『ウドド運行列車破壊事件』〜全てが繋がる、いくつかの物語〜

たかしモドキ

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最終章【ウドド運行列車破壊事件】

【11】「聖女の独白」

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翌日、俺たち3人はマルケリオンに連れられて、
王城の地下へと向かった。

例の伝説の3人の遺物とやらを手に入れる為だ。
俺が渡されたのは、長い杖とボロボロの手記。

他の奴らは、それぞれの遺品について
マルケリオンの解説を聞きながら、一喜一憂している。

俺は、こんなもの貰ってもなぁ……などと考えていたが、
1日経って強く自覚した事がある。

それは、この体の性能だ。

昨日の魔位測定で、この体は魔法の適性に優れていると知った。

元の体と比べて、若いという事もあるが、
たいして使ってこなかった魔法の使い方が、
手に取るように感覚でわかる。

この体なら、どんな魔法だって習得できるんじゃないか?
そう妄想してしまうほどに。


自室に戻った俺は、マルケリオンに出された『宿題』に頭を使う。


ウドドの列車を足止めした事と、トマリンを破壊しなかった意味。
あらゆる可能性を考えてみるも、どうにもアイデアが湧いてこない。


ふと、化粧台に置いた聖女の手記が目に入る。


なんでケチな商人の俺が、聖女なんかに転生した?
いったい、俺に何をさせようってんだ?

少し息抜きがしたくなって、
俺は聖女の遺した手記をペラペラとめくった。


そこで俺は、この聖女に産まれ変わった事の、
確信的な理由を見つけてしまう。


聖女ドドゴミン。

かつて唯一神アロンパンと虚神ゲルドパンを殺した、
伝説の3人の1人。

英雄ヘシオムや、勇者アヌロヌメは、
国の名前に使われる程に有名だが、
聖女については、あまり、その人物像が知られていない。

本人の手により書かれた、この手記には、
それを慮れる内容がしたためられていた。

それは、伝説の3人に纏わる
等身大の英雄譚でもあった。

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

ドドゴミンは、魔族ゲルアント領の冒険者ギルドに所属する
ヒーラーだったが、役に立たないと追放された事。

勇者アヌロヌメと、その妹が作ったパーティーに迎えられ、
そこで聖女として覚醒し、元のパーティーを見返した事。

師匠を殺され復習に燃える、人属アロアント側の戦士、
英雄ヘシオムと出会い、アヌロヌメとドドゴミンの3人で、
神が放った刺客、デタドレインを倒し、アークスの紋を手に入れた事。

人属アロアント魔族ゲルアントの連合軍と関わり、
その有権者達に、プロパガンダとして神殺しを命令された事。

長い旅の中で、二体の神の刺客、テュプロンとモレアローザを倒し、
アブニスの紋と、カンマの紋を手に入れた事。

旅の中で、何度も逃げ出そうと考えた事。

ドドゴミンは、カンマの紋を取り込んで、
固有スキル『魔法限定解除』を獲得した事。

神を殺すためには、固有スキルを使い
神が神を殺すために作った神格魔法を
習得しなければならないと知った事。

神が怖くて、逃げ出したくて、努力を怠った事。

勇者アヌロヌメの妹が追いかけてきて、
パーティに加わり、甘えん坊な彼女が可愛くて
いろんな相談を聞いてあげた事。

ゲルドパンとの戦いで、神格魔法を使う事ができずに
とどめを刺せず、アヌロヌメの妹が呪いを受けて、
それが原因で、勇者アヌロヌメと妹がパーティーから抜けた事。

後に、勇者アヌロヌメは両親もろとも
妹の呪いで殺されたと知った事。

発狂しそうな自己嫌悪で眠れなくなった事。

英雄ヘシオムが、支えてくれた事。

それが、生きる意味になった事。

身体を重ねている時だけ、
自分が存在する意味を知る事ができた事。

英雄ヘシオムに、2人で逃げようと切望した事。

それを拒否された事。

やっぱり、怖くて、逃げ出したくて堪らなかった事。

それでも、愛する人を支える聖女でありたいと願った事。

アロンパンとの戦いの前日、ヘシオムに求婚された事。

アロンパンとの戦いで、ゲルドパンから奪った
魔剣パンツォールを使って神の体を殺したが、
やはり神格魔法を放つ事ができずに、
英雄ヘシオムが呪いを受けるのを防げなかった事。

自分以外の仲間が、神との戦いで不幸になったのに、
自分だけは、何も失わなかった事。


そして、何もかも失った事。


自分達に全部押し付けた人族にも魔族にも、
強い軽蔑と殺意があった事。

何もできなかった事。

空っぽの笑顔で、薄っぺらい言葉を告げる民どもに、
作り笑顔で、清潔な聖女を演じた事。

そんな中途半端な自分のせいで、
何もかも失ったんだと気づいた事。

後悔した事。

死にたくなった事。

死ぬまで続く、生きる事に恐怖していた事。

───何より後悔したのは、

やらなきゃいけない時に、頑張れなかった事。

───それから。

その後の一生涯、その後悔を原動力に、
あの時使えなかった神格魔法を研究し続けた事。

そんなもの、今更やっても遅いと知っていた事。

体が老いさらばえ、歩くのすらおぼつかなくなっても、
心は自分を許してくれなかった事。

そして……最後の最後まで、
神格魔法の使い方を完成させれられなかった事。


その手記の最後に、聖女ドドゴミンから、
俺へと宛てたメッセージがあった。

もしくは、彼女の最後の希望だったのかもしれない。

『どうか、この手記を読むものは、私と同じく
 すべき時、すべき事を成せなかった者でありますように』

『そして、いつか、貴方の心と、私の心が許されますように』

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

ああ。ドドゴミン。
あんたが俺を選んだのか。

「あんたは立派だ。本当に心から敬愛するよ」

聖女だとか、伝説の3人だとか
そんな聞こえの良い肩書きなんか知らん。

俺が知っているのは『やらなかった』奴の、
生き地獄の事だけだ。

あの地獄の中で、まだ、足掻き続けるという事が、
どれほど惨たらしい拷問なのか、俺にはわかるよ。

「わかったよドドゴミン。あんたの後悔は俺が引き継ぐ」

その日から、俺は神格魔法の研究に没頭した。
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