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15 ルロイ
しおりを挟む魔獣を狩るようになったけど、そんなに簡単にはいかない。
2、3日に1匹捕れればいい方だ。
それでも捕れた魔獣は隣村の肉屋に持って行くと、喜んで引き取ってもらえる。
だけど、魔獣の血は魔素が多く含まれていて危険だから、そのまま持って行くと値段が安い。
俺は肉屋の親父さんに頼んで、魔獣の捌き方を教わった。その代わり、捕ってきた魔獣の肉は必ず親父さんの肉屋に売るって約束をした。魔獣の肉は、なかなか手に入らない希少な物だから、他の肉屋に持って行かれたくはないらしい。レベルの低い一角ウサギの肉でも喜ばれる。
その時に、トニーに心配をかけたくないから、俺が肉を売りにきていることは絶対に言わないでくれと念を押してお願いした。
冒険者は魔の森に魔獣を狩りに行くけど、牙や爪、毛皮なんかを採取するのが目的だから、肉を持ち帰ることは、ほぼ無い。
肉を持ち歩いていると匂いにつられて他の魔獣が集まって来るからだ。
森の奥に行けば行くほど、肉を持っていると危険だ。
そのため、森の中で食事をする時は、匂いの極力しないパンや干し肉を食べるそうだ。
俺みたいに森の入り口で、一角ウサギの肉を目的に狩りをすれば、日銭ぐらいは稼げると思うかもしれないけど、それをやる冒険者はいない。余りにも非効率だから。
森の浅い部分に魔獣が出てくるのは稀だ。俺が一角ウサギを2、3日に1匹しか狩れないのは、そのためだ。
魔獣を多く狩るためには森の奥に入る必要がでてくるけど、一角ウサギは群れを作る習性がある。
1匹なら小刀しか持っていない俺でもなんとか仕留めることが出来るけど、俊敏な一角ウサギに集団で襲われたら、命が危ない。
俺は地道に一角ウサギを狩っていった。途中から捌き方を教わって、肉を売る金が高くなった。2ヶ月を過ぎた頃には、なんとか剣を手に入れるための金を貯めることが出来たから、トムが冒険者達の使っている武器屋に連れて行ってくれた。
剣と言っても一番安物しか買えなかった。でも、小刀しか持っていない俺にすれば、もの凄く狩りやすくなった。
俺はチビだから、長剣を扱うのは、なかなかに難しかったけど、すぐに慣れた。
それからは俺の狩りのやり方は変わった。
森の少し奥に行っては、集団の一角ウサギを見つけた瞬間に逃げる。
一角ウサギがこちらに気づく時は、まだ随分と距離があるから、逃げることができる。
逃げて、逃げて、森の外へと向かって逃げていくと、追って来る一角ウサギの数は減ってくるから、1、2匹になったら狩る。
剣を手に入れてから、一角ウサギだったら2匹ぐらいは同時に倒すことができるようになった。
これだったら毎日のように狩りができる。
うまくいけば、1日に2匹、3匹と仕留めることが出来るようになってきた。
だけど問題も出てきた。
剣をどこに隠すかだ。
トニーにバレるわけにはいかない。トニーには罠を仕掛けて魔獣を仕留めていると嘘をついているから。
トニーに嘘をつくなんて、本当はしたくないけど、魔の森に行くことを禁止されると困る。
俺が剣で魔獣を狩っていると知ったら、心配しすぎて泣かれるかもしれない。
トニーは俺のことを心の底から案じてくれる。心配してくれる度に、嬉しくて胸がむずがゆくなってしまう。
早く本当の夫婦になりたい。エッチしたい。
それなのに俺には、まだ精通がきていない。
でも夫婦だから、いつまでも『トニー兄ちゃん』じゃおかしい。だから『トニー』って呼ぶことにした。
最初呼ぶ時には照れてしまったけど、トニーも驚いたのか変な顔をしていた。
剣を家の中に持ち込むことはできない。考えた俺は、家の裏に隠すことにした。
トニーの来ない場所に木箱を置いて、その中に布に包んだ剣を隠す。
狩りに行く前に家の裏から剣を取り出して、帰って来たら、また剣を隠す。ちょっと面倒くさいけど、見つかるわけにはいかない。
剣を買ってから、やっと肉を持って帰れるようになった。
早く精通がくるように、肉を食べて成長する。そして本当の夫婦になる。
そのために俺は頑張る。
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