19 / 63
19 ルロイ
しおりを挟むまずはトニーへ借金を返す。
そのためには、今まで木箱に押し込んでいた魔獣のあれこれを、ギルドに売って金を作る。
トニーが出荷用に使っている荷車を、こっそり借りる。トニーはすでに畑に行っているから、今日は使わないみたいだから、バレないだろう。
ギュウギュウ詰めの木箱は全部で5箱。家の裏から運び出す。
ギルドは隣町の中央にあり、本館と別館の2つの建物がある。本館はけっこう大きな建物で、別館は本館の裏にある。今まで何度もギルドの前を通ったことはあったけど、中に入るのは初めてだ。
まずは本館で、冒険者登録をする。
わざわざ冒険者登録なんかしなくてもいいのだが、登録者しか買い取りをしてもらえない。登録は13歳からしかできないから、13歳まで待っていた。
初めて入ったギルドは、広々としていた。手前には休憩用なのか、椅子やテーブルが何セットも置いてあり、奥にはカウンターがあって職員の人が何人も並んでいる。
いつも人で混雑しているイメージがあったけど、閑散としていた。昼に近い時間だからかな? せいぜい4、5人が壁に貼られた紙を見ているだけだ。
「あの……。冒険者登録をしたいんだけど」
「まあ、いらっしゃい。13歳になったの」
「うん」
一番手前のカウンターにいたお姉さんに登録をお願いする。
「じゃあ、登録者用紙に記入してちょうだい。文字は書ける? こちらで書いた方がいいなら、私が書いてもいいわよ」
「大丈夫」
お姉さんが渡してくれた用紙に、名前や生年月日なんかを書き込んでいく。
「はい、ちゃんと書けているわ。じゃあ、これが冒険者カードよ、無くさないようにね。無くしちゃうと再発行にお金がかかるのよ。今日はどうする? もう依頼を受ける? 依頼は壁に貼ってあるから、自分で選んでいいのよ」
お姉さんから、小さな木の板を渡される。
ギルドカードだ。名前とランクが書かれている。ランクは未成年だと “G” スタート。ランクが上がれば、カードも木の板から色々な金属に変わっていくと、お姉さんが説明してくれた。
冒険者に興味は無いから、どうでもいいけど。
「ううん。買い取ってほしい物があって来たんだ」
「買い取りなのね。じゃあ、裏に回って別館に行ってもらえる。解体や買い取りは、そこでやっているの」
俺は頷くと、別館へと向かう。
別館は本館の影になって見えなかったけど、本館よりも大きいかもしれない。入り口から中を覗くと、何人もの男性が、作業をしていた。
「どうした坊主。何か用か?」
覗き込んでいた俺に気づいたのか、手前にいたおじさんが声をかけてくれる。
「売りたい物があるんだけど」
「おお、買い取りか。もう登録はしているのか?」
「うん」
俺は貰ったばかりのギルドカードを渡す。
「それじゃカードは預かるな。品物は……。もしかして、その荷車に乗っている木箱全部か?」
「うん」
「量が多いな。おーいっ、手の空いている奴はこっちに来てくれ」
おじさんの呼びかけに数人の男の人達が集まって来る。
「じゃあ、坊主はちょっと待っていてくれ」
「うん」
俺は空になった荷車を引いて、別館の外で待つことにした。
数十分後、とぼとぼと家へと帰る。
ギルドに向かった時は、これでトニーに借金が返せると思ったのに。
もしかしたら、300万エタ以上のお金を手にすることができて、トニーにプレゼントが買えるかもしれないって、浮かれていたのに。
買い取ってもらった金額は、500エタ。木箱5箱分の金額。
ぼったくられた訳でも、子どもだと蔑ろにされたわけでもない。
俺が何も知らなかったから。
保存状態が余りにも悪すぎた。
捕ってきた品物を、ただ箱に突っ込んでいただけ。一応蓋はしていたけど、家の外に置いていたから、中に雨水が入り込んでいた。
解体の仕方なんて知らなかったから、血がついたままだし、汚れたままだった。ボロボロな上に、カビまで生えていた。
全部が商品にならなかった。
本当は0エタだったんだろうけど、せっかく子どもが持ってきたのだからと、解体係のおじさんが、ポケットマネーを出してくれたのだと思う。
俺はまだ無職のヒモのままだった。
80
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる