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Ⅱ 魔王の日常
②.コカトリス
しおりを挟む「さて、今日の夕飯は何にしようかしら?」
魔王という至高の存在であるリーリアだが、お腹は普通にすく。
そのうえ料理を魔王本人が作らなければならないのだ。
まあ、料理どころか、掃除や洗濯も魔王がやっているのだが。
「そうねぇ、パンケーキでも作ろうかしら」
「きゅっ」
「きゅきゅっ」
リーリアの言葉に、隣でマンドラゴ夫婦が喜んでクルクルと回っている。
リーリアは思う。
あなたたち何で土に埋まっているの。土の養分を吸収するためなんじゃないの?
何でパンケーキ食べる気満々なのよ。
「小麦粉はあるし、牛乳、バター……あ、卵がない。取りに行かなきゃ」
パンケーキの材料を思い浮かべていたリーリアは卵がないことに気づくと、籠を手に、魔王城を後にする。
魔王城の裏。
魔王城より徒歩0分の場所に鶏小屋はある。
魔王城の半分ほどの大きさの、鶏小屋にすれば大きなものだ。
この鶏小屋には、2羽の鶏がいる。
鶏とはいうが、コカトリスといわれる立派な魔獣だ。
本来の鶏よりも、3倍以上は大きく、鶏冠の代りに鋭い角が生えている。
普通に空を飛ぶし、鋭い爪も持っている。
勝手に森へと狩りに行き、獲物を捕らえて食べている。雑食というよりは肉食に近い。
それでもリーリアの中では、コカトリスは家畜の鶏だ。
鶏といったら鶏なのだ。
リーリアは2日に1度、鶏から卵を貰っている。
リーリアが鶏小屋に入っていくと、痴話げんかのような声が聞こえてきた。
まあ、鶏の鳴き声なのだが。
いくらリーリアが魔王だからといっても、揉めている鶏に関わり合いたくは無い。
しかし、卵は貰わなければならない。
「鶏子さん、鶏太くん、こんにちは~。卵貰いにきたんだけど…」
コカトリスである鶏子と鶏太は共に1本の止まり木に並んで止まっていた。
リーリアが入ってきたのに気づき、言い争いは止めたようだが、2羽揃ってリーリアに視線を向けてくる。
じわ~っと、2羽に近づいていくと、鶏子の足元の卵を貰おうと手を伸ばす。
「コケーッ。コケコケッ、ケコッ」
いきなりメス鶏である鶏子がリーリアに向かって騒ぎ出す。
「あ、そうなの。
そうなんだぁ。あーうんうん。判る、判るよぉ。鶏子さんの言いたいことは判るよ」
いかにも判っています。と、したり顔で頷くリーリアなのだが、鶏の鳴き声の意味は解らない。
尊き魔王であるリーリアだが、鶏と会話はできないのだ。
鶏子の方もリーリアの言葉は判っていないはずだ。
「ケケッ。コココッ、ケコーッ」
「うん、そうだよねぇ。
でもさぁ、ほら、鶏太くんの方にもさ、色々事情があるっていうかぁ」
鶏子は捲し立てるように鳴いているが、鶏太の方は、うなだれた様に、頭をさげている。
鶏子と鶏太の2羽は番で、普段は仲がいいのだが、夫婦喧嘩をすることも多い。
そして高確率でリーリリアは仲裁に入らなければならない状態になってしまう。
今回もそうだ。
なぜ毎回、至高の存在である魔王リーリアが犬も食わない鶏夫婦の夫婦喧嘩に巻き込まれてしまうのか。
リーリアはため息を吐きたくなってしまう。
まあ、毎回喧嘩の原因は決まっている………夫婦生活の問題だ。
「鶏子さんが無精卵を産むのは虚しいって思うのは、よく判るよ」
リーリアはしたり顔で鶏子へと頷いて見せる。
リーリアは独身だ。
それどころか恋人はいない。
いや、悲しいことに、年齢イコルール恋人いない歴だ。
そんな寂しい人生を送る魔王としては、鶏夫婦の夜事情なんか知りたくはないし、関わりたくもない。
「ケコーッ。ケコケコ、コケッ」
リーリアの言葉に、我が意を得たりと勢い込む鶏子。
鳴き声が一段と強くなる。
「あーうん。でもさぁ、鶏太くんは、ほら、同じ止まり木に止まって毛づくろいをしていると幸せを感じるタイプっていうか、ホッコリした幸せを大切にしたいんだよ」
「コケーッ。コケッココッ、ケコッ」
リーリアの言葉に不満そうに鶏子は文句たらたらで高い鳴き声をあげ、言い募る。
「ああ、うん。そうだよねぇ、でもほら、体力的なものもあるし…
鶏子さんより鶏太くんは小柄だし、鶏子さんより先にバテテしまうっていうかぁ。
そんなに何回もは無理っていうかぁ。
ほら、鶏太くんはさ、肉体的な結び付きよりもハートを大切にしたい的な」
「ケケケコーッ!!」
鶏子は大きく羽をはばたかせると、もう聞きたくない!とでも言いたげに、不貞腐れた仕草で鶏小屋から出て行ってしまった。
「クルルルル……」
「ああ、うん、大丈夫だよ。
鶏子さんは今ちょっと、気分が荒れているだけだよ。鶏太くんとちょっと感じ方が違うだけで、鶏太くんのことが嫌いとかじゃないよ」
リーリアの胸に顔をうずめ、か細い声を上げる鶏太の背中をポンポンと叩く。
毎日でも夫婦生活を行いたい鶏子と、寄り添うだけで満足してしまう鶏太。
雑食だがガッツリ肉食系女子の鶏子と雑食だが控えめな草食系の鶏太は、夫婦生活でよく揉めている。
リーリアは思う。
私にどうしろと?
まあ、言えるような雰囲気ではないのだが。
何だかんだいいながら、仲のいい2羽なのだから放っておいても、すぐに仲直りをするだろう。
が、すすり泣く鶏太を無下にもできない。
リーリアは鶏太を慰めながら1つため息を吐く。
卵を貰うのも大変なのだ。
家畜のコカトリスに気を使う魔王リーリアなのだった。
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