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53. 王妃イザベラ①

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恨んでやる。恨んでやる。恨んでやる……

何度呪詛を唱えようと、イザベラの心は荒んでいくだけだ。
イザベラは、ここジンギシャール国に25歳の時に嫁いできた。
ノーシスア帝国の姫君として、何不自由のない生活をしていたイザベラは、田舎の何の取りえも無い小さな国に嫁ぐなど、夢にも思っていなかった。

25歳と、とうに結婚適齢期を過ぎてはいたが、ある日突然に、追い出されるようにしてノーシスア帝国から嫁にと出されたのだ。
将来嫁ぐならばと、小さい頃から夢見ていた、純白のドレスや豪華なティアラ。何連も連なったダイヤのネックレス。それらの物は何1つ持たされなかった。
何も無かったのだっ。

着いた先のジンギシャールの国で行われた結婚式も、とても王族の式とは思えない程の質素なものだった。
お仕着せのようなドレスを着せられ、おもちゃのようなアクセサリーを付けさせられた。

馬鹿にしている。
あまりにもバカにしている。イザベラはノーシスア帝国の姫だというのに。

周りの者達は全てが、よそよそしい。
夫となった国王もよそよそしく、イザベラのことを大切にしようとはしなかった。
極力関わりあおうとはしていないようで、たった3夜だけ。3度しか閨を共にすることは無かった。

それでも、すぐに妊娠が判り、クリストファー第1王子を産んだ。
跡取りを。王位継承者を産んだのだ。
それなのに、この国の者達は、喜びもしない。
この国の国王になる子を産んだのに。
はらわたが煮えくり返る程の怒りがイザベラを襲った。
クリストファーが国王に似ていないなどとなことを煩く騒ぐ周りの者達に、殺意さえわいた。

それでも、王子を産んだのだ。
この子が国王になれば、この国は自分のもの。
自分の思い通りになるだろう。

今は、ドレス1着、宝石1つ買うのにも、口うるさく文句を付けられて、思うように手元に取り寄せることができない。
こんなしみったれた王宮はクリストファーが国王になって、壊してしまえばいいのだ。

不満だらけのイザベラだったが、それでも自分の息子が王位継承するまでと我慢をしていた。
それなのに……


なんのパーティーだったか。そんな重要なパーティーでも無かったし、規模が大きなパーティーでもなかった。
ただ、王家主催のパーティーだといわれ、クリストファーと共に参加するようにと念を押された。

いつもの退屈なパーティーだった、なんの変哲もない。
そう思っていたのに。
国王がいきなり宣言したのだ。自分の息子を紹介すると。

そして、国王の後ろから出てきた子どもに、周りの者達が驚愕の目を向ける。
その子どもは、国王に瓜二つだったのだ。
金の髪に紫の瞳。顔立ちから立ち姿まで。
国王とその子どもは、誰が何と言おうと、親子だと判る。
それほどに似た二人だった。

それからのことをイザベラはあまり憶えていない。
歓声に包まれる会場。
臣下の者達が先を争って寿ことほぎを述べる。
周りのあまりの興奮に、怯える子どもの肩を、さも大事そうに抱える国王。
それら全てがイザベラの目の前で繰り広げられたのだ。

何も聞いていないっ!
イザベラは何一つ聞いていなかったのだ。
国王に子どもが、クリストファー以外の子どもがいるなどと、聞いてはいなかった。
怒りのあまり、イザベラの目の前は暗くなる。
その場で気を失ったのかもしれない。次に目覚めたのは、自分の部屋のベッドの上だったのだから。


イザベラはイライラと美しく整えられた爪を噛む。
あれはラーラの子どもなのだろうか。
やはりラーラを殺しておくべきだった。

イザベラはラーラに壮絶で陰湿な虐めをおこなっていた。
執拗に繰り返して。

国王やその側近の男たちは、ラーラを守ると、いつでも頼ってくれと、正義面をして言っていた。
本当にバカ。
虐められている者が、正直に虐められていますなどと言えるはずが無いのに。
何も判っていない。

人に言えないような事をされるから虐めなのに。
人に知られるぐらいなら、虐めに耐えた方がましだと思えるような事をされるのが虐めなのに。
何にも気づきはしなかった。

国王の寝室だけを守っていればいいなんて。
あの側近達は、どれだけバカだったのか。
女性しか入れない場所はいくらでもあるのに。
浴室だって、お手洗いだって、更衣室だって。
どれだけラーラが泣いたって、どれだけラーラが許しを請うていたって、誰1人ラーラを助けには来なかった。守ると言ったバカどもがラーラの元に現れることはなかったのだ。

ラーラの心が折れるのは、早かった。
イザベラの言うがままだった。
当たり前だ、壮絶な虐めを受け、正常な判断が出来る者などいるはずはないから。

ラーラの存在が邪魔なイザベラは、ラーラを宮殿から追い出すことにした。
簡単なことだ。
ラーラ本人が宮殿から出て行けばいいのだから。
イザベラはラーラに命令さえすればよかった。

宮殿から出奔したラーラを王宮の者たちから隠すため、イザベラが手を尽くしてやった。
誰も知りえない遠くの場所に放り出してやったのだ。
心優しいイザベラは、お情け程度の金も持たせてやった。

殺しておけばよかった!
まさかラーラが妊娠しているなどと、思いもしていなかった。

ラーラは腹の子どもを守るため、イザベラの言いなりになっていたのだろう。
我が身より、子どもを守るために。

どうしてくれようか。
ラーラの時は温情をかけすぎた。ラーラを殺しておかなかったツケがきたのだ。
あの子どもはクリストファーの邪魔にしかならない。
やはり殺すしかない。

イザベラは固く決心したのだった。


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