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06. 星読みの力

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「あのときの術も綺麗だったけれど、やっぱりアルテュール様ほどの術師様になると素晴らしいものですね」
「ふふふ。お褒めいただき恐縮です。お披露目したかいがありますね」

 ふわり、と花が咲いたように笑うアルテュールに、なぜだかマティアスの心臓がとくりと音を立てた。アストロラーべ上に作られた星空もとても美しかったけれど、男の笑顔はその何倍も美しくて……それで、やけに胸が騒めいた。

「あっ、と……そ、それで、何かわかったのですか?」

 早鐘を打つ胸にどきまぎしながらマティアスが訊ねると「ええ」とアルテュールは答えた。銀色の睫毛に縁取られた目は、心苦しそうに伏せられる。

「この吹雪ですが、残念ながら明日も一日中続くようです」
「えっ」

 思わず驚きの声を上げると、アルテュールはさらに申し訳なさそうな顔と声色をして言葉を続ける。

「星読みは外れることもありますから、雪が止む可能性がないわけではありません。ですが……私の読みどおりになると、明日も吹雪くようですね。明晩遅く頃から落ち着き始め、明後日には止むようですが……明日の昼間は、よく吹雪くようです。ですので、外には出れそうにないかと」
「そうですか……」

 星読みの力がどれほどか、マティアスはそれほど詳しくない。
 オルティアースにも何人かの占星術師がいて、彼らがもたらす情報は国をより良くするために使われている。彼らが読む内容には、時に天災に関するものも含まれるため、騎士団は彼らの星読みによって任務内容を変えたり、急務に備えたりすることもある。
 けれど、どれほど当たり外れがあるのか、マティアスは考えたことがなかった。彼らからもたらされる情報は大抵が『悪い未来』なので、外れれば胸を撫で下ろし、当たれば激務が待ち受ける——騎士にとっては、それで十分だからだ。

 なんにせよ、特別術師として招かれるほどの占星術を扱うアルテュールが読んだ結果だ。外れてくれれば有り難いが、おおよそ当たる可能性を考慮して動くべきだろう。騎士団では、偉い術師様からの助言は『絶対』なのだ。

「すみません、マティアスくん。こうして先を読めたところで、天候を変える力は持ち合わせていないので、お力になれず……」
「いえっ! アルテュール様が謝ることなど何もありません。天候を予測いただけただけでも十分です。こればかりは致し方ないでしょう。幸い、この小屋には薪や多少の食糧もあるようです。今日明日はここで吹雪を凌いで、明後日の雪が止んでから、馬車の待つ関所へ向かいましょう」

 しゅん、としたアルテュールを励まして、マティアスはなるべく明るい未来を話した。
 アルテュールはああ言ったが、天候を変えられるとすれば、それはもう神の領域だ。いくら高尚な占星術師様であっても、マティアスだってそこまで求めていない。明日も吹雪くという予測が貰えただけでも十分に有り難い。

 マティアスの言うように、この小屋には数日分の備蓄はあるようだから、よもや凍死や餓死といった心配もないだろう。むしろ、明後日には吹雪は止むというのだから、そう悪いことでもない。
 関所にいる兵や腹痛で寝込む相棒への報告はどうしようとも思ったけれど、この雪じゃ互いに何もできはしない。今マティアスたちは関所からは離れたところにいるので、関所周辺の天候がどうなっているかはわからない。けれど、少なくとも山のほうで吹雪いていることくらいはあちらは気づいているはずだ。マティアスは占星術師を探しに出ると言付けてあるので、察してもらえるはずだ。
 そういった状況ゆえに、下手に動くよりはまずは安全の確保をするのは正しい判断と言えた。

「お疲れでしょう。夜の火の番は僕がしますから、アルテュール様は休んでください。ベッドもあちらにありますし、毛布もたくさんありましたから、この雪と風でも、ゆっくりと眠れるかと思います」
「ありがとう。では、先に休ませていただきますね」

 アルテュールは礼を言うと、「何かあれば遠慮なく起こしてくださいね」と口添えてから、三つあるベッドのうち一番暖炉に近いベッドへと体を横たえて、毛布に包まった。

「おやすみなさい、マティアスくん」
「はい。おやすみなさい、アルテュール様」

 良い夢を、と伝えてしばらくすると、穏やかな寝息が聞こえてきた。



 ◇◇◇
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