聖女だったけど魔王にジョブチェンジしました。魔獣たちとほっこり生活を満喫します。

棚から現ナマ

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Ⅱ 魔王の日常

⑩.魔神オフィーリア-2/2

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全身が淡く輝いている女神オフィーリアは、リーリア達へと微笑みかける。
「どう、頑張っている?」
問いかける声さえもが神々しく心洗われる。

「はいっ。人間どもを根絶するために、日夜頑張っておりますっ」
オフィーリアの問いに、ビジッと敬礼をして答えるリーリア。

「ききゅう」
「きゅっきゅ」
マンドラゴラ夫婦も手を上げ、飛び跳ねてまで一生懸命に返事をしている。

「ウフフフ、そうなの、頼もしいわね。
私の神通力がもう少し強かったなら、皆に苦労はかけなかったのにねぇ。
作物の豊穣とか、病気平癒とか、そんな力しかないなんて、歯がゆいわぁ」
オフィーリアは魔神バージョンなのか、へんにノリがいい。
オフィーリアが本当に人間の殲滅を望んでいるのかは分からないが、リーリアと話を合わせてくれている。

「何をおっしゃるのですかっ。私たちの努力が足りないのです。オフィーリア様に安心していただけるよう、一層頑張ります」
リーリアは真面目な顔のまま答えると、自分の後ろにいるギルフォードを前に来るように促す。

「あの、今日はギルフォードを紹介しようと連れてきました。魔王への生贄として献上された人間の子どもで、今、魔王城で預かっております」
本当ならば、一生目にすることすら出来ない女神の前に押し出され、ギルフォードはどうすればいいのか、ただ固まってしまっている。
もし魔神オフィーリアが、人間の殲滅を目的としているのなら、自分は一番に、オフィーリアにより、神罰を下されるのではないだろうか。

「まあ、可愛らしい男の子ね。よろしくね」
美しい女神はギルへと微笑みかける。
女神オフィーリアは、人間を処分しようとしているのか、オフィーリアの心は分からない。
ギルフォードはオフィーリアにどういう態度をとればいいのだろうか。

「あ、あの、俺、人間なんですけど」
「まあ、ウフフフ。分っているわよ」
オフィーリアは可笑しそうに笑う。朗らかに笑うオフィーリアを見て、ホッと肩の力を抜くギルフォードだった。

ギルフォードは思う。
リーリアはオフィーリアのことを魔神だという。
そしてオフィーリアも決して人間の味方をしているようには見えない。
ギルフォードがこの世界に移転してきて、そんなに長い時間は経っていない。だが、この世界で一度たりとも作物の出来が豊作であった年を知らない。それどころか、年々収穫量は減ってきているような気がする。村の者達はいつも厳しい顔をしていた。

もしかして、豊穣の女神オフィーリアは人間を見限ったのだろうか。女神は魔神へと変わってしまったのだろうか。
人間が女神オフィーリアを失ったのだとしたら、この国は… いや、この大陸はリーリアが願うように、滅亡へと進んでいくだろう。
ただリーリアが思うように一気にではなく、徐々にだが。

人間は気が付いていないだけで、この大陸で人間が生きていけているのは、ただ単に運がいいだけなのかもしれない。
愚かな人間は、いつ神に見限られたのだろうか。
神から見限られるような、どんな罪を人間は犯してしまったのだろうか。
ギルフォードは、慈愛の美しい微笑みを浮かべるオフィーリアを、ただ見つづけることだけしかできなかった。


「まあ、このお野菜は、とても精気に溢れているわ。こんなに立派な物をありがとう」
オフィーリアがお供え物の大根と人参を見て、礼を言っている。
マンドラゴラ夫婦が自宅で自らの手で、精魂込めて栽培したものだ。
められた2匹は、モジモジと身体を捩らせて、嬉しそうだ。

「さあ、カードを出しなさい」
オフィーリアの言葉に、マンドラゴラ夫婦は自分の首にかけていたカードを差し出す。
1辺が10cm程度の真四角のカードには何個ものハンコが押してある。

ポイントカード? どちらかと言えば、ラジオ体操の参加カードに見える。
ゴラ男のカードにオフィーリアがハンコを押すのを見て、ギルは思わず突っ込む。
“シャチハタかよっ!”

「はーい次ぃ。まあっ、ドラ子ちゃん、今回でカードが一杯になったわよ。おめでとう」
「きゅきゅきゅーっ!」
オフィーリアの言葉にドラ子は両手を万歳にして大喜びだ。
「きゃあ、良かったわねぇ、ドラ子ちゃんっ!」
リーリアもドラ子と一緒になって喜んでいる。
あのラジオ体操の参加カードが満タンになったとドラ子は喜んでいるが、どういうこと? 何か貰えるの?

「さあドラ子ちゃん、こちらにいらっしゃい」
オフィーリアに促され、ドラ子はもじもじとオフィーリアの前にひざまずく。

「満願叶えたりぃ」
オフィーリアはドラ子の頭の葉っぱの一つに口づけを贈る。すると、みるみるうちに、葉っぱの先に蕾が出てきた。

「うっきゅーー」
「ききゅゅっうう」
ドラ子もドラ男も大興奮だ。伸びたり縮んだり、クルクルと回っている。

「ど、どうしたの」
ビビったギルフォードは隣にいたリーリアの影に隠れる。

「ウフフフ、もしかしたらドラ子ちゃんに赤ちゃんができるかもしれないわ。だってドラ子ちゃんは、ずーっと願っていたのだもの。オフィーリア様から頂ける祝福は、指定することはできないけど、それでも祝福を受けることができたのだから、期待してしまうわよね」
リーリアも嬉しそうだ。

「赤ちゃんが……」
ギルフォードに会うたびに、幼い子どもだと、あやそうとしてきたマンドラゴラ夫婦のことだ、きっと良い親になるだろう。
温かいものが胸に溢れてくる。

魔の森はギルフォードに優しい。
魔獣も魔物も初めて会うギルフォードに優しくしてくれる。見返りなんか一切求めない。
この世界に来て、自分を迎え入れてくれたのは、人間じゃない。
もし、魔獣や魔物を人間が害しようとしたら、自分はどうするだろうか。
口では人間を殲滅するのだと言っているが、優しくて、お節介な魔王リーリアが人間に敵対することが出来るだろうか。
その時は……
ギルフォードは、喜びに飛び跳ねているマンドラゴラ夫婦を見ながら、そっと決意するのだった。


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