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しおりを挟むフィオナが、ぼんやりと目を覚ますと、なんだか豪華な部屋に寝ていた。
ここ、どこ?
慌てて身体を起こすと、頭が割れるように痛くて、またもやベッドに突っ伏してしまった。
部屋の中にいたらしい、侍女達(?)が、フィオナが起きたことに気づき、かいがいしくお世話をしてくれるが、吐き気もあり、うまく喋ることができない。
すぐに偉そうなお医者様が来て、一通りの診療が終わると、フィオナはそのまま放置されてしまった。
何一つ分らず終いだ。
学園の寮に帰りたい。
そう思うフィオナだが、今の姿は、いかにも高級そうだがネグリジェ姿。いくら何でも、この姿では外には出られない。
それでも、部屋の扉を開けて、何とかしてみようと考えたのだが、なんと扉には鍵がかかっていた。
監禁されている?何が我が身に起こっているのか。
パニックになってしまったフィオナだった。
それから何日も何日もフィオナは監禁されたままだった。
暇をつぶすためなのか、部屋には様々なジャンルの大量の本が届けられた。
毎日部屋の何か所にも花が飾られ、食べたことも無い高級なお菓子が日替わりで送ってこられる。
大事にされていることは判るのだが、フィオにすれば、ここから出してくれ。それだけだった。
世話をしてくれる侍女達に何度話しかけても、決して答えてはくれない。
フィオナが半べそをかいても、それは変わらなかった。
監禁されて1週間ほどたった時に、部屋にオリヴィアがやって来た。
部屋から出ることができる!
フィオナは喜んだ。
「あなたがそれほどまでに殿下のことを思っているなんて、私は気づきませんでしたの。今まで、あなたを悪しざまに言っていたことを、お詫びするわ」
「へ?」
フィオナがオリヴィアへと何かを言う前に、いきなりオリヴィアが頭を下げたのだ。
「オ、オリヴィア様っ。頭など下げないで下さいっ」
高位貴族に頭を下げられて、フィオナは焦る。
「いいえ、私はあなたに謝らないといけないわ。
殿下の命を守るため、自分が毒をあおるなど、私には、できることではないわ」
「ほえ?」
フィオナの手を取り、オリヴィアが話を続ける。
「あなたが身を挺してくれたおかげで、殿下は無事よ。
まさか学園のレストランの食事に毒が入れられているなんて、誰も思ってもいなかったわ」
「おにょ」
フィオナはオリヴィアが何の話をしているのか、判らない。
まるで、フィオナがレオンを庇って、毒を飲んだようではないか。
フィオナはレオンから渡されたスープを飲んだだけだ。
まさかスープの中に毒が入っていた?
でもフィオナはピンピンしている。
「オリヴィア様っ。この部屋に入ってはいけないと、レオン様から言われていたでしょう」
「でも、私はフィオナに謝らなければ、ガイっ、手を放しなさいっ」
いきなり部屋に入ってきたガイは、嫌がるオリヴィアを連れていってしまった。
部屋に残されたフィオナ。
結局フィオナは助けを求めることも、自分の状況を聞くことも出来ないままだった。
期待はしていなかったが、扉に手をかけてみたが、やはり鍵がかかっていた。
また、このまま監禁かと思われた午後、レオンが部屋へとやって来た。
「フィオナ、待たせたね。やっと根回しが終わったよ」
いつもの無表情のレオンなのだが、フィオナには、不穏な雰囲気が感じられた。
「私はいったいどうなったのですか」
レオンの雰囲気に、聞くのはためらわれたが、聞かない訳にはいかない。
「簡単なことだよ。
フィオナは私のスープに入れられた毒に気づいて、自らがそれを飲むことによって、私を助けてくれた。
おかげで私は無事だった」
「違いますっ。私は殿下から飲めと言われたから飲んだだけです。毒など知りません」
「皆、感激してくれたよ。
自分の命を捧げてまで私を守ってくれた。真の忠義だと」
レオンは愛しそうにフィオナの頬を撫でる。
フィオナはゾッと……はしなかった。
すごく憶えがあるから。
「国民を煽るのは簡単だったよ。
身分が低いからと、日陰にいた男爵令嬢が、自分の愛する王子のために、自らの命を差し出したのだからね。
巷では、この話題で持ちきりだ。
身分の低い令嬢と王子の命をかけた恋物語だ。国民の好きなシュチエーショだよ」
いつもは言葉数の少ないレオンが楽しそうに話している。
「私たち王族が妃の資質として求めるのは、王族のために、最後に肉の盾になれるかどうかだ。
フィオナはそれをクリアできたのだよ。
婚約者だったオリヴィアは、自分には出来ないことだと、向こうから婚約の解消を言ってきた。手間が省けたよ」
「嵌めたわね」
フィオナの声は低い。
こいつのやり方はいつもそうだ。
自作自演に巻き込みやがって。
「障害は無くなったよ。
どうせ私は臣下に降って王族ではなくなるのだ。妻の身分にこだわるよりも、国民に喜ばれる方が得だ。
命を懸けた男爵令嬢を妻に迎えるのだ。国民から、多大な支持を受けることができる。
周りの者たちも、国民感情を考慮して、今は苦言を呈してくることはない。
さっさと婚約をしてしまお…ふごぉっ」
レオンは最後まで話ができなかった。
フィオナの鉄拳がレオンの顎にヒットしたからだ。
「正孝、てめぇ何やってくれてるのよっ」
「雪ちゃん」
殴られたレオンは嬉しそうだ。
フィオナはこの部屋に閉じ込められてから、徐々に思い出してきた。
自分の夫だった正孝のことを。
幼馴染だった夫は、何故か雪子のことが好きだった。
好きで好きで、好き過ぎた。
雪子がドン引きするぐらいには、好意を寄せてきた。
雪子も正孝のことを愛していたから結婚したし、子どもも生んだ。
でも、思ったのだ、次の人生では、正孝とは距離を取ろうと。
この執着に付き合うのは疲れたと。
レオンがいつ正孝の記憶を思い出したのか、そんなことは、どうでもいい。
今生でも正孝は雪子を見つけて、雪子のことが好き過ぎている。
それなのに、正孝に一目惚れしたとか。
雪子は学習能力なさすぎ。
なんでわざわざストーカー相手に逆ストーカーしてんだよ。
もう根回しは済んだとレオンは言っていた。ならばフィオナがこの部屋から出せと言えば、すぐに出してくれるだろう。
基本、正孝は雪子の意志を尊重してくれた。
ただ、先に外堀を埋めて、雪子が嫌だといえなくするだけだ。
今回のように。
チロリとフィオナはレオンを見る。
レオンは無表情ながら、ご機嫌そうだ。
逃げてやる。
今生では逃げ切ってやる。
せっかく生まれ変わったのだ、もう正孝の相手はしなくてもいいだろう。
決意を固めるフィオナだった。
前世を完全に思い出したフィオナが逃げ切ることができるのか。
それともレオンが外堀を埋め尽くして、フィオナを手に入れるのか。
それは、二人にしか判らない未来のお話。
¨ ¨¨ ¨ ¨ おしまい ¨ ¨ ¨¨ ¨
※ 皆さまー。現ナマです。
最後まで、お付き合いいただき、ありがとうございました。
これにて完結です。
こんなんで終わるなよと言われそうですが、力尽きたと思ってください。
今度は、もう少し時間をかけて、ましな物語を作りたいと思います。
また、お会いできることを願っています。
2020.6.9
棚から現ナマ
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