籍を入れて親子になったはずだった。え、結婚って、どういうこと？

１７ ルロイ

とうとう待ちに待ったこの日がやってきた。肉を食べ続けた甲斐があった。
俺は精通した！
トムの言っていた白いのが出るってやつだ。
朝起きたらパンツが酷いことになっていて焦った。
トニーに知られるのが恥ずかしくて、こっそりパンツを洗った。

嬉しい。
これで、やっとトニーと本当の夫婦になれる。待ち望んだエッチができる。
少しでも早くエッチをしたい。

「トニー……」
黒パンとスープ。いつものメニューの朝食が目の前に並んでいる。
席に着くと、俺はすぐにトニーに伝えることにした。

「ん、どうした？　ほら、早く食わないと、ジルが迎えに来るぞ」
「う、うん。あの、俺……」
駄目だ。どうしても恥ずかしい。
言うどころか、トニーの顔すら見ることができない。
精通したからエッチしようって言いたいのに。本当の夫婦になろうって言いたいのに。

俯いたまま味のしない朝食を食べる。
とうとう言えないまま、食べ終わってしまうと、トニーはいつも通りに、畑に行ってしまった。

駄目じゃん俺。ガックリと肩を落とす。
俺も今日は週に１度の教会に勉強を習いに行く日だから、朝から隣村に行かなきゃならない。帰ってくるのは夕方だ。

よし。帰ったら今度こそ言う。絶対トニーに伝えて、寝る時にエッチをしよう。
そう考えたら、凄く楽しみになった。
すぐにジルが呼びに来たから、一緒に教会へと向かった。
教会では、ジルといつもの席に座って勉強を習うけど、浮かれてしまって勉強が手につかない。

「今日は、えらくご機嫌だな」
「まあな、ジルはエッチの……。あ、いや、何でもない」
「なんだ？」
思わずジルに、エッチのやり方を聞こうかとして止める。
ジルも斜め前に座っているトムも、結婚していないから、エッチをしたことはないだろう。
大丈夫、俺はできる！　自分に気合を入れる。


「もうねぇ最悪。結婚したばっかりだっていうのにさ」
「なになに、どうしたの？」
後ろの席に座っている女の子達の話し声が聞こえてきた。

小さな声でコソコソと話しているけど、俺には聞き取ることができる。
魔の森で狩りをするようになってから、耳がよく聞こえるようになったし、目も遠くまで見えるようになった。なぜだかは分からないけど。
結婚という言葉が聞こえたから気になって、聞き耳を立てる。

「姉ちゃんがさぁ、もう離婚するかもしれないの」
「ええっ。ターラのお姉さんって、お父さんの反対を押し切って、駆け落ち同然で熱烈恋愛結婚をしたって言ってなかった？」
「そうなのよ。やっぱり父さんが反対するだけあったってことなの。訳アリ男だったのよ」
「訳アリって？」
「借金があったのを隠していたのよ」
「うっわ、最悪ぅ」
二人の言葉に、ビクッと肩が跳ね上がる。

最悪。その言葉が俺に突き刺さった。だって俺にも借金がある。
トニーに、まだ３００万エタを返していない。ついついランクが高い剣を買うことを優先してしまって、トニーには、まだ１エタも返していない。
借金もちの俺は訳アリだったのか……。
精通したことに浮かれていた心が、一気にしぼんでいく。

「それにさ、職無しのヒモだったのよ。姉ちゃんを働かせて、自分は日がな一日遊んでいるのよ、信じられる？」
「ヤダヤダ、もうそれって結婚詐欺だよ」
「だよねぇ」
二人の会話は俺にとどめを刺す。

俺は、まだ働いていない。トニーに生活の全てを頼っている。
無職のヒモだった。
なんてことだ。俺はトニーと結婚して嬉しかったけど、トニーは結婚詐欺にあった被害者だったのか。
肉を食べて精通すれば、全てがうまくいくなんて、とんでもない。

情けなさすぎる。
俺がトニーに、本当の夫婦になろうって言っても、拒否されるに決まっている。
どうすればいいんだ。
俺は頭を抱えてしまうのだった。