籍を入れて親子になったはずだった。え、結婚って、どういうこと?

棚から現ナマ

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23 ルロイ

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騎士団に入れられてから、俺はトニーになんとか連絡を取りたいと思った。
残念なことにトニーは文字の読み書きができないから、手紙を送っても誰かに読んでもらうしかない。だから俺は村長宛てに手紙を書いた。
村には字が読める人は少なくて、村長の他にはジルのお父さんぐらいしか思い浮かばない。と言っても、ジルのお父さんのことは名前すら知らない。

手紙には『俺は王都に連れて行かれて騎士団に入団させられてしまったけど、2年経ったら必ず戻るから待っていてくれ』と、トニーに伝えてくれるように書いた。
本当はお金も同封したかった。夫婦なのだから、生活費を送るべきだろうと思って。手元には自警団から貰ったお金がある。
だけど思い留まった。お金だけを送ってもトニーは受け取ってはくれないだろう。
給料を貯め続けていけば、トニーの元に戻る2年後には、借金の300万エタが返せるかもしれない。
トニーに直接手渡して、お礼を言いたい。

すぐに村長から返事がきた。
すぐとは言っても、郵便事情は良くないし、王都と村は馬車で片道1週間以上はかかるほどに離れているから、返事を手にするまで1月以上かかった。


「ルロイへ
王都で騎士団に入団したなどと、誰が聞いても分かる嘘をつくのは止めなさい。見栄を張りたいのだろうが、かえって恥をかくだけだ。子どものお前は嘘がバレることはないと思ったのだろうが、こんな田舎の百姓のお前から、王都に行って騎士団に入りましたと言われも、はいそうですかと信じられる訳はないだろう。どんなに足掻いても無理だということは、王都にいるお前自身、身に染みて分かっただろう。
お前は一旗揚げたいと村から出ていったのだから、もう村に戻る気はないだろうし、戻りたくなったとしても、戻るための馬車代を捻出することすら出来ないだろう。そちらで堅実な生活を送りなさい。そしてトニーに手紙を送るのは止めなさい。トニーは、お前の両親から護るために、何の関係も無いお前を引き取って育ててやっていたというのに。それを無下にして、お前は出て行ってしまった。これ以上トニーを煩わせるな。トニーはまだ若い、新しい家庭を持つ方がいい。儂がトニーには気立ての良い嫁さんを紹介してやる。もうトニーとは縁を切りなさい。くれぐれもトニーに金の無心だけはしないように」
「村長、ブッ殺す」
地を這うような声と共に、手紙を握りしめる。

俺はトニーを捨てて村を出たわけじゃない!
無理やり騎士団に入団させられて、トニーの元に帰れなくなったのに。
その原因を作った自警団団長もブッ殺す。

よし決めた。このまま騎士団を全滅させてトニーの元に帰ろう。騎士団に入れられた時に、やっておけば良かった。
騎士団を相手に勝てるとは思っていない。でも俺が子どもだからと、今は皆が手加減してくれているから、そこに付け込んでやる。
最初に騎士団団長を襲って、推薦状を取り返してやる。

そのまま団長室に行き、推薦状を渡せと迫ったら、ジャークとフリックが慌ててやって来た。
ジャークとフリックは騎士団の第5部隊に所属している団員で『ルロイ制止担当』という役割を任されていると言っていた。『ルロイ制止担当』って何だ?

ジャークは、わら束みたいな髪色と淡い緑色の瞳をした、柔らかい感じのお兄さんで、歳は20代前半ぐらい? 団員の中では小柄な方だ。
フリックは濃い茶色の髪に黒っぽい瞳をした、ガタイのいいお兄さんで、ジャークよりも少し年上に見える。
二人は、何も分からない俺の世話を、あれこれと焼いてくれている、いい人達だ。

「どうしたんだ」
「もう帰る」
「帰るって、村にか? ルロイの村は遠いのだろう。急には帰れないぞ。馬車の準備も必要だからな。どうして急に帰ろうと思ったのか、教えてくれないか?」
団長の胸ぐらを掴んでいた俺の手をジャークがそっと離す。

「村長が、村長が……」
ポロポロと涙が頬を伝う。
いきなり騎士団に入れられて、トニーの元に帰れなくなった悔しさとか憤りとかが、とうとう溢れてきてしまった。

「あー、腕っぷしが強くても、まだまだ子どもだもんなぁ」
フリックが俺の頭を撫でる。
その撫で方が、少しトニーに似ていて、なおさら涙が出てくる。

二人がなだめてくれるから、ポツポツと話していく。
筋道を立ててなんて話せないけど、二人は途中で言葉も挟まずに聞いてくれた。

「村長から、そんな手紙がきたのか。村長宛てに騎士団から手紙を出そうか?」
「ううん。たぶん信じてはくれないと思う。年寄りだから思い込んだら話を聞いてくれない所があるんだ」
「そうか。それで、トニーっていうのは誰だ」
「トニーは……。トニーは俺が両親から売られそうになった時、た、助けてくれて。持っていたお金を全部俺の為に……。それにトニーが、い、一緒に住もうって。ちゃんと籍も、籍も入れたのにぃ」
「あーそうか、泣くな、泣くな。トニーは良い奴なんだな」
「そうだよ。トニーは世界一良い奴だし、優しいんだ。それなのに村長が、トニーには新しい嫁を持たせるって、俺はっ、俺は追い出させるんだっ。トニーと一緒にいられなくなるんだぁ!!」
「大丈夫。大丈夫だよ」
ジャークが俺を抱きしめてくれる。

「ルロイは給料の貰える仕事がしたいから自警団に入ろうとしたんだろう。結局は騎士団に入れさせられたけど、今、村に帰ると、また仕事を探さなきゃならないし、騎士団みたいな高級取りは、なかなか無いぞ」
「そうだよ。ここで2年間頑張れば、けっこうなお金が貯まるから、辞めるのはもったいないと思うよ」
フリックとジャークが言うけど、トニーから捨てられたら、本末転倒になる。

「だってトニーが嫁を貰ったら、俺は捨てられる。籍からも追い出させる」
「俺達に任せろ。お前が村に帰るまで、トニーが嫁を貰わないよに、ちゃんと手を回してやるから」
フリックが胸を叩く。

「本当に? 本当にトニーは俺を捨てない?」
「ああ、大丈夫だ、安心して。遠く離れてはいるけど、やり方はあるから。トニーには独身でいてもらおう。ルロイのことを捨てたりなんかさせないよ。それが騎士団の、ひいては国のためになるからな」
ジャークはそう言って笑うと、俺に請け合ってくれたのだった。

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