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25 ルロイ 

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せっかく帰ろうとしていたのに、誰かに呼ばれた。
会場中がザワザワとしだして、俺に視線が集中する。
辺りを見回すと、会場の前方中央に立っている、太ったおじさんから呼ばれたみたいだった。
全身ジャラジャラと宝石を付けているから、偉い人なんだろう。
しょうがないからそちらに向かう。

「おお、ルロイ殿。この度は素晴らしい活躍だった。このガイドロ領を代表して礼を言わせて貰う」
目の前のおじさんはうやうやしく礼をする。
ガイドロ辺境伯みたいだ。

「おかげで今年度は、ガイドロ領はドラゴンによる被害はゼロだった。なんと素晴らしいことか。ルロイ殿の功績は素晴らしい。皆、この若い英雄を称えて乾杯だ!」
ガイドロ伯がグラスを高く上げると、周りの人達も口々に賞賛の言葉と共に、グラスを掲げる。

俺も乾杯しなきゃいけないの?
帰ろうとしていたから、手に何も持っていないんだけど。少し離れた所から、第1小隊の隊長が、変な動きをしているから見ていたら、どうやら頭を下げろとのジェスチャーらしい。
一応ペコリと頭を下げておく。

「ルロイ殿は、まだ未成年だと聞いておるが、単独で3匹ものドラゴンを倒す程の腕前。誠に素晴らしい。どうだろうか、このガイドロ領に残っていただけないだろうか。勿論、ガイドロ私兵団へ入っていただき、成人されたあかつきには団長になってもらいたい!」
ガイドロ伯の鼻息が荒い。いかにも素晴らしい提案をしたという顔つきだ。
周りの人達も『オオ~、それは素晴らしい』とか『将来の兵団長に乾杯!』とか、訳の分からないことを言っている。

何言ってんだ、こいつら。
こんな場所にいたら、トニーに会いに行くことができないじゃないか。
騙されて契約した期間も1年を切った。もうすぐトニーの元に戻れるというのに。

「嫌です」
「ふぁっ?! い、嫌とは断るということか? まさかな、分かっていないのかもしれないが、ガイドロ私兵団は、騎士団など足元にも及ばない程の待遇なのだぞ。それともあれか、すぐに団長になれないのが不満なのか? わ、分かった、分かったぞ。では、入団と共に団長になることを約束しようっ」
ガイドロ伯は、どうだ! と、胸を張る。

「俺、明日帰りますんで」
俺はペコリと頭を下げる。
そのまま会場を後にしたのだった。



――――  ――――  ――――  ――――

※ 明日(9/2)より、午前10時の投稿を、午後10時に変更します。
  よろしくお願いします。

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