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0章【プロローグ=エピローグ】
【プロローグ】
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真空の大賢者キャリバン・ド・キャリバーンは事件の結末をこう語った。
—————————————————————————————————————
「……ともかく、あの【聖女】は食わせ物だったな。
……そうだな。あれの正体には、すっかり騙されたよ」
「あの女は……うん?……ああ。
……まぁ…言いたい事はわかるけどね、
話の腰を折らないでくれないかな?」
「え?…喋り方?……あぁ…もうあれは止めたんだ。
あの太っちょの言い分は面白かったが、喋りにくくてね」
「そうだね…【英雄】と【勇者】が、殺しあうだなんて、
一体誰が想像しただろう……そうだ【伝説の3人】その後継者の話だよ」
「私は、そこから動く事が出来なかった。
ただ見ている事しか出来なかったんだよ」
「……ん?…いや、名誉の為に言っておくけど、
別に臆病で動けなかった訳じゃないよ?
動くと死んでしまう状況だったわけさ」
「……うん…うん……事の発端?…
それはあれだろうね。
ウドドの運行列車が襲撃された事だろうね」
—————————————————————————————————————
または、転生した聖女と、その妹の再開。
—————————————————————————————————————
とある町の、人気の無い通りに、
ポツリと忘れられた2人がけのベンチ。
そこへ、あまり歳の変わらない、
2人の少女が、微妙な距離感で座っている。
「ようやく、会えた。
ずっと一人にしてごめん。
辛い事がいっぱいあったと思う…本当にごめん」
「いいんだよ。
仕方がないって今はそう思ってるし。
それにね、ほとんど掃除ばっかりしてたの私」
妹の言葉を聞いた聖女は、
胸につかえる栓が、ポンと抜けたのか、
深く、深く、息を吸い。
吸った時間の、数倍長い息を吐いた。
「もう泣きそう…本当に良かったわ」
「それで…えっと……姉さんって呼べば良い?」
「好きに呼んだら良いよ。
こんなんだし、文句言わないよ」
「じゃあ…お姉ちゃん」
「うん」
「お姉ちゃんと、もう会えないって
正直、そう思ってた…だからね。
こうやってるの、すごく嬉しいよ」
「色々な事…たくさんの事があったんだ」
「それは、顔を見ればわかるよ。
いったい何があったの?」
「そうだなぁ…何から説明すれば良いのか、
正直、上手に説明できないと思う。
……けど、強いて言うのなら…それは……」
妹は、長い話になると踏んだのか、
クネクネと座りを確かめ、姿勢を整えてから、
未だ、ハイライトを残した純粋な瞳で、
聖女の端整な顔を見つめた。
「うん…そう…ウドドっていう場所の列車を、
襲撃したのが、事の始まりだったと思う」
—————————————————————————————————————
または、異世界から召喚された少年への取材。
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「おっと!長生きしたいなら、
あんまり俺に近付かない方が良いですよ。
俺の事は知っているんでしょう?」
「……あ~彼女は…ちょっと人前がね……
彼女には、色々思う所があるんですよ。
そこはわかってくださいよ?」
「……はい…はいはい…ああ…元の世界?
そりゃトラックに轢かれたんですよ。
当たり前じゃないですか!ははは!!」
「……え?……あ~トラックって言うのは……
まぁ、良いか。とりあえず死んだんです」
「……いや…元の世界には未練はないですね…」
「事件の始まり?ん~…そうだなぁ。
確か……マルケリオンが言ってた気が…」
「ああっ…そうだ。
……ウドド?とか言う列車が襲撃されたとかで、
そうだそうだ…それが確か始まりだったはずですね」
—————————————————————————————————————
または王国兵団、団長への謁見。
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周辺国家で『殲滅の乙女』と称され、恐れられる彼女は、
あらゆる戦場で悪夢として語られる。
へシオーム王国の王城内にある、木造の兵舎で、
練習着の帯を緩めながら、対談に応する兵団長。
その所作からは、根っから真面目な気質が伺える。
「私が英雄?…歴史書にそう書くのですか?
私にとっての英雄は、彼だけなのですが……」
透明感のある白い肌、
金色の長髪、
潤った青眼、
絵画の様に整った顔。
ヘシオーム王国兵団長は、長考した後に、
細い顎に指を這わしながら、窓の外に目をやる。
「私でなくても、他に明らかな適任者が……
あぁっ…ごめんなさい。
私は、元来、自信がない人なので。
え?…はい。
今は若輩ながら兵団長を任せてもらっています」
「そうですね…虚神教過激派の残党がまだ……
いえ。容赦無く斬り殺します。できるだけ早く多く」
「はい。あの戦いは、私が最後の決着をつけました。
でも、きっと誰が欠けても勝利はなかったでしょう。
私の知り得ない事も多いのですが、それでも私はそう思います」
兵団長の開いた胸元から覗く、小さな傷。
彼女は、それを指先で優しく撫でてから、
顔を伏せて再び喋り始めた。
「そうですね…一番驚いたのは、ウドドから来た列車が破壊された時です。
あんな光景は初めて見ました……
とても希望に溢れた…そういう光景でした」
それを語り始めた兵団長は、
勇気に満ちた瞳を、凛と上に向けた。
—————————————————————————————————————
やがて、当事者達への取材文は、
歴史作家の手により書籍となった。
それは長い時を経て、
教材用の歴史書に要約して載せられ、
周辺国の多くで語られる事になる。
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【視野0】「田舎町の若い教員」
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13時を回ると、
草原で寝そべりたくなる陽気が、
教室の窓から降り注いだ。
心地の良い暖かな日差しが
ゆったりとした空気で生徒達を包んでいる。
「お~い。グングン。アドキン。寝るな~」
ぶくぶくに肥えた私が、
これまた眠そうな顔をして言うのだから
その言葉に説得力はないだろう。
「え~。前回は、どこまでやったかな……
そうだ、神無歴2372年の……え~」
私は、今にも朽ちそうな古書のページを、
ペラペラとめくり、フチの太いメガネを数回持ち上げて
「あったあった」と独り言をこぼした。
「はい。それじゃ今日は、ウドド運行列車破壊事件について、今日はやっていくぞ~」
私が先天的に与えられた、気の抜けた声には、
眠気を加速させる効能があると、一応自覚がある。
こんなのが教職員だと言うのだから困りものだと、自分でもそう思う。
しかし、王国領最東部の田舎町で教鞭を振るう教師など、
こんなものと言えば、こんなものなのだ。
後ろ向きな考えで、前向きにやろうじゃないか。
「んんッ!!はい……さて…じゃあ258ページ、左上から行くぞ~」
私は小さく咳払いをしてから始める。
分厚い歴史書のほんのひとコマ、
さっぱりとした文量で完結に語られる、
長い歴史の僅かな一部分。
ウドド運行列車破壊事件についてを。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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