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鍛え方がわからんぞ
しおりを挟む俺、藤崎紀一には最近気になる人がいる。もちろん恋愛的な意味で。
想い人の名前は檜木玄角。地元の小さなお祭りで異様に迫力のあるリアルな鬼のお面を売っていた屋台の人(あまりにも迫力ありすぎて子供が屋台通り過ぎるたび泣かれてた)
かの人は近所の神社の裏手にある小さな古屋で一人お面を彫っていて、年齢も職業も謎だらけの人だ。唯一分かるのは少々老け……強面な顔立ち、175もある身長の俺(まだ高1だから伸びるはず)を見上げさせるぐらいの背に大柄な体格と、両腕に覆うように渦巻く竜の刺青だけ。いくら聞き出そうとしても黙して語らず、隣で勝手に騒いでいる俺をただ黙って一瞥したあと、作業に戻ってしまう。あまり騒ぎすぎると襟首掴まれて外に放り出されることもしばしば。
その見た目だけで関わってはいけないヤバい人なのが丸わかりなのに、なぜか気になってしまった俺はダイナミック突撃ならぬナンパもどきを決行(一緒にきていた友人がドン引きしてたが無視)こうして作業場に入り浸るほどに進展(?)し今に至るってわけ。
地道なりにも進展している証拠だと俺は思っている……思ってはいるんだけど。
「愛を込めて作った卵焼き弁当をどうぞ!ちょーっと焦げてますけど」
「炭の間違いじゃないか?」
「玄さん大好きです!!」
「そうか」
かの人は手強かった。それもかなり。
学校が終わったあと用事がある日以外は欠かさず古屋へ通って、慣れないながらも作った弁当を押しつ…渡しつつ、愛の告白をしては返される無言、変わるところを見たことがない無愛想な態度に正直、心折れそうである。いや、そういうところも好きだし絶対諦めないけども!!
今日も今日とて古屋の縁側で黙々と弁当を食べる玄さんの横顔を隣でうっとり眺めつつ、心中ごちる。やはりアレか……色気か。俺に色気がないから振り向かないのか。くそっ、俺だって一応薄着で距離詰めたり身長差狙ってわざとらしく上目遣いしてるのにまるで効いた様子もない。眉が少しピクっと動くだけだ。手厳しい。
それともこの胸か。たしか鍛えれば揉み心地が良くなるって側付きの大野(同性彼氏アリ)が言ってたっけなぁ…。
「……何してんだ」
「むん?」
自身の胸に手を当て軽く揉んでいたら、いつの間に完食していた玄さんに珍妙なものを観察するかのような目で見られていた。酷い。でもカッコいい。
「やっぱり玄さんも乳は大きい派ですか?」
「いきなり何の話だ」
「胸は大きい方が揉み心地がいいと友達が言っていたので」
「どうでもいいな」
手渡され綺麗に完食された弁当箱はあとで片付けようと傍に置き、少しだけ空いていた距離をそっと詰めて投げかけた質問はそっけなく返された。あ、本当に興味なさそう。
「たとえ交際している相手が同姓であってもそこは譲れないと熱心に語られたんで、もしかしたら玄さんもそういうこだわりがあるのかなーと思いまして」
「大きさよりも感度の問題だろ。不感症じゃなけりゃあどっちでも」
「そっか、感度かぁ…感度……ん?」
ふんふんなるほどと能天気に頷きかけて、気付く。あれ?今この人凄いこと言わなかった?
ゆったりとした動作で立ち上がり、彫りの作業に戻っていった玄さんの背中を振り返って見つめる。顔がめちゃくちゃ熱いのはきっと夏の照りつける日差しのせいだと思いたい。
しかし感度ってどう鍛えれば良くなれるんだ…?
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