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Ⅰ 魔王爆誕
6. 王宮にて
しおりを挟む「いったい何時までかかっているのだっ」
王城の謁見室でリカルドは声を張り上げる。
絢爛豪華な部屋の中には、リカルドの他には、リカルドの父親である国王。国王の右腕である宰相。
そして、魔の森で部下を失った第1騎士団団長のワッツと副団長のガーイナがいた。
「待ちくたびれたぞっ。どれだけ待てばいいのだ。何一つ成果が上がっていないではないか」
リカルドがイライラと椅子に座るでもなく、部屋の中を歩き回っている。
「リカルド様、少し落ち着いてください」
「煩いっ、待ちくたびれたぞ。魔の森からリーリアの物だと判る品物を持ち帰って来る。ただ、それだけのことだというのに。これでよく第1騎士団の精鋭と言えたものだ」
なだめようとする宰相のことなど無視し、自分の目の前に控えている二人に、イライラと鬱憤を叩きつける。
ワッツとガーイナは一言も答えることなく、ただ立っているだけだ。
リカルドはリーリアを始めて見た時から気に入らなかった。
美しくもないし、垢抜けてもいない。その上平民。聖女だという肩書以外何一つ取柄のない女。
王太子である自分には、到底釣り合いがとれる相手ではない。
そんな女を何故いつまでも婚約者にしておかなければならないのか。
自分には可愛らしい恋人ミミカがいるというのに。
煩い父親である国王と宰相がいない時を狙いリーリアを追い出してやった。
生きていると、また婚約者の座に戻って来るかもしれないので、確実に死ぬよう、魔の森に追い出してやったのだ。
それなのに……
ミミカを新しい聖女にして、自分の婚約者にと言っているのに、国王が認めてくれないのだ。
聖女リーリアは行方不明であり、死亡が確定しているわけではない。
生きているかもしれないのに、新たな聖女を任命するわけにはいかないと言って。
聖女リーリアは本教会にて正式に認定され、国内外に広く周知されている存在だ。
教会や信者たちから、聖女は女神オフィーリアの代理人として敬われている。
もし、リーリアが生きていて、婚約者である王子に殺されかけたと亡命でもされたら、最悪戦争が起こるかもしれない。
女神オフィーリアを信仰しているのは、この国だけではないのだから。
死んでいる証拠が必要なのだ。
聖女リーリアは本当に偽の聖女であり、それを婚約者であるリカルドに知られてしまい、恥じ入って自らが魔の森へと分け入ったとしなければならないのだから。
誕生パーティーの会場に居合わせた貴族達に、リーリアが偽物だったと口裏を合わせさせるのは簡単なことだ。自分の家が大事な貴族達は、王家のやることに口を出したりはしない。
わが身の保身のために口をつぐむだろう。
教会からの苦情は金で黙らせた。金の亡者である教会の上層部は、高くはついたが簡単にこちらの言い分を聞いてくれた。
教会も、平民上がりのリーリアより、貴族子女を聖女としたほうが、余程メリットがあるのだから。
リカルドが入れあげているミミカは子爵家の娘だ。王家のお墨付きで教会に入れさえすれば、すぐに聖女の認定をするだろ。
後は聖女リーリアの遺品が魔の森で発見され、死亡が確認さえすればいいだけなのだ。
もし、生きているのならば、どうにかして始末しなければならない。
偽の聖女は生きていてはいけないのだから。
「恐れながら、御者の証言する場所からリーリア様が行かれたであろう場所を探っておりますが、リーリア様の痕跡は何一つありません。これ以上、魔の森の探査は無駄だと思われます」
今まで一言も口を開かなかったワッツの言葉が、謝罪ではなかったことに、リカルドは怒りをあらわにする。
「何を言っている。それではリーリアはどこへ行ったというのだっ。自分たちの不甲斐無さをすり替えるつもりかっ」
リカルドはワッツの言葉に耳を傾けることは無い。
ただ、自分の望みを押し通そうとするだけだ。
ワッツもガーイナも第1騎士団という高い地位の騎士団に所属している。もちろん王家に忠誠を誓った騎士だ。
だが、今はその忠誠心が揺らいでいる。
今回の任務で自分の部下6名が命を失った。大事な大切な部下たちだった。
それなのに目の前の王子は何だ。
自分の部下たちが犬死にしたというのか。人の命を何だと思っているのだ。
自分が考えなしに聖女を魔の森へと追いやったくせに、まるで人のせいのように怒鳴りつけてくる。この王子は王族というよりも、人として間違っている。
そして、それに何も言わない国王にも憤りを感じる。
国王の王子に対する姿は為政者のものではない。ただの常識の欠落した親ばかだ。
それに、もし聖女が生きていたならば、どうするつもりなのだろう。
冤罪をきせ、生きることの難しい魔の森へと追いやっただけでも酷い行いなのに。
生きていたならば……
自分たちに殺せというのだろうか。
罪もない女性を。冤罪を着せられた被害者の女性を。
自分たちターダイアル国の国民は女神オフィーリアを信仰している。それなのに女神オフィーリアの代理人である聖女を殺せというのか。
それが騎士のすべきことなのか。
「貴様、ちゃんと聞いているのか。リーリアの死体を見つけてこい。すぐにだっ。
今すぐに魔の森にいって、リーリアを殺してこいっ!」
リカルドはがなり立てる。
リカルドは言ってはいけない言葉をとうとう言ってしまったのだ。
自分たちは騎士として、何に忠誠を誓っていたのか……
ワッツは、口を閉ざし、ただ目の前のリカルドを見つめるだけなのだった。
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