぁっ!?」」
「魔素が見えるなんて、そんなことがあるのか? ちょっと変わっている子だとは思っていたけど……」
「いや、おま、魔素が見えるって……。キラキラに見えるのか?」
二人揃って俺を不思議生物みたいに見るなよ。失礼な奴らだ。
「うわっ! 魔獣が出てきたぞっ」
「気をつけろっ!」
森の浅い部分だとはいえ、呑気に会話をしている場合ではなかった。
一緒に調査に来ていた団員が、奥から出てきた魔獣に気づき、警戒するように大声を上げた。
出てきた魔獣は一角ウサギだった。それも一匹。
弱っているようで、ヨロヨロとこちらに来ている。様子がおかしい。
外見が可愛らしい一角ウサギだが、魔獣に変わりはない。気性が荒く、本来ならば人を見た瞬間に攻撃してくるはずなのに。
こんなに何人も人間がいるというのに気づいていないのか、それとも人がいても攻撃することが出来ないのか。
「そうとう弱っているみたいだな」
どんな状態だろうと、魔獣は仕留めなければならない。
一角ウサギの一番近くにいた団員が、剣を振り上げる。
「ちょっと待って!」
俺は団員へと近づくと、剣を下ろすように頼む。
「はっ、了解しました。ですが、どうしてですか? 弱っていても魔獣は危険です」
「うん分かっている。でも、ちょっと気になることがあるから」
団員と立ち位置を代わってもらう。
なぜか分からないのだが、ガイドロ辺境伯領でドラゴンを倒した時から、ジャークやフリック以外の団員達が、俺に敬語を使うようになった。俺よりも年上の人達ばかりなのに。
それに何か頼むと、まるで命令に従うみたいに聞き入れてくれる。直立不動になって敬礼までされる時がある。不思議だ。
俺は意図的に魔素を体内に取り込むことができるから、いくらキラキラが薄いといっても、何度か深く呼吸をすれば、ある程度の魔素を溜めることができた。
俺は魔素を指の先に集める。
目の前の一角ウサギは、俺のことにも気づいていないのか、ぼんやりと佇んでいたが、ピクリと何かに気づいたのか、俺の方へと近づいてきた。だが攻撃はしてこない。もうそんな元気は無いのかもしれない。
一角ウサギの鼻先に手を近づけると、攻撃にならないように注意しながら、魔素を一角ウサギの身体の中に流し込んでいく。
今まで魔素を攻撃に使うことや、防具代わりに身体に纏わせることはあったけど、相手に流し込むことなんて、やったことはなかった。このやり方でいいのかは分からない。それでも、キラキラと光る魔素が一角ウサギへと流れ込むのが見える。成功したみたいだ。
今まで動くことが辛そうだった一角ウサギが、耳を忙しなく動かしたり、キョロキョロと辺りを見回したりと、活発に動きだした。
周りの団員達は、いきなり元気になった一角ウサギに驚いた顔を向けている。
「ほら、仲間の元に帰れ」
もういいだろうと、魔素を送り込むのを止める。
一角ウサギは、俺の言葉の意味が分かったのか、俺の顔を一瞬見上げると、踵を返してピョンピョンと力強く跳ねながら森の奥へと帰っていった。
「どういうことだ? いきなり魔獣が元気になったぞ」
「魔獣が人を襲わないなんて、こんなことあるのか? 」
団員達は不思議そうにしている。
「ルロイ、魔獣に何をしたんだ?」
「弱っていた一角ウサギをどうやって元気にしたんだ?」
ジャークとフリックが俺に近づいて来た。
「この森は魔素が少ないって言ったよね。魔獣は魔素不足だったんだよ」
「魔素不足って、どういうことだ?」
「魔獣は身体に魔素を取り入れた獣だって聞いた。だから魔素の無い森の外には出てこないって。魔獣が生きて行くには魔素が必要だってことだと思う。この森は魔素が少ない。だから魔獣は魔素不足を起こしているんだよ」
「そんなことがあるのか?」
「ルロイは魔素が見えると言っていたけど……」
ジャークとフリックは、まだ半信半疑というか、信じられないという顔をしている。周りにいる団員達も俺の話しを聞いているみたいで、全員が同じような反応だ。
「さっきの一角ウサギに魔素を流し込んでみたら、元気になったから間違ってない」
「え、魔素を流し込んだ?」
「そりゃあ一角ウサギは、いきなり元気にはなったけど、魔素って渡せるものなのか?」
ジャークとフリックは一旦二人で顔を見合わせて『まさかな』と、呟きながら俺へと視線を向ける。
「ルロイ君に聞いちゃうけど、魔素が見えるってことは、まさかとは思うけど魔素を扱うことなんてできちゃったりするの?」
フリックの言葉遣いが変だし、ジャークは固唾をのんでいる。
「出来るけど」
「「うわーっ!!」」
俺が頷くと、二人どころか、周りも大騒ぎをしだした。
いったい何なんだよ。俺は困惑してしまうのだった。
―――― ―――― ―――― ――――
※ 魔獣達は魔素が体内に有り、血のように必要なものですが、シャワーを浴びるような感じで、自分で取り込むことはできません。高位の魔獣(ドラゴンなど)は自ら取り込んで使うことができます。
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