前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ

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「失礼いたします」
王宮にあるレオンの私室に入ると、ガイ・コーディオは衝撃を受け、その場に崩れ落ちそうになってしまった。

ガイはレオンの乳兄弟として、幼い頃よりいつも一緒にいた。
ガイの母親であるマーガレット侯爵夫人が、乳母としてレオンに仕えていたからだ。
本当の兄弟のように共に成長してきた。
ガイはレオンの最も信頼を寄せている人物に他ならないのだ。

ガイの前ではレオンは自然体だ。王子としての仮面は被っていない。
ありのままの姿を見せている。
感情の現れないレオンだが、ガイはなんとなくレオンの考えていることが判る。

しかし、ガイは時々思う。
ありのままのレオンを見たくない時もあると。
今、目の前の光景がまさにだ。

ソファーにくつろぐレオンはパックの真っ最中だった。
顔中にキュウリの輪切りが貼り付いている。キュウリ星人が目の前にいる…

「レオン様、今度は何をされているのですか?」
「侍女たちが話しているのを聞いたのだ。キュウリは肌にいいらしい」
あまりレオンは言葉数が多くない。
そのまま目を瞑り、キュウリ星人に成り切っている。

レオンは美青年として、名を馳せている。
見目麗しい王族だと、周りの者たちから言われているのだ。
しかし、よくよく見るとレオンの容姿は、整ってはいるが、そこまで褒め称えるほどではない。

光を弾くツヤツヤの銀の髪。シミ1つ、ニキビの痕1つないツルツルの肌。
姿勢正しく、均整の取れたスタイル。
服装に関しては、隙が一切無い。

努力なのだ。
努力の賜物なのだ。
レオンは美に対して貪欲に努力し、この美青年を作り上げているのだ。
もはや完璧と言っていいほどに。

美に執着するレオンがナルシストなのかというと、それが全然違う。
美に対して努力するレオンにガイは聞いたことがある。
何故それほどまでに努力するのかと。
レオンの返事は思ってもいないものだった。

「フィオナがイケメンが好きだと言ったから」
いつもの無表情に、はにかみが見て取れた。
ガイは開いた口が塞がらない。
フィオナとは、あのフィオナなのか?
厚顔無恥で常識無しで、厚塗りの上に胸偽造の、あのフィオナ?

趣味、悪すぎない。
どこがいいの?どこが好きなの?
自分の主人ともいうべき王子の、あまりの趣味の悪さに、ツルッと言葉が漏れてしまう。
「どこがいいんですか…」
「全てが愛らしいだろう」
即答だった。
ガイの独り言のような言葉に、瞬時に返答がきたのだ。

「礼儀も何も、有ったもんじゃないですよね」
王族。それも王子様にしなだれかかって名前呼びなど言語道断だ。
「私に対して甘えてくれているのだ。可愛いではないか」
無表情なのに赤くなっている。

「ガイのせいだからな」
「へ?」
「ガイが厳しいことをフィオナに言うから、名前で呼んでくれなくなったではないか。せっかく甘えて、名前で呼んでくれていたのに。どうしてくれるのだ」
無表情なのに不機嫌そうな顔を向けてくる。

「いや、普通じゃありえませんよ。王族に対して不敬でしょう」
「フィオナと私の間に不敬などありはしない」
キッパリ。
そこには偉そうなキュウリ星人がいた。
即答かよ…ガイはどっと疲れてしまう。

「厚化粧すぎますよね」
元の顔が判らなくなる程の化粧。嫌、あれは特殊メイクと言っていい。
「私のために装ってくれているのだ。嬉しいではないか」
無表情なのに笑顔だ。

「胸が見えそうなドレスですよね。あれはふしだらだと思われますが」
胸が開きすぎて、どこの売女だと噂されている。
「あれは考えものだな」
考え込むように顎に手を置く。
やっと、フィオナあの女の非常識さが判ってくれたのか。
「あのような魅惑的な姿を私以外の者に見せるなど、もっての外だ。
私と二人きりの時ならば、喜ばしい限りなのだが」
無表情なのにウットリしている。

マジでぇ。
ガイはその言葉以外浮かばなかった。

「も、もしやレオン様はフィオナを王族に迎え入れようなどとは思ってはいませんよね」
思わず確認してしまう。
レオンの態度は、フィオナを今にも自分の婚約者にでもしそうな勢いだ。

「いや」
レオンの短い返答にガイは、ホッと胸を撫で下ろす。

「将来、私は臣下に降るからな。
母君の生家、ロシュアル公爵の名を頂くだろう。そうなるとフィオナを王族に迎えるというわけにはいかないが…
もしかして、フィオナは王族になりたいのだろうか。そうなると私は王弟として、兄上を支えたほうがいいのか?」
レオンは珍しく、長い言葉を綴る。
思案気に顎に手を置きながら考え込んでいる。キュウリ星人なのに。

止めてー。
何故、自分の将来をフィオナ中心に考えるのですか。
あのフィオナを王族に入れようなどと、なぜ考えるのですか。
無理だから。
絶対無理だから。

レオンの正気とは思えない考えに、ガイは疲れ果てて言葉がでない。
ただ、ご満悦そうなキュウリ星人を見ているだけしかできないのだった。



 ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

皆さま、現ナマです。
いつも、応援、励まし、感想などなど、ありがとうございます。
感謝しております。

うおおー。
皆さまに全4話と公言しておりましたが、4話で終わらないようです。
なんとか5話で終わらせるよう頑張ります。

最後まで、お付き合いいただけますよう、よろしくお願いいたします。


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