【完結】十回目の人生でまた貴方を好きになる

秋良

文字の大きさ
上 下
51 / 70
第四章

51. 最後の手紙

しおりを挟む
キョウはひとり佇んでいた。今し方、哀れな冒険者たちを送り出していた。彼らの力ない後ろ姿が見えなくなるまでだった。
キョウは干し肉を手に持っている。それはつい先ほど冒険者たちから巻き上げたものだった。肉はわずかばかりに塩の味が付いているだけで、固くてあまり美味しいとは言えなかった。
歯でかみしめる音が響く。
湿った迷宮ダンジョンの中で、その乾いた食べ物の音が不思議に耳に響いた。
そんな彼に背後からダミアンは近づいた。
「アニキ、どうしてアニキはこんなところでこんなことをしているんですか?」
それは彼が以前からずっと不思議に思っていたことだった。他の仲間たちも同様のことを考えている者たちは数多くいる。
ダミアンのそんな問いかけに、手にしていた干し肉を一切れ差し出した。
それをダミアンは受け取ると、勢いよくかぶりついた。
「美味いか?」
「いえ、マズいっす…!」
正直な感想をダミアンは述べた。
口に入っているものを咀嚼してキョウが続ける。
「…なんで、こんなにまずいものを食べてでも、こんな危ない場所にみんな来るんだろうな…」
「それはやっぱり名声とかもしかしたら財宝とか…そういったものが目当てなんじゃないですか?」
「じゃあ、お前はどうしてここにいる?」
「それは…」
そこでダミアンは言いよどんだ。
どうして彼がそれを言わなかったのか、キョウは彼が抱える事情を知っていた。彼は地上では追われている立場なのだ。
彼は盗賊だった。
とは言っても、生きていく為にその日必要な食べ物を盗んだりといった程度のものである。
官憲に追われて、この迷宮ダンジョンへと逃げて、それから《深きより忍び寄るものたちディープストーカー》にいつのまにかなっていた。
そして、それは彼だけではないのだ。
ここにいるみながそれぞれ色々な事情を抱えていた。
投げかけられた問いに答えづらいのはキョウにも分かっていた。
「俺は…気づいたらここにいたんだ。ここがどこで今がいつなのかも分からなかった。過去の記憶はないでもなかったが、それも曖昧だ。とりあえず生きていくにはどうしたらいいのかを考えていたら、偶然にも《深きより忍び寄るものたちディープストーカー》が現れた」
そして、それをキョウは襲った。
10人程度だったが、相手の武器を奪い、その武器で全員を倒し、そして、彼らの財産とも言うべきすべてを奪った。
それ以来通りすがる人々を襲っていた。
ただ、それも生きるためだ。
生きる以上のものは、とりあえず、いらなかった。
「…いや、それは何回も聞いているんで分かっています。そういう意味ではなくて、どうしてアニキは地上へ出て行かないのかってことです」
それがダミアン以下には疑問だった。
キョウは頭を抱えると、こう続けた。
「…まあ、なんだろうな。俺もそうしたいが、その機会というのが中々訪れねぇ。その内、そういうときがあればそうするかも知れないな」
なんとも、ハッキリとしない物言いである。
「なんですか、そりゃあ…?」
「まあ、半分はそういうことだ」
「ではもう半分は?」
「俺はなんかこれは勘だけどな」
「はい」
「なんか、この場所でやることがあるような気がするんだよ…」
キョウはそんな台詞を冗談とは思えないほどの真顔で言っていたのだった。
「アニキーっ!」
セバスの声が聞こえた。何かしらの報告かも知れない。
その場にいた二人は向き直る。
「新しい冒険者がやってきました! 人数は三人です!」
やれやれ今日は忙しい日だ。面倒くさいからといって逃してもいいが、生憎と今は休憩よりも、強奪したい気分だったのだ。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...