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3 ジェイニーへの ”ざまぁ”
しおりを挟むジェイニーは私の物を欲しがる。
私が持っている物を全て奪い取らなければ気が済まないのだろう。
どんなに私が嫌がっても抵抗しても、両親まで使って奪い取ってしまう。
そして、奪い取った物を、わざわざ私の目の前で捨てたり壊してみせたりするのだ。
私が悔しがったり悲しんだりするのが嬉しくて仕方がないのだろう。
チラリ。と、ジェイニーの肩を抱くチャールズへと視線を向ける。
私はチャールズと結婚したいと思っていた。
家同士の仲がいいからと、屋敷に遊びに来るチャールズに対して、私が好意を寄せていると、周りには知られていた。
だからジェイニーはチャールズを望んだのだろう。
そしてチャールズも、私の物ならなんでも欲しがる妹の手をとった。
ジェイニーは私がチャールズを好きだから奪ったのだろうけど、私はチャールズに対して愛だの恋だのの感情は、ひとかけらも無かった。
ただ、チャールズと婚姻することで、今の状況が変わるかもしれないと、一縷の望みを持っていた。
私はチャールズを利用しようと考えていたのだ。
簡単に言えば、私はハーナン侯爵家で疎まれていたから。
前妻の子ども。
ただそれだけの理由で。
貴族令嬢とは思えない待遇だったから、結婚すれば改善されると思っていた。
だってハーナン侯爵家を継ぐのは長女の私のはずだったし……。
「オーホッホッホ。ジェイニーには、お礼を言わなければならないわね。チャールズを引き取ってくれて、ありがとう。おかげで私は王子様のアーネストと愛を育むことができたわ」
気持ち上から下へと見下す視線をジェイニーへと送る。
こういうのは気持ちが大事。いかにも馬鹿にしていますよ、という雰囲気を醸し出さなければ。
私はわざとらしくアーネストの腕に、自分の腕を絡めて見せる。
グイッ!
またもやアーネストが私を抱き寄せる。
アーネストいいから。動かなくてもいいから。
少し離れないと腕って組めないのよ。お願いだから少し距離をとらせて。
「まあ、ジェイニーったら、その髪飾りはチャールズから貰ったものね。パーティーにまで着けてくるなんて、本当にチャールズのことが好きなのねぇ」
なんとかアーネストから距離を取り。とは言っても、ほぼ抱きしめられたような状態のままなのだけど、ジェイニーの髪飾りを鼻で笑う。
私はチャールズからプレゼントなんか、何1つ貰ったことは無かった。別に恋人でも婚約者でも無いから、それは当たり前のことだったけど、ジェイニーは、わざわざ髪飾りを貰ったのだと報告しに来ていた。
ジェイニーは、このパーティーでも、自分とチャールズがイチャイチャするところを見せつけたかったのでしょうね。これ見よがしにチャールズからのプレゼントを身に着けて来ているから。
「うふふふ。そんな子どものおもちゃみたいな物を貰って喜ぶジェイニーは可愛らしいわね。私なんかそんな安物を貰ったら、怒ってしまうかもしれないわ。それよりも見て頂戴。アーネストから、このドレスをプレゼントされたのよ」
私は頑張ってアーネストから距離を取り、ジェイニーの目の前でドレスの裾を持ち、クルリと回ってみせる。豪華で高級なドレスは、いくら侯爵家の娘だとはいえ袖を通せるような物ではない。
成人のパーティーだから、少し大胆に肌を見せるデザインのドレスは、ハッキリ言って私には似合っていない。
せっかくの美しいドレスなのに、地味平凡な私なんかが着たせいで、宝の持ち腐れになってしまっている。
アーネストごめんね。心の中で謝っておく。
アーネストに贈って貰ったドレスだが、勿論ドレスの代金は後々アーネストに返済する。
ただ、これ程の高級なドレスだから、返済に何年かかるかは分からないけど。
「この色のドレスを選んで正解だったな。アイリスの美しさを良く引き立てている」
ウンウンと頷きながら、アーネストはウットリと私を見つめている。
馬子にも衣裳。幼馴染にも豪華なドレス。嘘つかせてしまってごめんなさい。
ジェイニーには勿論、周りの人達にもアーネストの溺愛ぶりは、本物にしかみえない。恋人のフリを頼んだ張本人の私ですら、勘違いしそうになってしまうわ。
どうよ。
どうよジェイニー。
あなたがどんなに望んでも、私の手からアーネストを奪うことはできないのよ。
ジェイニーが私から奪い取ったチャールズなんか足元にも及ばない程の雲の上の相手。
チャールズよりも格段に上の美貌を持ち、チャールズよりも美しいスタイルで、チャールズよりも垢ぬけていて、チャールズよりも桁違いのお金持ち。
今迄自分よりも劣ると、さんざん馬鹿にしていた姉が、自分を遥か高みから見下してくるのよ。
さあ、悔しがりなさい。
「オーホッホッホッ。ジェイニーったら、どうしたの。そんなに悔しそうな顔をして。いつもの可愛らしい顔が醜く歪んでいることよ」
せっかくアーネストから少し距離をとっていたのだけれど、自分からアーネストに腕を絡めながら言い放ってやるわ。
さあ、地団太を踏むがいいわ!
どんなに欲しがっても、どんなに恋焦がれても、あなたのモノにならない、私の恋人よ。
グイッ。
アーネストが私の腰を抱き寄せる。
もういいです。もう十分です。身動き取れませんから。勘弁してください。
アーネストに、にこやかに笑いかけながらも、何とか距離を取ろうとして、逆に抱き込まれてしまった。
「おかしいわよ。こんなこと、あるわけないわっ!」
ジェイニーから発せられたとは思えない低い声。
「あら、おかしいって何が?」
くやしがってる。くやしがってるぅっ。
私はグッと握りこぶしを作りたくなるのを堪える。
ジェイニーのいつもの庇護欲をそそる可愛らしい態度が崩れかけている。
「だっておかしいじゃないっ。なんであんたなんかの隣に王子様がいるのよっ!ブスのくせに。地味で取り柄もないくせにっ。おかしい、おかしい、おかしいわよっ」
ジェイニーが絵に描いたような地団駄を踏んでいる。
やった。やったわっ! ジェイニーに地団太を踏ませてやったわ。
ざまぁ、ざまぁよっ!これこそがざまぁよっ。
ウイナーッ!!
私は心の中でガッツポーズを掲げる。
「お前、ジェイニーとか言ったな。アイリスに対する暴言、看過することはできないぞっ。言うに事欠いてアイリスがブスだなどと、余りにも失礼ではないかっ。それに貴様の方がよっぽど醜いくせに、何を言っているのだっ!」
私をほぼ抱きしめているアーネストが、ジェイニーの言葉に猛っている。
どう見たってジェイニーの方が可愛らしいのは分かり切っているけど、幼馴染として庇ってくれるアーネストに、ありがたくて涙が出そうだ。
「あたしがお姉様よりも醜いなんて、そんなことあるわけないじゃないっ」
「ジェイニー、落ち着いて」
ジェイニーの肩を抱くチャールズが焦ったような声をだす。
ジェイニーの癇癪は、王族へと向けていいものではない。
私は視線を、チャールズへと移す。
さあチャールズ。今度はあなたの番よ。ジェイニーと一緒になって、私を馬鹿にしてきたチャールズへも “ざまぁ” をしてあげるわ。
「ウフフフ」
思わず笑いが漏れてしまったわ。
意地悪い表情で、よりブサイクな顔になっているのは分かっているけど、アーネストには見られないから大丈夫。
だって、アーネストは私の背中から抱きしめるような格好になっているのだから。
さあ、目にもの見せてあげるわ。
私は次のターゲットへと狙いを定めるのだった。
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