31 / 63
31 ルロイ
しおりを挟むあと2週間で退団する。
そんな時に、キトン村に行くように命令が下り、俺の所属する第3部隊第1小隊は向かうことになった。
キトン村へは行軍で片道6日。村へ着いて何かしらの任務をこなしていると、そこで退団へのタイムリミットが来る。
一瞬断ろうかとも思ったけど、俺はキトン村に行くことにした。それはトニーのいる村に近いから。王都からよりキトン村の方からが、トニーの元に早く帰れる。
キトン村も “魔の森” ほどの大きさはないが、魔獣の住む森と隣接している。村の中には小さなギルドもある。
そこのギルドマスターから騎士団に要請があった『この頃魔獣の動きがおかしい』から調査してくれと。
魔獣のことは、ギルドの方が詳しいように思えるが、森の調査を冒険者はしない。冒険者に払う賃金の出所がないからだ。
魔獣は体内に魔素を取り込んだ獣のために、魔素の溢れている森からは出てこない。しかしギルドマスターからの報告では、森の浅い部分で魔獣の目撃報告が頻繁に上がるようになった。そして魔獣の動きが活発になっている。
いつもは群れごとに生活している魔獣達が、他の種族の魔獣と一緒にいることも報告されている。
などなど、もしかしたらスタンピートが起こる前兆ではないかとギルドマスターは危惧していた。
スタンピートとは、魔獣の集団暴走のことで、何時どこで起こるのかは分かっていない。
規模は数頭だったり、何十頭、何百頭だったり様々で、ある日突然、魔獣達が集団で暴走しだす。
どこに向かっているのかは人間には分からない。暴走の先に村や町があっても魔獣達には関係無い。建物を壊し、人を襲い進んで行く。
スタンピートを止めるすべは無いし、方向を変えることも難しい。
なんとかスタンピートを起こさないようにすること。もし起きてしまったら、どうにか村に向かわないようする必要がある。
第1小隊の団員達は、まずは森の下見をすることにした。
森の浅い部分にも魔獣が出没するとのことだから、気を抜くわけにはいかない。
「なあジャーク、この森は魔素が少ないよな。元からこんなに少ないのかな?」
「え、魔素が少ないって?」
俺の問いかけにジャークは不思議そうな顔をした。
俺は “魔の森” で狩りをしていた頃のことを思い出す。
あの頃は、少し高いランクの剣を手に入れたところで、まだ魔獣を簡単に狩ることはできなかった。
慣れた一角ウサギ相手ですら危ない時があったし、初めて相手にする種類の魔獣だった時は、苦戦していた。
一番厄介なのは、魔獣の血を浴びてしまった時だ。
魔獣の血は魔素を含んでいるからなのか、皮膚に触れると激痛が走る。
服についても厄介で、何枚着込んでいようとも、鎧とかではない限り、染み込んで皮膚に達する。
冒険者達は、血を浴びると、すぐに水で洗い流したり、服を着替えたりする。そのために水や替えの服を常時持っておかなければならないから、荷物が多くなるのだと聞いたことがある。
その点俺は、小さい頃から両親から暴力を振われていたから、痛みには耐性がある。血を浴びても気にしない。皮膚が爛れたり、傷になったりはしないから。血を浴びても目とかに入らない限りは、そのままにしていた。
トニーに心配をかけるわけにはいかないから、家に帰る時には、森の外に準備しておいた新しい服に着替えるて、怪我も隠していた。
身体についた魔獣の血を、そのまま放っておくと、付いたはずの血が毎回じゃないけど無くなっていることがある。まるで皮膚に染み込んだみたいに。
そんなことが続いていると、自分の色が、ほんの少しずつだが濃くなっていくのに気づいた。
どんなに日を浴びても焼けなかった肌が、日焼けしたみたいな色になってきたし、元々は淡い金色の髪と薄い青色の瞳が、気づいた時には濃い赤味の強い金髪と深い青色の瞳になっていた。
肌がヒリヒリするとか、視力が悪くなるとかは無いから、気にしなかったけど。
そんなある日、身体の中に熱があることに気が付いた。
この熱は何だろう? 身体の中に血と共に流れているみたいだ。
面白いことに、この熱は自分の意志で動かすことができた。手の先に集めてみたり、身体の周りを覆ってみたり。
ある時、熱を集めて魔獣にぶつけてみた。すると、石をぶつけた時のようなダメージを与えることができた。
俺は剣を使うから遠距離攻撃はできない。魔獣に近づいて直接剣で仕留めるしかない。だが、この熱を使えば遠く離れている魔獣を攻撃できる。
便利! て、思ったけど、使うと減る。
拳大の熱を魔獣にぶつければ、身体の中の熱は無くなってしまう。たった1回しか使えない。
役には立つけど使い勝手は悪かった。
どうにか増やすことはできないのか……。
色々と試してみる。身体に力を入れてみたり、集中してみたり。
そんなことを毎日のように繰り返していたら、息を深く吸うと熱が増えることが分かってきた。普通の呼吸じゃ駄目で、深く腹の底に意識して息を吸い込む。そうすると身体に熱が溜まっていく。
何かを吸い込んだのだろうか? そう思って周りを見回すと、そこら中にキラキラとした光の粒が漂っているのに気が付いた。
もしかして、このキラキラのせい? 意識してキラキラを吸い込んでみると、身体の中の熱が増えた。
やっぱり! このキラキラが熱を増やすみたいだ。熱を使って無くなっても、このキラキラを吸いこめば、また溜まって使うことができる。
俺は無限に使える攻撃手段を手に入れたのだった。
117
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる