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一章【くたびれた英雄】
【7】「フラッシュバック」
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脳みそが振り回される様な衝撃が収まって、
俺はようやく自分の体がひっくり返っている事に気付いた。
思考停止したまま周囲に目をやって
やたらと明るい事に気付く。
頭上を見れば、煌々とした大月が見える。
どうやら、列車の上半分が、
天井ごと吹き飛ばされた様だ。
俺がはっきりと覚えてる記憶の中では、
黒いヴェールの女が、何かしらの魔法で屈強な男を召喚して、
その男が剣を振り上げた……そこまでは見て覚えている。
「こりゃ…なんの冗談だ?
こんなバカみてーな威力の魔法…聞いた事ねぇぞ!」
俺は、魔法への見解が浅く、また、狭い。
攻撃魔法なんか使えないし、
日常で便利に使われる魔位2~3程度の
生活魔法くらいしか知らない。
現代のへシーム王国周辺では、しばらくの間、戦争が起きていない。
少なくとも、俺が産まれてから38年は、内乱すらなく、
周辺国でも同様に平和が続いていた。
そんな日常の中には、攻撃を主とした魔法に用事はなく、
カテゴリー自体が衰退しているのだと思う。
そんな時代に生きる俺だから明言して言える。
あいつらが使っている魔法は、どれもこれも
神と人が戦っていた時代の災害級の攻撃魔法だ。
「ぁ…あの家族は!?」
俺は、気になっていた貴族の一家を探す。
目線を回して、その姿を追ってみるが、
周囲が騒がしくて上手く見つけられない。
あんな災害級の魔法の近くに居たら
命がいくつあっても足りねぇぞ!!
「アシナメさん…無事ですか?」
「ネモ!無事だったか!!」
「お互いに無事みたいですね」
「おお!そ…それよりも!!
あの家族がどうなったか見てないか!?
小さい子供のいる!あの3人家族だよ!!」
「…3人家族?…いえ、知りません。
私は見ていなかった。
それよりも……アレはまずい。
とっとと逃げた方が良い」
ネモは平然と見え、穏やかな言葉は崩さなかったが
その両腕から、なにや怖気を伴う摩擦音が聞こえる。
硬く握られた拳から出た音だった。
その雰囲気は、まるで親の仇に見せる様な、
もしくはそれに等しい侮辱に耐える様な。
そういう一触即発、必殺のプレッシャーだ。
この只ならない闘気、桁外れの怪力。
コイツは……いったい何者なんだ?
いや…今はいい。
それよりも……今は……
「さぁ。アシナメさん
行きましょう」
「…ネモ…お前さんの言うとおりだ…
でも…その………」
逃亡を催促するネモを肯定しながらも、
その様子と相まってか、足が一歩も動かない。
「…なにを考えているのですか?」
「…別に…なにも…なにもねぇよ」
「いや。あなたはずっとおかしい。
何かが気になって仕方がないのでしょう?
いったい何を考えているのですか?」
「うっ…うるせぇー!!
なにもねぇって言ってんだろうがよ!!
……あっ!!!」
その時、俺はついにあの家族を見つけた。
だがあまり良い状況ではない。
父親は、仰向けに倒れ、
母親は怪我を負いながらも
娘をかばう様に地に伏せている。
───そして泣きわめく少女。
少女が嬉々として、
袖を通したはずの桃色のドレスは、
端が破れ、茶ばんだ泥のシミができている。
息がしずらい、呼吸が早まる。
「見て……らんねぇーんだよ」
ついに俺の足が動いた。
その先は、逃亡先の森ではなく、
災害級の魔法の激戦地だった。
「無駄死にですよ」
ネモの言葉が背中に刺さる。
「アレは、あなたが向かったところで
どうにもなりません
転がる死体が一つ増えるだけです」
「……わかってんだよ…そんな事は……
うるせぇんだよ!!知ってんだよ!!!」
「意味がわからない。
あなたの言う事は支離滅裂だ」
「お前こそ何なんだよ!!
そのでかい図体!バカみたいな怪力!!
そんな恵まれた能力があるのに!!!
なんで何もしねぇーんだ!!」
「私には関係がないからです。
私は何もしない。
何もしたくない。
必死になって面倒くさい事に首を突っ込んだところで
そんなものに意味も価値もない」
関係ない。
何もしたくない。
面倒くさい。
意味がない。
価値がない。
「ぁ…っあ…ああああ!!!」
ネモの言葉で壊れる。
俺が見ない様に、思い出さない様に
重い重い蓋をして隠した、記憶の蓋が壊れてしまう。
「黙れよぉ!!お前知ってんのかよ!!
そうやって逃げて逃げて!!どうなるか!!
知ってて言ってんのかよ!!!」
感情が完全に支配下から離れた。
もう俺にだって止められない。
「その先にはなぁ!!
クソみてぇな劣等感しかないんだよ!!
何にもねぇ!!どこまで行っても!!
何もねぇんだよ!!ずっと乾いてんだ…
虚しいんだよ…」
ついに俺は自分の過去と、
そしてその記憶と対峙する。
「よく聞けよ…図体ばっかりの木偶の坊。
俺はな…そこそこ良い商人の家系に生まれた。
貴族と比べても劣らないほどのな……」
そうして俺は、ネモに自分の人生の罪を語り始めた。
俺はようやく自分の体がひっくり返っている事に気付いた。
思考停止したまま周囲に目をやって
やたらと明るい事に気付く。
頭上を見れば、煌々とした大月が見える。
どうやら、列車の上半分が、
天井ごと吹き飛ばされた様だ。
俺がはっきりと覚えてる記憶の中では、
黒いヴェールの女が、何かしらの魔法で屈強な男を召喚して、
その男が剣を振り上げた……そこまでは見て覚えている。
「こりゃ…なんの冗談だ?
こんなバカみてーな威力の魔法…聞いた事ねぇぞ!」
俺は、魔法への見解が浅く、また、狭い。
攻撃魔法なんか使えないし、
日常で便利に使われる魔位2~3程度の
生活魔法くらいしか知らない。
現代のへシーム王国周辺では、しばらくの間、戦争が起きていない。
少なくとも、俺が産まれてから38年は、内乱すらなく、
周辺国でも同様に平和が続いていた。
そんな日常の中には、攻撃を主とした魔法に用事はなく、
カテゴリー自体が衰退しているのだと思う。
そんな時代に生きる俺だから明言して言える。
あいつらが使っている魔法は、どれもこれも
神と人が戦っていた時代の災害級の攻撃魔法だ。
「ぁ…あの家族は!?」
俺は、気になっていた貴族の一家を探す。
目線を回して、その姿を追ってみるが、
周囲が騒がしくて上手く見つけられない。
あんな災害級の魔法の近くに居たら
命がいくつあっても足りねぇぞ!!
「アシナメさん…無事ですか?」
「ネモ!無事だったか!!」
「お互いに無事みたいですね」
「おお!そ…それよりも!!
あの家族がどうなったか見てないか!?
小さい子供のいる!あの3人家族だよ!!」
「…3人家族?…いえ、知りません。
私は見ていなかった。
それよりも……アレはまずい。
とっとと逃げた方が良い」
ネモは平然と見え、穏やかな言葉は崩さなかったが
その両腕から、なにや怖気を伴う摩擦音が聞こえる。
硬く握られた拳から出た音だった。
その雰囲気は、まるで親の仇に見せる様な、
もしくはそれに等しい侮辱に耐える様な。
そういう一触即発、必殺のプレッシャーだ。
この只ならない闘気、桁外れの怪力。
コイツは……いったい何者なんだ?
いや…今はいい。
それよりも……今は……
「さぁ。アシナメさん
行きましょう」
「…ネモ…お前さんの言うとおりだ…
でも…その………」
逃亡を催促するネモを肯定しながらも、
その様子と相まってか、足が一歩も動かない。
「…なにを考えているのですか?」
「…別に…なにも…なにもねぇよ」
「いや。あなたはずっとおかしい。
何かが気になって仕方がないのでしょう?
いったい何を考えているのですか?」
「うっ…うるせぇー!!
なにもねぇって言ってんだろうがよ!!
……あっ!!!」
その時、俺はついにあの家族を見つけた。
だがあまり良い状況ではない。
父親は、仰向けに倒れ、
母親は怪我を負いながらも
娘をかばう様に地に伏せている。
───そして泣きわめく少女。
少女が嬉々として、
袖を通したはずの桃色のドレスは、
端が破れ、茶ばんだ泥のシミができている。
息がしずらい、呼吸が早まる。
「見て……らんねぇーんだよ」
ついに俺の足が動いた。
その先は、逃亡先の森ではなく、
災害級の魔法の激戦地だった。
「無駄死にですよ」
ネモの言葉が背中に刺さる。
「アレは、あなたが向かったところで
どうにもなりません
転がる死体が一つ増えるだけです」
「……わかってんだよ…そんな事は……
うるせぇんだよ!!知ってんだよ!!!」
「意味がわからない。
あなたの言う事は支離滅裂だ」
「お前こそ何なんだよ!!
そのでかい図体!バカみたいな怪力!!
そんな恵まれた能力があるのに!!!
なんで何もしねぇーんだ!!」
「私には関係がないからです。
私は何もしない。
何もしたくない。
必死になって面倒くさい事に首を突っ込んだところで
そんなものに意味も価値もない」
関係ない。
何もしたくない。
面倒くさい。
意味がない。
価値がない。
「ぁ…っあ…ああああ!!!」
ネモの言葉で壊れる。
俺が見ない様に、思い出さない様に
重い重い蓋をして隠した、記憶の蓋が壊れてしまう。
「黙れよぉ!!お前知ってんのかよ!!
そうやって逃げて逃げて!!どうなるか!!
知ってて言ってんのかよ!!!」
感情が完全に支配下から離れた。
もう俺にだって止められない。
「その先にはなぁ!!
クソみてぇな劣等感しかないんだよ!!
何にもねぇ!!どこまで行っても!!
何もねぇんだよ!!ずっと乾いてんだ…
虚しいんだよ…」
ついに俺は自分の過去と、
そしてその記憶と対峙する。
「よく聞けよ…図体ばっかりの木偶の坊。
俺はな…そこそこ良い商人の家系に生まれた。
貴族と比べても劣らないほどのな……」
そうして俺は、ネモに自分の人生の罪を語り始めた。
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