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本編
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私は貴族とはいっても末端の末端の先、ほぼ平民といっても過言ではない家に産まれた。
長男が爵位を受け継ぐことは決まっており、次男の私は何らかの仕事を持ち生計を立てなければならない。そこで、迷わず城の騎士になることにした。
それというのもこの国の若き王は本当に立派な方だからだ。
今の陛下になる以前、この国は他の国々と同じように身分の高いほぼ世襲制のような老いた人々が国の大臣など要職を担っていた。
前国王も善政を敷いたが正妃様一筋の方であったのに老いた故か晩年は側室を十人も娶り晩節を汚した。
だが陛下は身分に関係なく優秀な若者をとりたて古き慣習を一掃した。おかげで我が国は他の国よりも大胆な政策が次々と行われ国は潤っていった。
そして、その政治手腕もさることながら、陛下は国で一番と言われる美丈夫で、国中の女性を虜にしている。
陛下は『微笑みの貴公子』と言われていて、その微笑みを運良く見ることができた者は男女を問わず天にも登る心地になるらしい。
私は遠目でしかお目にかかったこともないがそんな陛下を尊敬し目標として生きてきた。だから、少しでもお役に立てるよう騎士を志したのだ。
そして、無事に城詰めの騎士となり1年が過ぎた頃、騎士団長に団長室へと呼び出された。
室内で待っていたのは団長と城の護衛隊長であった。そこで私に告げられたのは王妃付きの護衛騎士隊への異動命令だった。
私は不服この上なかったが命令に逆らうことなど許されるはずもない。渋々辞令を受け入れるしかなかった。あぁ、これが陛下付きであったならばどんなに良かっただろう?
私が王妃付きの護衛になることに不満だったのは他でもない。
陛下は賢王であられるというのに、その妻である王妃は国民からの支持はないに等しい人物だ。
なぜなら、王妃は公務など全くというほど行わず、顔のいい若者達をはべらかしハーレムを作り、昼間から酒を飲んでいるような悪妻であるとの街中の噂であったからだ。
よりにもよって陛下の足を引っ張るような悪名高い王妃付きの護衛だなんて。私がこれまで必死に騎士になるため努力し続けたのは陛下の御ためだ。ハーレム要員になるためではない。
だが、それでも陛下のお近くに勤めていればお姿を拝見できることもあるだろう。不本意だがそれだけを楽しみに勤めよう。そう気持ちを切り替えた。
早速、護衛隊員の一人バッシュ先輩に連れられ私は王妃と顔合わせをすることとなった。先輩が部屋をノックすると中から側仕えと思われる青年が出てきて王妃の元へと案内をしてくれた。
部屋に入ると噂にたがわず5人程の召使いや側仕えと思われる青年達がいたが、どの者も見目が非常に整っている。王妃は昼間だというのに部屋のカウチに寝転び青年達にマッサージをされていた。
「王妃様。新人騎士グェインを連れてまいりました。」
寝転びながら顔だけをこちらに向けた王妃は
「新人?まさかバッシュお前!」
「はい。本日をもちまして移動となりました。私の代わりにこちらのグェインがこれから王妃様の護衛となります。」
「くっそう!またか!」
この時王妃を初めて間近に見たが目は酒でも飲んでいたかのように赤く潤んでおり、陛下には不釣り合いな凡庸な容姿をしていた。そして、言葉づかいにいたっては高貴な人とは思えぬ口ぶり、噂以上に悪辣な人物のようだった。
「バッシュ、ちょっと来い。ここへ座れ。」
そして、王妃は先輩を呼びつけるとその頭を胸に抱え顔をその首元に寄せ、小声で何事かを呟いた。
「せっかく……………たのに」
王妃は諦めたかのように先輩の頭を離した。
「王妃様。名残り惜しゅうございますが、これにてお別れです。お側から離れましてもこのバッシュいつまでも心は王妃様の側におります。」
涙を堪えるように王妃の側に片膝をつきその手を握りながら先輩はそう言った。だと言うのに王妃は
「裏切り者。ふんだ。ふーんだ。みんなそう言うくせにアイツの言いなりで若いイケメン連れてきちゃ行っちまうんだから。」
「王妃様。これからはこのグェインを頼りにしてくださいませ。」
「そいついくつ?」
「20歳にございます。」
「わっか。その上またまたイケメン。今度は三代目系かよ。この前連れてきたのはジョニーズ系だし、ここのみんなでユニットくんだら国中の女釣れんじゃないの?」
「フフフ。王妃様相変わらずですね。それでは私はここの案内を新人に致しますので御前を失礼致します。」
王妃はため息を1つついたあと、追い払うように手をふるとまたマッサージを再開させた。
部屋を辞して私は先輩に思い切って聞いてみることにした。
「先輩はあのような方の側を離れることが本当に悲しいのですか?それに先輩の首元で一体何をされていたのです?」
先輩は頭をかきながら、
「クク。不思議そうだな?あの方は本当にお優しく我々にもいつも良くしてくださるのだぞ。首元の謎はそのうちとけるさ。お前もどうせ陛下は素晴らしい方で王妃はどうしようもない方だと思ってるんだろ?」
「はい。こう言ってはなんですが、公務にも出ず昼間からあのように寝そべっているようなお方などに仕えたくなどありません。私は陛下のお役に立ちたく騎士となったのです。」
「まぁ、そう言うなって、お前もそのうちわかる。それに王妃付きのものも皆最初はそう言うが、教会から帰ってくると皆、王妃様応援し隊のメンバーになるんだ。」
「王妃様応援し隊?」
「その名の通り王妃様を陰ながら見守り恙無くお過ごしいただけるよう尽くし応援する親衛隊だ。」
「皆さんどうかされているんではないですか?私は、そのようなものに入るなど一生ありえません。」
「まぁまぁ。じゃあオレは行くから王妃様のことくれぐれも頼んだぞ!」
私は全くと言っていいほど先輩の言葉がわからなかったが、護衛対象の王妃を守ることは職務として割り切ることにした。
意外にも王妃の護衛は特に変わったこともなかった。噂通りなら私を呼び出し、いかがわしい相手など勤めなければならないのではないかとヒヤヒヤしていだが、そのようなことは全くない平穏な日常が続いた。
その日々の中で私は憧れの陛下を間近に見ることができた。陛下はどんなに夜遅くまで職務をなされても必ず王妃の間へきては、夜を過ごされるのだ。
私はそれが不思議でならなかった。自分が夜更けまで仕事に忙殺されているというのに部屋からもほとんど出ず怠惰な日常を過ごしている王妃に陛下は腹が立たないのだろうか?やはり陛下は心の広い立派な方なのだろう。私はますます陛下を尊敬した。
そして、月に一度教会へとご夫妻がまいられる護衛として私が付き添うことになり、ご夫妻は同じ馬車にのられた。
やがて、教会へと着き馬車から降りる際王妃が躓き転びそうになったが陛下はすぐに抱き止められた。だが、そんな陛下にお礼を言わないばかりか鬱陶しそうに王妃は振り払った。
私は顔には出さなかったが、王妃のその態度に内心腹を立てていた。陛下も陛下だ。ご自分の妻とはいえ、なぜこのような者にいつまでも好き勝手にさせておくのだ。
さっさと離縁して美しく聡明な女人を娶ればよいのに。さぞや陛下に似たお子様に恵まれるだろう。残念でならない。
王妃は陛下を振り払ったあと神の像へと小走りで近づき見上げると、その前へドカっと座り込み話しかけ始めた。
「神様。今日こそはちゃんと聞いてくれよ。オレね土下座パターンの転生者ってさ、間違って殺しちゃいました。その代わりあなたに新しい幸せな人生あげますってのが普通だと思うんだよ。だけどさぁ。オレ言ったよな?お前とは趣味があわねぇって!
なにが『やっぱり攻めといえばイケメン、スパダリ、ドSで受けを愛し過ぎちゃって、体の中を精液で毎日いっぱいにしないと満足できないような旦那。できればヤンデレが入ってて受けを監禁とか?』だよ!この腐女神、駄目神!
オレは何度も言ったろうよ!それはお前の好みであってオレの好みとはかけ離れてるから、ちゃんとオレの好みの相手にしてくれって!お前の明らかな不満顔見て嫌な予感はしたよ。すっごく。でもさぁ、お詫びなら自分の趣味は曲げてでも相手の好みに合わせるのが普通なんじゃないのか?
何度も言うようだがオレはスパダリイケメンとかいらねぇんだよ。オレの推しに主役級は今まで一人もいねぇ。順番で言ったら主役から数えて5番目以降。身長別の絵だったら、端っことかに書かれてる人。登場人物相関図だったら一番外側に書かれてる男前じゃないけど愛嬌のある包容系。全部無理なら年齢は倍以上離れた加齢臭どんとこいのおじさまにしてくれって言っただろうがよ!枯れ専なんだよオレは!
なのに、お前の好みまんまのダンナに嫁がせやがって!知ってるか?こいつオレが産まれた時からロックオンして、オレが好みじゃねぇからお断りしますって何度も言ってんのに、周りから追い込んで結婚しなきゃ破滅させると脅して婚姻届書かせた男だぞ!しかも、初夜なんて媚薬もって一週間もオレに突っ込んだんだぞ!だけど、腹壊さなかったってなんだよ!なんなの?エロ仕様なの?オレの体勝手にいじってんじゃねえよ!
大体コイツの親父も可哀想すぎるだろ!オレとの間に跡継ぎは望めねぇからって正妃様一筋だったのに側室10人も押し付けられて、子づくりさせられたんだぞ!何を脅されたんだか知らねぇけど毎日バイ○グラ飲まされて息子の大量生産だ。泣きながらセックスしてたらしいぞ!こぇーわ!皇太子みたらいつも可哀想で泣けてくるわ!
それになぁ、趣味のおじさまウォッチングさえ認めず、ピッチピッチの若いイケメンで側仕えから何からオレの周りを固めてんだ。おかげで、国民からハーレム作って毎日酒池肉林の日々を過ごし公務にも出席しないロクでもない王妃に思われてんだぞ。それを嬉しそうに、オレを誰からも好かれないように孤立させてウッソリ笑うような完全なヤンデレなんだコイツは!
大体、毎日あんなねちっこいセックスされて公務なんか出れるわけねぇわ!朝起きたら産まれたての子鹿だぞ!マッサージしてもらわなきゃトイレもいけねぇわ!
毎日毎日バカみたいにセックスしやがって、オレの尻なんかこいつの出したもんで乾く暇もない!それなのに尻のアナ毎回ちゃんと処女みたいに戻るんだぞ!
しかも、いちゃもんつけては、お仕置きセックス。この前のお仕置き理由なんて『このパンうめぇ。料理長褒めといて』って言っただけだぞ!料理長の顔さえ見たことねぇわ!せめて、ちょっとぐらいオレの要望聞き入れた相手にしてくれりゃよかったろうよ!」
「リースそなたも飽きないな。教会にきては神に文句言うなんて。今まで返事がきたことなどないではないか?そろそろしつこいと神の怒りを買うやもしれぬぞ?」
「オレからしつこい取ったら、絞りかすしか残らないって前世のかぁちゃんもいつも言ってたわ!それにわかんねぇだろ?反省してやり直させてくれるかもしれねぇじゃねぇか!」
「そなたも学習しないなぁ。そんなこと言って今日もお仕置きかな?」
「もう慣れたわ!悲しいくらい慣れたわ!そんなこともうどうでもいいんだよ!オレに癒しくれっちゅうの!いい感じの大臣のおじさまも全部左遷させやがって!周りの側仕えも騎士もやっと加齢臭出た頃に入れ替えてお前なんなの?ちょっとはお前も譲歩しろよ!」
「そんなこと許すはずもあるまい?そなたは私だけをその瞳に映していればよいのだ。」
「最悪!マジ最悪!ヤンデレどころかヤンしかねぇじゃねぇかよ!」
「私の側室に入りたいものなど、山のようにいるぞ?そんな私の愛を一身に受けているというのに何が不満なのだ?」
「知ってるさ。『微笑みの貴公子』だろ?頭の中覗けたらみんなドン引きするわ!いつも笑ってるのは、オレを今夜はどう料理するか考えてるからじゃねぇか!」
「やはり愛し合っている者同士は通じ合うものだな。」
「万年同じこと考えてりゃオレじゃなくてもわかるわ!」
「それでは今日もご期待に応えねばなるまいな。久しぶりに尿道責めコースはいかがかな?」
「やっぱ慣れたのうそ!なし、それはなしでお願いします。あれはキツイ。遠慮しときます。許して~」
「ハハハ。そこまで喜んでくれるとは。」
「オレがいつ喜んだよ?ぎゃあぁ。た~す~け~て~~~」
そして、陛下は王妃様を俵抱きにすると笑いながら馬車へと乗り込んでいき、ガタガタと激しく揺れだした。
私の中の陛下のイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていく。一瞬気絶していたような気がしたが、我に返ると他の護衛達が私を温かい目で見つめていた。
「王妃様応援し隊に入会しても?」
「「「「「ウェルカ~厶」」」」」
おしまい
長男が爵位を受け継ぐことは決まっており、次男の私は何らかの仕事を持ち生計を立てなければならない。そこで、迷わず城の騎士になることにした。
それというのもこの国の若き王は本当に立派な方だからだ。
今の陛下になる以前、この国は他の国々と同じように身分の高いほぼ世襲制のような老いた人々が国の大臣など要職を担っていた。
前国王も善政を敷いたが正妃様一筋の方であったのに老いた故か晩年は側室を十人も娶り晩節を汚した。
だが陛下は身分に関係なく優秀な若者をとりたて古き慣習を一掃した。おかげで我が国は他の国よりも大胆な政策が次々と行われ国は潤っていった。
そして、その政治手腕もさることながら、陛下は国で一番と言われる美丈夫で、国中の女性を虜にしている。
陛下は『微笑みの貴公子』と言われていて、その微笑みを運良く見ることができた者は男女を問わず天にも登る心地になるらしい。
私は遠目でしかお目にかかったこともないがそんな陛下を尊敬し目標として生きてきた。だから、少しでもお役に立てるよう騎士を志したのだ。
そして、無事に城詰めの騎士となり1年が過ぎた頃、騎士団長に団長室へと呼び出された。
室内で待っていたのは団長と城の護衛隊長であった。そこで私に告げられたのは王妃付きの護衛騎士隊への異動命令だった。
私は不服この上なかったが命令に逆らうことなど許されるはずもない。渋々辞令を受け入れるしかなかった。あぁ、これが陛下付きであったならばどんなに良かっただろう?
私が王妃付きの護衛になることに不満だったのは他でもない。
陛下は賢王であられるというのに、その妻である王妃は国民からの支持はないに等しい人物だ。
なぜなら、王妃は公務など全くというほど行わず、顔のいい若者達をはべらかしハーレムを作り、昼間から酒を飲んでいるような悪妻であるとの街中の噂であったからだ。
よりにもよって陛下の足を引っ張るような悪名高い王妃付きの護衛だなんて。私がこれまで必死に騎士になるため努力し続けたのは陛下の御ためだ。ハーレム要員になるためではない。
だが、それでも陛下のお近くに勤めていればお姿を拝見できることもあるだろう。不本意だがそれだけを楽しみに勤めよう。そう気持ちを切り替えた。
早速、護衛隊員の一人バッシュ先輩に連れられ私は王妃と顔合わせをすることとなった。先輩が部屋をノックすると中から側仕えと思われる青年が出てきて王妃の元へと案内をしてくれた。
部屋に入ると噂にたがわず5人程の召使いや側仕えと思われる青年達がいたが、どの者も見目が非常に整っている。王妃は昼間だというのに部屋のカウチに寝転び青年達にマッサージをされていた。
「王妃様。新人騎士グェインを連れてまいりました。」
寝転びながら顔だけをこちらに向けた王妃は
「新人?まさかバッシュお前!」
「はい。本日をもちまして移動となりました。私の代わりにこちらのグェインがこれから王妃様の護衛となります。」
「くっそう!またか!」
この時王妃を初めて間近に見たが目は酒でも飲んでいたかのように赤く潤んでおり、陛下には不釣り合いな凡庸な容姿をしていた。そして、言葉づかいにいたっては高貴な人とは思えぬ口ぶり、噂以上に悪辣な人物のようだった。
「バッシュ、ちょっと来い。ここへ座れ。」
そして、王妃は先輩を呼びつけるとその頭を胸に抱え顔をその首元に寄せ、小声で何事かを呟いた。
「せっかく……………たのに」
王妃は諦めたかのように先輩の頭を離した。
「王妃様。名残り惜しゅうございますが、これにてお別れです。お側から離れましてもこのバッシュいつまでも心は王妃様の側におります。」
涙を堪えるように王妃の側に片膝をつきその手を握りながら先輩はそう言った。だと言うのに王妃は
「裏切り者。ふんだ。ふーんだ。みんなそう言うくせにアイツの言いなりで若いイケメン連れてきちゃ行っちまうんだから。」
「王妃様。これからはこのグェインを頼りにしてくださいませ。」
「そいついくつ?」
「20歳にございます。」
「わっか。その上またまたイケメン。今度は三代目系かよ。この前連れてきたのはジョニーズ系だし、ここのみんなでユニットくんだら国中の女釣れんじゃないの?」
「フフフ。王妃様相変わらずですね。それでは私はここの案内を新人に致しますので御前を失礼致します。」
王妃はため息を1つついたあと、追い払うように手をふるとまたマッサージを再開させた。
部屋を辞して私は先輩に思い切って聞いてみることにした。
「先輩はあのような方の側を離れることが本当に悲しいのですか?それに先輩の首元で一体何をされていたのです?」
先輩は頭をかきながら、
「クク。不思議そうだな?あの方は本当にお優しく我々にもいつも良くしてくださるのだぞ。首元の謎はそのうちとけるさ。お前もどうせ陛下は素晴らしい方で王妃はどうしようもない方だと思ってるんだろ?」
「はい。こう言ってはなんですが、公務にも出ず昼間からあのように寝そべっているようなお方などに仕えたくなどありません。私は陛下のお役に立ちたく騎士となったのです。」
「まぁ、そう言うなって、お前もそのうちわかる。それに王妃付きのものも皆最初はそう言うが、教会から帰ってくると皆、王妃様応援し隊のメンバーになるんだ。」
「王妃様応援し隊?」
「その名の通り王妃様を陰ながら見守り恙無くお過ごしいただけるよう尽くし応援する親衛隊だ。」
「皆さんどうかされているんではないですか?私は、そのようなものに入るなど一生ありえません。」
「まぁまぁ。じゃあオレは行くから王妃様のことくれぐれも頼んだぞ!」
私は全くと言っていいほど先輩の言葉がわからなかったが、護衛対象の王妃を守ることは職務として割り切ることにした。
意外にも王妃の護衛は特に変わったこともなかった。噂通りなら私を呼び出し、いかがわしい相手など勤めなければならないのではないかとヒヤヒヤしていだが、そのようなことは全くない平穏な日常が続いた。
その日々の中で私は憧れの陛下を間近に見ることができた。陛下はどんなに夜遅くまで職務をなされても必ず王妃の間へきては、夜を過ごされるのだ。
私はそれが不思議でならなかった。自分が夜更けまで仕事に忙殺されているというのに部屋からもほとんど出ず怠惰な日常を過ごしている王妃に陛下は腹が立たないのだろうか?やはり陛下は心の広い立派な方なのだろう。私はますます陛下を尊敬した。
そして、月に一度教会へとご夫妻がまいられる護衛として私が付き添うことになり、ご夫妻は同じ馬車にのられた。
やがて、教会へと着き馬車から降りる際王妃が躓き転びそうになったが陛下はすぐに抱き止められた。だが、そんな陛下にお礼を言わないばかりか鬱陶しそうに王妃は振り払った。
私は顔には出さなかったが、王妃のその態度に内心腹を立てていた。陛下も陛下だ。ご自分の妻とはいえ、なぜこのような者にいつまでも好き勝手にさせておくのだ。
さっさと離縁して美しく聡明な女人を娶ればよいのに。さぞや陛下に似たお子様に恵まれるだろう。残念でならない。
王妃は陛下を振り払ったあと神の像へと小走りで近づき見上げると、その前へドカっと座り込み話しかけ始めた。
「神様。今日こそはちゃんと聞いてくれよ。オレね土下座パターンの転生者ってさ、間違って殺しちゃいました。その代わりあなたに新しい幸せな人生あげますってのが普通だと思うんだよ。だけどさぁ。オレ言ったよな?お前とは趣味があわねぇって!
なにが『やっぱり攻めといえばイケメン、スパダリ、ドSで受けを愛し過ぎちゃって、体の中を精液で毎日いっぱいにしないと満足できないような旦那。できればヤンデレが入ってて受けを監禁とか?』だよ!この腐女神、駄目神!
オレは何度も言ったろうよ!それはお前の好みであってオレの好みとはかけ離れてるから、ちゃんとオレの好みの相手にしてくれって!お前の明らかな不満顔見て嫌な予感はしたよ。すっごく。でもさぁ、お詫びなら自分の趣味は曲げてでも相手の好みに合わせるのが普通なんじゃないのか?
何度も言うようだがオレはスパダリイケメンとかいらねぇんだよ。オレの推しに主役級は今まで一人もいねぇ。順番で言ったら主役から数えて5番目以降。身長別の絵だったら、端っことかに書かれてる人。登場人物相関図だったら一番外側に書かれてる男前じゃないけど愛嬌のある包容系。全部無理なら年齢は倍以上離れた加齢臭どんとこいのおじさまにしてくれって言っただろうがよ!枯れ専なんだよオレは!
なのに、お前の好みまんまのダンナに嫁がせやがって!知ってるか?こいつオレが産まれた時からロックオンして、オレが好みじゃねぇからお断りしますって何度も言ってんのに、周りから追い込んで結婚しなきゃ破滅させると脅して婚姻届書かせた男だぞ!しかも、初夜なんて媚薬もって一週間もオレに突っ込んだんだぞ!だけど、腹壊さなかったってなんだよ!なんなの?エロ仕様なの?オレの体勝手にいじってんじゃねえよ!
大体コイツの親父も可哀想すぎるだろ!オレとの間に跡継ぎは望めねぇからって正妃様一筋だったのに側室10人も押し付けられて、子づくりさせられたんだぞ!何を脅されたんだか知らねぇけど毎日バイ○グラ飲まされて息子の大量生産だ。泣きながらセックスしてたらしいぞ!こぇーわ!皇太子みたらいつも可哀想で泣けてくるわ!
それになぁ、趣味のおじさまウォッチングさえ認めず、ピッチピッチの若いイケメンで側仕えから何からオレの周りを固めてんだ。おかげで、国民からハーレム作って毎日酒池肉林の日々を過ごし公務にも出席しないロクでもない王妃に思われてんだぞ。それを嬉しそうに、オレを誰からも好かれないように孤立させてウッソリ笑うような完全なヤンデレなんだコイツは!
大体、毎日あんなねちっこいセックスされて公務なんか出れるわけねぇわ!朝起きたら産まれたての子鹿だぞ!マッサージしてもらわなきゃトイレもいけねぇわ!
毎日毎日バカみたいにセックスしやがって、オレの尻なんかこいつの出したもんで乾く暇もない!それなのに尻のアナ毎回ちゃんと処女みたいに戻るんだぞ!
しかも、いちゃもんつけては、お仕置きセックス。この前のお仕置き理由なんて『このパンうめぇ。料理長褒めといて』って言っただけだぞ!料理長の顔さえ見たことねぇわ!せめて、ちょっとぐらいオレの要望聞き入れた相手にしてくれりゃよかったろうよ!」
「リースそなたも飽きないな。教会にきては神に文句言うなんて。今まで返事がきたことなどないではないか?そろそろしつこいと神の怒りを買うやもしれぬぞ?」
「オレからしつこい取ったら、絞りかすしか残らないって前世のかぁちゃんもいつも言ってたわ!それにわかんねぇだろ?反省してやり直させてくれるかもしれねぇじゃねぇか!」
「そなたも学習しないなぁ。そんなこと言って今日もお仕置きかな?」
「もう慣れたわ!悲しいくらい慣れたわ!そんなこともうどうでもいいんだよ!オレに癒しくれっちゅうの!いい感じの大臣のおじさまも全部左遷させやがって!周りの側仕えも騎士もやっと加齢臭出た頃に入れ替えてお前なんなの?ちょっとはお前も譲歩しろよ!」
「そんなこと許すはずもあるまい?そなたは私だけをその瞳に映していればよいのだ。」
「最悪!マジ最悪!ヤンデレどころかヤンしかねぇじゃねぇかよ!」
「私の側室に入りたいものなど、山のようにいるぞ?そんな私の愛を一身に受けているというのに何が不満なのだ?」
「知ってるさ。『微笑みの貴公子』だろ?頭の中覗けたらみんなドン引きするわ!いつも笑ってるのは、オレを今夜はどう料理するか考えてるからじゃねぇか!」
「やはり愛し合っている者同士は通じ合うものだな。」
「万年同じこと考えてりゃオレじゃなくてもわかるわ!」
「それでは今日もご期待に応えねばなるまいな。久しぶりに尿道責めコースはいかがかな?」
「やっぱ慣れたのうそ!なし、それはなしでお願いします。あれはキツイ。遠慮しときます。許して~」
「ハハハ。そこまで喜んでくれるとは。」
「オレがいつ喜んだよ?ぎゃあぁ。た~す~け~て~~~」
そして、陛下は王妃様を俵抱きにすると笑いながら馬車へと乗り込んでいき、ガタガタと激しく揺れだした。
私の中の陛下のイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていく。一瞬気絶していたような気がしたが、我に返ると他の護衛達が私を温かい目で見つめていた。
「王妃様応援し隊に入会しても?」
「「「「「ウェルカ~厶」」」」」
おしまい
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