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一話「範囲攻撃の鬼」

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少女は唖然とその光景を見る。

とても冷たい目だが、まだ輝きは残っている。

木々は倒れ、地面に凹凸が出来ている。



人の声だろうか?

うっすらと見える戦場からかすかに人の悲鳴と金属が擦れあう音が響いている。

逃げまどう人、それに斬りかかる人。



あぁ…



この町はアヴィセール王国付近の小さな村。

住民も100人、40世帯ぐらいの人が住んでいる。

小さな村だからこそ、村人たちの顔、名前、性格など懸命に覚えている。



今地面に倒れ込んだのは、カイさんか…

とても元気よく、私とよく一緒に、畑仕事とかしたっけ?



あれ?何で?



目から垂れる涙。

ぐっと、涙を堪えていたがとうとう溢れ落ちる。



私だけでも逃げなきゃ…



村人たちが残してくれた最後の希望なのだから。

私は懸命に走る。

死ぬ気で走る。



とにかく後ろを振り向かないように気お付けながら。

















「今日でこのゲームをやり初めて丁度2年ですね!イルルカさん!」



とても大きい円卓。

24席も置かれた椅子には現在4名が座っている。



このゲーム、エルドラドでは世界初の技術、VRMMOが搭載されている。

現実世界で、ナーヴギアと言う機械を頭につけ、ゲームに入る。



VRMMO RPG(Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)。



アメリカの天才プログラマー、レオン・グラッチェ率いるライト社が作成したエルドラドは、グラフィック、ゲームの自由性、何よりも300種類も越える人種、亜種、異物種。



その技術が世界に認められ、今は世界中にエルドラドは行き渡っている。



「もう、2年になりますかね…いやー。時間が過ぎるのが早すぎるぐらいです」



笑みを浮かべながらこちらに話しかける方はイルルカさん。

ギルド「範囲攻撃の鬼」のサブリーダーを勤めてるかたであり、

初期メンバーの一人である。



「イルルカは最近どうなん?リアル、前結構キツそうやったよな?」



椅子に足をかけ、手を組んでるチャラ男はジャックさん。

ジャックさんは元ヤンらしい…

「範囲攻撃の鬼」の中でもトップを争うレベルで仲間思いで、見た目では考えられない程の優男である。



「何とか落ち着いたよ…まぁ相変わらずのブラックだけどね」



リアルでは建築会社に勤めているらしいが、実はブラック企業らしい…。



前は長時間労働で、エルドラドにログイン出来てなかったが、

最近は以外とログインできている。



「それならいいんやけど…」



肩をすくめる。



「範囲攻撃の鬼」は社会人のみのギルドで、名前から分かるように、範囲攻撃を主とした人種のみの構成となっている。



範囲攻撃の鬼の本拠地「神の領域」は7階層の縦長い建物になっている。

僕達が居るのが、第六階層「玉座の間」の中にある円卓と言う場所だ。



第一階層「森林」第二階層「渓谷」第三階層「高野」第四階層「湖」第五階層「火山」第六階層「玉座の間」そして、第七階層「宝物庫」。



少し前、亜種のギルド「夜のパーティー」と名乗る者(約1000人)が神の領域に攻めに来たことがある。

まぁ…結果は見え見えだ。

第一階層「森林」を守るエレメンタルゴーレムによって一瞬で全滅となった。



「ジャックさん…今ギルドランキング何になってます?」



ギルドランキング…



「範囲攻撃の鬼」は最高で3位までいったことがある。

て言うか3位をキープしていた。

だが、24人居る範囲攻撃の鬼のメンバーはどんどんゲームを辞めていき、最終的に残ったのが8人。



「んーと、ほぇ!ヤバイっすよ!」



慌ててこちらにランキング画面を見せる。



「16位…?」



最強ギルドと呼ばれていた「範囲攻撃の鬼」も落ちぶれたものだ。

初めてランキング3位になったときはギルドの皆で、盛大に盛り上がった物だ。



「そろそろ仕事戻らなきゃなんで、アウトしますね!」



いつのまにか、時間が0時を過ぎていた。

イルルカさん、これから仕事に行く…のか?

完全にそれ、ブラック企業じゃん!と突っ込みたくなったが、何とか抑える。



「お疲れ様です!」



「仕事無理せんようにな!」



僕らは手を振りながらアウトするのを見送る。



もう少し話しませんか?



頭の中だったら、言えるんだけどな…



イルルカさんも、いつかはラグナロクを辞めてしまうんだよな…。



「自分も抜けるわ!お疲れ様っす!」



「え?もう?」



ついつい言葉に出してしまった。

だが、仕方ない。

ジャックさん、まだログインしてから10分も経ってないのに、アウトなんて幾らなんでも早すぎる。



僕の言葉は聞こえなかったらしく、この場からジャックさんの姿は消え去る。



「あぁ!もう!」

少々仲間のアウトの早さに苛立ちを隠せず、近くにあった樽を蹴飛ばす。



まぁしょうがないか…

現実世界リアルの方が断然こっちより優先だよな。



ウインド画面を開く。

そろそろ抜けないと、明日の仕事辛いかな…。

色々な思考を巡らせた結果は“アウト“だ。



生憎今日は日曜日、明日からは仕事が待っている。

流石に仕事をサボったら上司に怒られる事を予知した僕はログアウトと書かれた画面をタッチする。



周りが真っ暗になり、次第に体が軽くなっていく。

二年経っても、アウトするときのこの軽さは慣れないな。

などと思いながらアウトするのを黙々と待つ。



………。



遅い。幾らなんでも遅すぎる。



ゆっくりと瞼を開ける。



ここは?と思い周りを見渡す。

大きな部屋の中。真ん中には大きな机と多くの椅子。

真正面には装飾された扉があり、窓から日が照っている。



「円卓…か?」



確かに僕はログアウトしたはず…

押し間違えた…か?

確認するために、ウインド画面を開く。



………ん?



いつもなら出るはずのウインド画面が一行に出る気配はない。

それと同時にあることに気づく。



寒い…。

寒い、暑い、等の温度を感じるのは当たり前だが、

ここはゲームの中。



ラグナロクには温度を感じる機能は付いていないはずだ。



「何だこれ…?」



ついつい癖で、下半身のあそこを触ってしまう事がある。

ポジションが悪かったり蒸れたりするからだ。

ゲームの世界だから、そこまでリアルな訳がない。



少し前まではそうだった、だが今は…

ズボンの中に柔らかい何かがある。



何か気になった僕はズボンの中を覗く。



「何だこれぇぇぇぇ!」



ついてる。あれがついてるだと!?



「どうしましたか?そんなに大声上げて…」





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