聖女だったけど魔王にジョブチェンジしました。魔獣たちとほっこり生活を満喫します。

棚から現ナマ

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Ⅲ これからの魔王

十三.町でのリーリア

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ギーフの町は賑わっている。
初めて来た街並みに、ギルフォードはキョロキョロと辺りを見回す。
この町は魔の森に隣接しているため、魔の森の獣や魔獣を相手にする冒険者が多く拠点としている。
そのため、そこかしこに冒険者相手の店があるのだ。

武器屋や防具屋、宿屋に薬屋。様々な店が軒を並べている。
そんな中、リーリアの店。といっても、レジャーシートを敷いただけの露店なのだが、結構な賑わいを見せている。
リーリアが作るポーションは、低料金なのに効果大なのだ。
評判は口コミで広がっていき、今では店が開くのを客の方が待っているぐらいだ。

リーリアも売りに出すポーションの数を増やしていた。
リーリア一人では、週に20本のポーションを作るのが精いっぱいだったが、ポーションは魔の森に生えているペンペン草を取ってきて、って、しただけのものだ。
リーリア以外、作れないというわけではない。誰でもつくれるのだ。

ペンペン草はギルフォードがお手伝いの一環として、魔の森から採ってきてくれるし、シアが夕飯の増量目的で、すり鉢で擂ってくれる。
リーリアは、できたポーションを濾しながら瓶に詰めるだけでいいのだ。
魔王が魔力を込めたりしてはいない、手抜きポーションだが、魔の森に自生しているペンペン草のポーションは、教会の聖女たちが、育成しているペンペン草より、よっぽど効果があるのだった。

魔の森の中には、ペンペン草は、雑草として、たくさん生えているし、ペンペン草はものすごく固いのだが、シアの触手にかかれば、すり鉢で擂るぐらい、どおってことはない。
今では、倍以上の数のポーションをリーリアは販売することができているのだ。

当初、リーリアの薬屋は、閑古鳥が鳴いていた。
なぜなら、店主のリーリアの後ろには、ゴツイ護衛が二人も立っているため、お客が怖がって、店に近づかなかったからだ。
どうにか護衛を辞めさせようとリーリアは頑張ったのだが、護衛に聞く耳はなかった。
仕方なくリーリアは、どうにか別の方向からお客を呼ぼうと、ポップを置いたり、自らが呼び込みをしてみたりと、色々な努力をしたのだ。

もともとが教会のポーションより安い値段で売っているのに、効果が高いポーションだ。一度でも使った客は、次からは、自ら足を運んで来てくれるようになった。徐々にだが、お客が増えてきたのだ。

毎回毎回店番をするうちに、リーリアも大分人馴れしてきた。
大きな声を出して呼び込みもできるようになったし、お客と世間話もできるようになってきた。
顔見知りのお客も多くなってきて、リーリアのお店は繁盛店へとなっていったのだ。

「リーリアちゃん、ポーション2本ね」
「毎度ありがとうございます」
「いやぁ、リーリアちゃんの店が開いていて良かったよ。他の店のポーションは効果がイマイチだからねぇ」
「そう言ってもらえて、嬉しいです」
「ホントホント。感謝してるんだよ。どうだい、今度一緒に「ゴホンッ」」
いきなりリーリアの背後から、わざとらしく大きな咳払いが聞こえてくる。お客がこわごわとそちらを見ると、案の定リーリアの背後から、鬼のような形相をした護衛がこちらを睨んでいる。お客は慌てて買ったばかりのポーションを持って、店から遠ざかっていく。
「ありがとうございましたー」
お客の背中に声をかけるリーリアには、一連の出来事は毎度のことらしく、まるで気にしている様子はない。

「リーリア様、もう完売ですか?」
リーリアの後ろに立つ護衛の一人、ワッツが声をかけてくる。
ワッツはターダイアル国の第1騎士団で団長をしている程の猛者だ。体格もよく、顔も強面だ。この顔で睨まれたならば、どんな男性でもビビッてしまう。
しかし、今回お客を睨んでいたのはワッツではない。
ワッツは隣に立つ自分の部下に視線を向ける。
第1騎士団副団長のガーイナだ。
いつもは寡黙で、あまり表情を変えることがない自分の部下は、リーリアが絡むと、面白いほどに感情的になる。
今もお客が去った方を忌々しそうに睨んでいる。
微笑ましい思いに、ワッツの顔はほころぶ。

「リーリア様、後片付けは私がやっておきます」
「いえ、あの、後片付けは、あの」
ワッツの言葉に、あからさまにリーリアは挙動不審になる。
「リーリア、行こう」
「……うん」
ガーイナが差し出す手に、リーリアは赤い顔をして、そっと手を伸ばす。
二人は、ワッツを残して歩き出す。
今日は若い女性に人気のドレスショップにリーリアを連れて行くのだとガーイナが張り切っていたのをワッツは思いだす。

「いやぁ、青春ですねぇ。羨ましい限りです」
今まで置物のように大人しくしていた陽太が二人の背中を見送っている。
本当ならば送迎とは別に、サポート料金を受け取っている陽太にすれば、リーリアに付き添うべきなのだろうが、陽太はステルスから口酸っぱく、リーリアとガーイナの邪魔をするなと言われているのだ。

「良かった。ガーイナが笑えるようになって、良かった」
テキパキとレジャーシートを片づけながら、ワッツは陽太への返事なのか、しみじみと独り言ちている。
王家より勅命を受け、魔の森へと聖女リーリアを捜索した際、6名もの仲間を失った。
仲間を失った悲しみと、王家への不信感。
若いガーイナの心に、暗い影が出来てしまっても、仕方の無いことだったのだ。
だが、今ガーイナは、リーリアと幸せそうに笑いあっている。
ワッツは、自分の部下というよりは、年の離れた弟のことを気にかける兄のような、そんな心持になっているのだった。

因みに陽太は店じまいの手伝いはしない。だって、三河屋の送迎サービスに、お店の手伝いは入っていないのだから。


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