恋愛ならよそでやれ

山猫

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第一幕

初めましての拒絶

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 16にして漸く本気になった父と対等に渡り合えるようになったとある夏の日、後もう少しというところで負けてしまった俺は、父の命令で村の見回り兼警備を言い渡された。


なんでも近場の森に生息する一部の魔物が原因不明の凶暴化を起こし、周辺の村へ下りては襲い回っているらしい。発情期かなんかか?


父のギルドに所属している冒険者グループの派遣によって事なきを得てはいるが、それも時間の問題らしく近々討伐隊を組むのだとかなんとか……まぁ、そこのところは俺には関係ないので気にしてはいない。


「異常なし」


ジョギングを兼ねて森を一周した後、何の異常もないことを確認して一息つく。途中見つけた湖の側で片膝をつき、 両手で水を掬うと渇いた喉を潤した。


寄生虫やらなんやらで汚れ、到底飲めやしなかった前世の川や湖を思い出して感慨に耽る。流石ファンタジーの世界、水が澄んでいて無味なのに美味しく感じる。


 襲いかかってくる低レベルの魔物を倒しつつ、休憩がてらこの湖に来たまではよかった。よくないのは、この後のことである。


「いーやーぁあぁあ!!!!」


「…………。」


湖の向こう側で、下級ゴブリン二匹に追いかけられてる何かが居た。いや何かではない、女だ。しかもヒラヒラの見るからに運動に不向きなドレスを着飾った貴族の女が。


「こんなの聞いてないー!!いつ来るのよバルドロはぁぁあー!!!」


「………バルドロ?」


淑女らしからぬ悲鳴と共に上がった覚えのある名前。助けようと上げかけた腰を止め、俺は逃げ回る女を注意深く観察した。


なぜ、あの女は俺の父を知っている?


父の関係者だろうか、それにしては歳若そうだ。俺と同い年かそれ以下か…。


だとしたらありえない。何せ父は大の貴族嫌いだから。


基本、ギルドの依頼に身分差はない。依頼した人間の提供できる報酬の度合いによってのランク分けは勿論あるが、それだけである。けれど父が長を務める冒険者ギルドだけは、平民限定だ。


それはなぜか、父がかなりの貴族嫌いだから。それに尽きる。理由?そんなの知らん。教えてくれなかった。


「ちょ、シャレになんない!!計画がパーになるじゃない、はやく早くー!!!!」


「しっかしうるさ……じゃない、元気な子だな」


 ゴブリンの攻撃を危なげなく避けつつ、逃げ回る女のガッツはある意味見ものだったが、バレたら後々面倒そうなので、仕方なく屈めていた腰を上げ、もう一つ携えていた短剣を抜き、ゴブリンに向けて勢いよく放つ。


「!?」


ドレスを引っ張り、女を転ばせたゴブリンの額に命中。死に絶えた相棒にもう一匹がようやっと俺の存在を認識したようだが、遅い。


「これで終わりだ!」


跳躍をつけて、向こう側へと跳ぶ。上空から奇襲をかけた俺に、驚き固まったゴブリンの脳天目掛けて剣を振り下ろした。


「……ふぅ」


絶命したことを確認してから、剣を収める。顔一面に浴びた血しぶきを服の袖で拭って、ため息をついた。こりゃ洗濯が面倒そうだ、さっさと帰ろう。


そういえばと、ゴブリンに引っ張り倒された女に視線を移す。女は座り込んだまま俯き、身体を震わせていた。……まさかとは思うが、怖がっているのか?今更?


これは本格的に面倒だなと頭を掻きつつ、立ち上がらせようと手を伸ばせば。


「バルドロ以外はノーセンキュー!!!」


「は?」


はたき落とされたと同時に逃げられた。まるでそう、前しか見えない猪のように走り去る女の後ろ姿を、俺はただただ茫然と見送った。



「………何だったんだ、一体」



というか何で拒絶されたんだ、今。


なんとなく腑に落ちない気持ちを抱きながらも、日が落ちかけていることに気付いて、再び溢れそうになったため息を呑み込み、その場を後にした。



……本当に散々な1日だった。



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