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10. はじめて *

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(口づけ、って……こんな、気持ちいい、んだ……?)

 意識がぼんやりとしてきて、マティアスはされるがままに口づけられた。
 どのくらいそうしていたのか……ぢゅっ、と舌を強く吸われると、ようやく男の唇が離れていく。名残惜しむようにアルテュールは、はぁ……と艶かしく吐息をついた。

 マティアスの体から、くたりと力が抜ける。よろめく体をアルテュールが支え、自身の肩口にマティアスの頭を預けた。

「マティアスくんは、口づけは初めてでした?」

 よしよし、と頭を撫でられて、マティアスは正直に頷いた。
 恋をしたことのない——あえて言うなら、幼少期の初恋らしき経験しかないマティアスが、接吻の経験などあるはずもない。両親が頬や額に落としてくれたことはあるけれど、唇を重ねるものはもちろんのこと、あんな……普段他人が触れることのない柔らかな場所を舐め回される口づけなど、今回が初めてだった。

「嫌じゃありませんでした?」
「はい……」
「そうですか。ふふっ……あなたは本当に可愛らしいですね」

 ぎゅう、と背中に回された腕で強く抱き締められる。すると、彼の匂いと体温を近くに感じた。マティアスが寝ている間に清拭をしたのか嫌な匂いはせず、彼自身の匂いがして、どきまぎする。
 自分も、彼が寝ている間に清拭はしたけれど、王都を発ってからはきちんと湯浴みはしていないので大丈夫だろうか、なんて思った。

 けれど、アルテュールは気にする様子もなく、腕を背中に回したままマティアスの耳朶やこめかみに唇を落としたり、優しく食んだりしていた。

「あの……アル、テュールさ、ま?」

 口づけもさることながら、抱き締められ、唇で触れられる行為にマティアスは困惑の声を上げた。しかし、困惑はしているものの、アルテュールを突き飛ばすようなことはしない。彼から受けた口づけも抱擁も、愛撫のような触れ合いも、ひどく心地が良かったからだ。

「ふふふっ。抵抗しなくていいんですか? そのままだと私、マティアスくんのこと、最後まで食べてしまいますよ?」

 男が耳元でくつくつと笑い、囁く。

「え……と、あの……」
「マティアスくんがいくら初心うぶでも、わかるでしょう?」

 ほら、逃げるなら今ですよ、と背中に回された腕が解かれ、マティアスの肩をそっと押す。マティアスよりも背の高いアルテュールは、椅子に座っていても視線は上だ。その紫水晶を嵌めこんだみたいな双眸に見つめられても、マティアスは彼を突っぱねることはできなかった。

 ——その先を、期待してしまっていたから。

「そんな顔で見つめるなんて……。忠告はしましたからね?」

 そう言って、アルテュールはマティアスの腕をとって椅子から立ち上がらせた。そのまま腕を引かれて、ベッドへと連れていかれる。昨夜、アルテュールが寝床にしていたベッドだ。
 ベッドのすぐ横まで来ると、とんっと肩を押されて、マティアスは容易くベッドへと転がった。条件反射で起き上がろうとする前に、マティアスの上に男が覆い被さってくる。

「舌、出してください」

 色気を帯びた声色で言われて、マティアスはおずおずと舌先を伸ばした。

「はっ……んむっ」
「ん……ふふっ、素直で……いいですね」

 舌を絡められると、またもや頭がぼんやりしてくる。
 そのうちに、アルテュールはマティアスの衣服を脱がせ始めた。

 小屋の中は暖炉のおかげで暖かく、二人とも交互ではあるが睡眠もとったので軽装だ。寝間着なんてものはないのでローブやコートなどはすべて脱いで、上は薄いシャツと肌着だけ。下も重いブーツは脱いでいて、スラックスと靴下、それに下穿きくらいだ。
 だから、アルテュールがマティアスの服を脱がすのに、そう時間はかからなかった。

 マティアスの衣服をすべて脱がすと、アルテュールもばっと自分の服を脱ぎ去った。長身だが、彼は占星術師だ。だから騎士であるマティアスほど鍛えられてはいないだろうと思っていたが、意外にもそれなりの体つきをしていた。騎士団に所属している猛者ほどではないが華奢なわけではなく、うっすらと筋肉がついている。

「あ……アルテュールさま……」
「怖がらないで。私に任せてくれればいいですからね」

 ちゃんと優しくしますよ、と笑ったと思えば、男はマティアスの胸元へと顔を寄せた。

「なに、を……ぁ、んぅっ」

 ビリッと痺れのようなものが走って、マティアスは目を丸くした。見れば、アルテュールがマティアスのほどよく鍛えられた胸元の上に色づく突起に舌を這わせている。
 そんな場所を? という疑問は、再び与えられた刺激で霧散してしまった。

「あっ……そこ、くすぐった、ぁ」
「気持ちいい、の間違いじゃないですか?」

 愉快そうに笑って、彼はその形の良い唇で乳首を食む。マティアスの口内を弄んだ舌で、勃ち上がった乳首を舐め回す。今まで感じたことのない感覚が体を走って、マティアスは息を上げた。

 これが性的な快楽であることは、もう理解していた。

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