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Ⅲ これからの魔王
一.魔王は平常運転
しおりを挟む「フフフ。今日こそは人間どもを、この魔王リーリア様が地獄へと突き落としてくれるわっ」
「ききゅっ」
「きゅうっ」
腰に手を当て、高笑いする魔王リーリアに掛け声とともに拍手を送るマンドラゴラ夫婦。
慌ててギルも一緒になって、拍手を送る。
団体行動は乱してはならない。
前世サラリーマンだったギルは、空気を読む社畜だったのだ。
「これを見なさいっ。こんな不気味な植物を見たことがあって?」
濃い緑色の草をリーリアは掲げる。
肉厚の葉には棘が両側についている。
「見た目だけじゃないのよっ」
手にもっていた葉をパキリと2つに折り割る。葉からはトロリと粘りのある液体が出てくる。
ギルはその様子を見ながら、既視感を憶える。
(あれって…)
前世の幼いころ、火傷をした時、祖母からアレを使い治療を受けた記憶がある。
「ウフフフ、魔の森の中で探したわ。探して、探して……やっと見つけたのよ。
図鑑を見て、“これだっ”て思ったわ。探し求めて、やっと見つけだしたのよ。
どう、素晴らしいでしょう。『アロエ』っていうのよ。
見て、このドロドロとした毒液。これを使って毒薬を作るわ。人間なんて、イチコロのヤツをねっ!」
またもリーリアは腰に手を当て、高笑いを始める。
(それって、ただの薬が出来るやつ)
思うが口にはできないギルフォードだった。
それから少しして、それは出来上がった。
≪名称:回復薬“高”
効能:裂傷の修復、やけどの回復
効果:大
特徴:生きとし生けるもの全てに効果有≫
ガックリとその場に膝をつくリーリアを横目に見ながらギルフォードはため息を吐くが、ある意味リーリアは平常運転で安心して見ていられる。
ふと、先日のことを思い出す。
女神オフィーリアに会った時のことを。
マンドラゴラ夫婦と一緒になって喜んでいるリーリアに分からないように、ギルフォードは女神オフィーリアから呼ばれた。
そしてリーリアのことを頼まれたのだ。
『これからリーリアは変わっていくと思うわ。だから、ギルフォードが守ってあげてね』
「え、リーリアが変わっていく? 守る?」
オフィーリアからの言葉の意味が分からず、ギルフォードは首を傾げる。
「リーリアが変わってしまうって、どんな風に変るの? リーリアは大丈夫なの?」
心配になったギルフォードは、女神オフィーリアに縋るようにして問いかける。
半透明の女神オフィーリアには触れることすらできないのだが。
リーリアは自分を助けてくれた上に、こうやって生活の面倒もみてくれている。ギルフォードにとっては恩人なのだ。
それに、助けて貰っただけではなく、ギルフォードと仲間になってくれた。家族になってくれた。リーリアは大切な仲間であり大好きな家族なのだ。
そのリーリアが困ることになるのならば、自分は出来る限りの手助けをしたいと思ったのだ。
『落ち着いてちょうだい。リーリアはいい方向へと変わっていくと私は思っているのよ。だから、リーリアが変わることを止めようとは思わないの。リーリアには幸せになってほしいから』
女神オフィーリアは、ギルフォードの知りたいことを答えてはくれない。
女神オフィーリアが、リーリアに分からないよう自分を呼んだのだから、それはリーリアに知らせることではないのだろう。
リーリアが変わることを、本人が気づかないのだろうか。分からないのだろうか。
どんな風に?
俺はどうすればいい?
「俺はどうすれば……」
困惑するギルフォードに、女神オフィーリアは柔らかい微笑みを浮かべる。
『あなたにお願いしたいのは、リーリアの意志を尊重してほしいこと。そして、リーリアを守ってほしいこと。
色々なものからね。外敵もそうだし、リーリア自身の心からもね」
「リーリアの心?」
『そう。リーリアは小さい頃から、自分の意志とは関係なしに人生を決められてきたわ。だから、自分の望みを通していいのかが分からないの。
遠慮もするし、自分がやりたいことが分からない時があるのよ。だから、ギルフォードに、リーリアの背中を押してほしいの』
「リーリアの心……」
『リーリアの選択を、どうか非難しないでほしいの』
「え?」
女神オフィーリアは、何と言った?
これからリーリアはどうなっていくのか。ギルフォードが非難するような、そんな変化をリーリアはしてしてしまうのだろうか。
「オフィーリア様、リーリアは「オフィーリア様っ、ドラ子ちゃんの蕾の色が分かりましたっ!」
困惑したギルフォードの声をリーリアの明るい声が遮る。
『まあ、どんな色なのかしら。私にも見せてちょうだい』
フワフワと女神オフィーリアもリーリア達の方へと移動していってしまった。
取り残されたギルフォードは、ただ立ち尽くす。
これから先、どうすればいいのか。
そして、緩くかぶりを振る。
どうすればいいのか、それは女神オフィーリアが言っていたではないか。
自分は、リーリアを守るだけ。
リーリアの心も身体も守る。それがギルフォードのすべきことだ。
「リーリアっ、俺にも見せてっ」
ギルフォードは顔を上げると、リーリアやマンドラゴラ夫婦の元へと駆けだすのだった。
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