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14. 暢気な相棒

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「おっ、マティアス! 生きてたかぁ!」

 関所に到着するやいなや、マティアスたちを向かえたのは相棒のルーセルだった。
 笑顔で駆け寄ってきた彼は、マティアスより頭一つ分ほど大きい。騎士として、非常に立派な体躯を持った黒髪赤目の男だ。体の厚みもマティアスの二倍はある。

 吹雪で遭難してないか心配してたんだ、と笑いながらルーセルはマティアスの背中をバンバン叩いた。マティアスだって鍛えてはいるけど、ルーセルの親愛は少しばかり痛い。

「いてて。相変わらず馬鹿力め。そういうルーセルも元気になって何よりだよ。腹痛の原因は何だったんだ?」
「それがさー、王都を発って二日目の昼間に食べた木の実に毒があったらしくてなぁ。アサの実によく似たクイルの実ってやつだったらしい」

 いやー、まいったなぁ、なんて暢気に話す相棒にマティアスは肩をがっくりと落とした。……やっぱり拾い食いじゃないか。

 そのアサの実だか、クイルの実だかは知らないけれど、そんなものをマティアスは口にしてない。おそらく休憩のときに、マティアスが見てないところで木に生ってたものか落ちていたものを口にしたのだろう。
 クイルの実は死ぬことはないものの、激しい腹痛と発熱を引き起こす毒のある実だったらしく「大変だったわー」とルーセルはへらへらとしていた。

「はぁ……。とにかく快復してよかったよ」
「おう、ありがとな。それで? この恐ろしく美形の兄さんは?」

 ルーセルはそう言って、マティアスの斜め後ろで少し怪訝な顔をしていたアルテュールへ目を向けた。そこでようやくマティアスもアルテュールを放置していたことに気がつく。

「あっ、ごめん。ええっと、この方は僕たちが迎えに来た占星術師様だよ」
「はじめまして。アルテュール・エランと申します。貴国からお招きいただきまして、ウェザンダリアから参りました」

 美形の兄さんと言われたアルテュールは、朗らかな笑顔を浮かべてルーセルに手を差し出した。

「な、え……占星術師さま? いや、え?」

 ぽかんと口を開けて混乱しているルーセルを、アルテュールはにこにこと笑って見ていた。その様子にマティアスは説明を追加する。

「吹雪にあって山小屋に避難してたんだけど、そこにたまたまアルテュール様もいらっしゃったんだ。アルテュール様も僕と同じように、その小屋へ避難されてきてさ。お会いできてよかったよ」

 マティアスは、ルーセルに経緯いきさつを簡潔に話した。

「はぁー、そういうことでしたか。それはまた随分と災難でしたね。アルテュール様、お怪我などは?」
「ご心配痛み入ります。幸いにもマティアスくんに出会えましたから、この通り。怪我一つなく、こちらへ伺うことができました」
「それは何よりでした。俺はマティアスの相棒で、騎士団所属のルーセルと言います。マティアスと共にアルテュール様を王都までお連れしますので、よろしくお願いします」

 ルーセルは人懐っこい笑顔とともに、差し出されたアルテュールの手を握った。和やかな握手が交わされたことにマティアスもほっとする。

「よろしくお願いしますね、ルーセルさん。ところで——つかぬことをお尋ねしますが、ルーセルさんは恋人や伴侶の方は?」
「はい?」

 突然の質問にルーセルは目を点にした。
 一方で、突飛な問いをかけたアルテュールはというと、にこにこと笑顔を向けている。ルーセルの間抜けな反応に臆することもなく、微笑みながら大柄な騎士を見続けるだけ。

 その異様な光景に、周囲にいた国境警備隊の兵士たちは内心で震え上がっていたが、マティアスはそんなことを知る由もなかった。いったいどうして、ルーセルの恋愛事情に興味があるのだろうと、暢気に頭を捻るほどだった。

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