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31 ルロイ

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あと2週間で退団する。
そんな時に、キトン村に行くように命令が下り、俺の所属する第3部隊第1小隊は向かうことになった。
キトン村へは行軍で片道6日。村へ着いて何かしらの任務をこなしていると、そこで退団へのタイムリミットが来る。
一瞬断ろうかとも思ったけど、俺はキトン村に行くことにした。それはトニーのいる村に近いから。王都からよりキトン村の方からが、トニーの元に早く帰れる。

キトン村も “魔の森” ほどの大きさはないが、魔獣の住む森と隣接している。村の中には小さなギルドもある。
そこのギルドマスターから騎士団に要請があった『この頃魔獣の動きがおかしい』から調査してくれと。
魔獣のことは、ギルドの方が詳しいように思えるが、森の調査を冒険者はしない。冒険者に払う賃金の出所がないからだ。

魔獣は体内に魔素マナを取り込んだ獣のために、魔素の溢れている森からは出てこない。しかしギルドマスターからの報告では、森の浅い部分で魔獣の目撃報告が頻繁に上がるようになった。そして魔獣の動きが活発になっている。
いつもは群れごとに生活している魔獣達が、他の種族の魔獣と一緒にいることも報告されている。
などなど、もしかしたらスタンピートが起こる前兆ではないかとギルドマスターは危惧していた。

スタンピートとは、魔獣の集団暴走のことで、何時どこで起こるのかは分かっていない。
規模は数頭だったり、何十頭、何百頭だったり様々で、ある日突然、魔獣達が集団で暴走しだす。
どこに向かっているのかは人間には分からない。暴走の先に村や町があっても魔獣達には関係無い。建物を壊し、人を襲い進んで行く。
スタンピートを止めるすべは無いし、方向を変えることも難しい。
なんとかスタンピートを起こさないようにすること。もし起きてしまったら、どうにか村に向かわないようする必要がある。

第1小隊の団員達は、まずは森の下見をすることにした。
森の浅い部分にも魔獣が出没するとのことだから、気を抜くわけにはいかない。

「なあジャーク、この森は魔素が少ないよな。元からこんなに少ないのかな?」
「え、魔素が少ないって?」
俺の問いかけにジャークは不思議そうな顔をした。

俺は “魔の森” で狩りをしていた頃のことを思い出す。
あの頃は、少し高いランクの剣を手に入れたところで、まだ魔獣を簡単に狩ることはできなかった。
慣れた一角ウサギ相手ですら危ない時があったし、初めて相手にする種類の魔獣だった時は、苦戦していた。
一番厄介なのは、魔獣の血を浴びてしまった時だ。

魔獣の血は魔素を含んでいるからなのか、皮膚に触れると激痛が走る。
服についても厄介で、何枚着込んでいようとも、鎧とかではない限り、染み込んで皮膚に達する。

冒険者達は、血を浴びると、すぐに水で洗い流したり、服を着替えたりする。そのために水や替えの服を常時持っておかなければならないから、荷物が多くなるのだと聞いたことがある。
その点俺は、小さい頃から両親あいつらから暴力を振われていたから、痛みには耐性がある。血を浴びても気にしない。皮膚がただれたり、傷になったりはしないから。血を浴びても目とかに入らない限りは、そのままにしていた。
トニーに心配をかけるわけにはいかないから、家に帰る時には、森の外に準備しておいた新しい服に着替えるて、怪我も隠していた。

身体についた魔獣の血を、そのまま放っておくと、付いたはずの血が毎回じゃないけど無くなっていることがある。まるで皮膚に染み込んだみたいに。
そんなことが続いていると、自分の色が、ほんの少しずつだが濃くなっていくのに気づいた。
どんなに日を浴びても焼けなかった肌が、日焼けしたみたいな色になってきたし、元々は淡い金色の髪と薄い青色の瞳が、気づいた時には濃い赤味の強い金髪と深い青色の瞳になっていた。
肌がヒリヒリするとか、視力が悪くなるとかは無いから、気にしなかったけど。

そんなある日、身体の中に熱があることに気が付いた。
この熱は何だろう? 身体の中に血と共に流れているみたいだ。
面白いことに、この熱は自分の意志で動かすことができた。手の先に集めてみたり、身体の周りを覆ってみたり。

ある時、熱を集めて魔獣にぶつけてみた。すると、石をぶつけた時のようなダメージを与えることができた。
俺は剣を使うから遠距離攻撃はできない。魔獣に近づいて直接剣で仕留めるしかない。だが、この熱を使えば遠く離れている魔獣を攻撃できる。
便利! て、思ったけど、使うと減る。
拳大の熱を魔獣にぶつければ、身体の中の熱は無くなってしまう。たった1回しか使えない。
役には立つけど使い勝手は悪かった。

どうにか増やすことはできないのか……。
色々と試してみる。身体に力を入れてみたり、集中してみたり。
そんなことを毎日のように繰り返していたら、息を深く吸うと熱が増えることが分かってきた。普通の呼吸じゃ駄目で、深く腹の底に意識して息を吸い込む。そうすると身体に熱が溜まっていく。

何かを吸い込んだのだろうか? そう思って周りを見回すと、そこら中にキラキラとした光の粒が漂っているのに気が付いた。
もしかして、このキラキラのせい? 意識してキラキラを吸い込んでみると、身体の中の熱が増えた。
やっぱり! このキラキラが熱を増やすみたいだ。熱を使って無くなっても、このキラキラを吸いこめば、また溜まって使うことができる。

俺は無限に使える攻撃手段を手に入れたのだった。

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