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12 ルロイ
しおりを挟むどうしてトニー兄ちゃんはエッチをしてくれなかったんだろう。
俺のせい? 俺の何がいけなかった?
昨日から、そればかりを、ずうぅっと考えている。
「どうやったらエッチできるんだろう……」
「えっ、ルロイってば、エッチしたいの?」
あんまりにも考えすぎて、言葉が漏れていたみたいで、隣にいたジルに聞こえてしまった。
今日はジルと一緒に隣村の教会まできている。
隣の村と言っても村同士は隣接しているから、子どもの足でもすぐに行くことができる。
なぜ村が隣同士にあるのかというと、俺達の住んでいる村の外に “冒険者ギルド” ができて、そこに人が集まるようになって新しい村ができたから。
冒険者ギルドは村の近くにある “魔の森” に生えている希少な植物を採取したり、魔獣を狩ったりする冒険者達のために作られた。
もともと村に住んでいたのは、百姓や木こりを生業にしている、魔の森には関係のない人達だったから、村の中にギルドを作るのは如何なものかということになり、村の外に作られた。でも冒険者相手の宿屋や飲食店、武器屋なんかが出来てきて “村” になった。
俺達の村よりも、ずっと発展している。
隣村には教会もある。
冒険者の仕事は命がけのものが多いから、ギルドが誘致した。
本教会からお年寄りの牧師さんが派遣されて来たけど、その牧師さんは良い人で、週に1度、無料で読み書きや計算を教えてくれている。それも子どもだけじゃなくて、学びたい人は誰でも参加できる。
俺とジルも毎週教会に通っている。
俺は教会に行くよりも、トニー兄ちゃんの仕事の手伝いをしたかったけど、毎回トニー兄ちゃんから家を追い出されている。
「お前、エッチは大人しかできないんだぞ、知らないのかよ」
礼拝堂で俺達の前の椅子に座っていたトムにも、俺達の話が聞こえたらしい。
わざわざ振り返って、話に加わってくる。
トムは隣村にある肉屋の息子で、俺よりも1歳年上でジルと同い年だ。凄く体格がいい。デブともいう。
トムも毎週教会に来ているから顔なじみといえる。仲は良くないけど。
「まあ、俺はもうできるけどな!」
トムはプヨンプヨンの胸を張る。
「なんだよ、トムは大人だって言いたいのかよ。お前が大人なら、俺だって大人だぜ」
「何で、大人しかエッチできないんだよ」
ジルと俺は同時にトムに疑問を投げかける。
「フフン。何も知らない君たちに、大人の俺が教えてやろう。顔を近づけろ」
トムが手招きをするから、俺とジルは顔を寄せる。
「いいか、よく聞け、俺はセーツーしたから大人になったんだ。だからエッチができる!」
「なんだって!」
「セーツーって何だ? それをしたら大人になるのか?」
ヒソヒソ声で話すトムの言っていることが、俺には分からない。でもジルには分かったようで、目を見開いている。
「お前精通したのかよ!」
「声がでかいっ」
ジルが大きな声を出したから、周りにいた何人かがこっちを見た。
慌ててトムがジルの口をふさぐ。
「おかげさまでな。お前達と違って、俺は一足先に大人になったってわけだ。それにしてもルロイってば精通も知らないのかよ。チンチンからオシッコじゃなくて、白いのが出るようになるんだ。それが出ないとエッチはできないんだぜ」
「え、え、え……。本当に?」
トムの言っていることが本当ならば、俺には精通はきていない。だってオシッコしか出ないもん。
「まあな、精通しないとエッチはできないな」
「そんな……」
頷くジルを見て俺はがくぜんとする。
じゃあ、トニー兄ちゃんは、エッチをしてくれなかったじゃなくて、俺のせいで、できなかったってことなのか。
「じゃあさ、俺はいつ精通するんだ?」
「声がでかいって!」
トムが今度は俺の口を塞ぐ。
「うーん、俺もまだだけど、こればっかりは人それぞれだからなぁ。だけどルロイはもうちょっとかかるんじゃないかなぁ?」
「どうして?」
もうトニー兄ちゃんと結婚したのに。それなのにエッチができないなんて。
「ルロイはほら、俺達より小さいから……」
言いにくそうにジルが言ったことは本当だ。俺は人よりも成長が遅い。
両親のせいだ。ろくに食事をさせてくれなかったから、俺は栄養失調だった。同年代の子ども達の中で一番小さい。
じゃあ俺が大きくなって精通するまで、エッチはできないってこと?
俺のせいでエッチができないなんて。
俺は目の前が真っ暗になるのだった。
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