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01. 心はなくしたまま *
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どこまでも広がる青い空。
どこへでも行けそうな白い雲。
柔らかな陽差しに照らされた街では、荷物を抱えた人が行き交う。
街の人々は再び迎えることができた朝を喜び、その日一日を謳歌するべく、それぞれの目的地へと向かう。
鳥はさえずり、空へと飛び立ち、新たな地へと旅立っていく。
そんな光景を、エルナはなんの感情も揺らさずに部屋の窓から眺めていた。
人々の笑顔も、街の喧噪も、毎日のように窓下からエルナに懸想をする若者の熱烈な視線さえも。
目に見え、耳に届けど、エルナは何も感じない。
エルナの心を揺り動かすものなど、何一つない。楽しいことも、つらいことも、何も。
エルナが持っているものは何もない。
その髪も、顔も、体も、声さえも。
エルナのものであって、エルナのものではない。それらには持ち主がいる。
だって、エルナは男娼なのだ。
男娼のエルナは娼館の主のものであって、エルナのものではない。
主に言われたとおり、エルナを買ってくれる人間に、エルナのことを好きにさせている。日々を無為に過ごしている。
エルナは自分が生きているのか、死んでいるのかも、よくわからない。
部屋の音が途切れれば、自分のものと思しき呼吸音が聞こえてくるので、おそらく生きている。
生きる理由はないけれど、死ぬ理由もないから生きている。
ただそれだけだ——。
+ + +
娼館の上級部屋に設えられた大きな寝台の上で、エルナはほっそりとした四肢をくねらせ、艶かしく肌を汗ばませ、嬌声を上げていた。
「ほら、もっと締めろ」
「ひゃぅっ! んっ、あぁ……はぁっ」
エルナの後孔には、華奢な腰を背後から揺さぶる男の猛った性器が根元までぐっぷりと埋め込まれている。
男はエルナの客だ。何度かエルナを指名してくれる馴染みの客。多少派手な行為を好むが金払いの良い、娼館から見れば上質な客であった。
エルナを買い求めた男は、エルナの膝が胸につくほどにエルナの足を折り曲げさせて、その間で色づく蕾へと何度も自身の雄を穿った。その性器は男ならば羨むほどに大きく、男娼ならば息を呑むほどに凶悪だ。
そんな性器を最奥に穿たれ続けて、エルナは何度も精を放った。白濁で汚れたエルナの腹は薄く、揺さぶられるたびに寝台に広がる長い髪は薄い金色。嬌声をあげる唇は柘榴のように艶やかで、その上には銀色を混ぜ込んだ薄灰色の大きな双眸が並んでいる。その双眸は今、涙で濡れていた。
「んっ……ゃ、も……出な、ぁ……」
「なんだ、涙が出るほど嬉しいか。んじゃ、たっぷり種付けしてやるよっ」
「あぅっ! やっ、奥……えぐれ、るっ……」
この涙は生理的なものだ。男に媚びを売るためでも、快感に飲まれているわけでもない。いや、エルナは男娼なので無意識のうちに全身で媚びを売っているだけなのかもしれない。ただ、男が言うような嬉し涙ではないのはたしかだ。
だがエルナは明確な否定をできる立場ではない。そもそも否定をしようにも、口からついてでるのは悲鳴に近い喘ぎ声だ。
ガツガツと性器を穿ち続けられ、もう足の力は入らない。それなのに浅ましいエルナの後孔は雄がほしいと蠢き続ける。中で暴れる男根から、精液を絞り出すようにきゅうきゅうと締まるので、男もいよいよ果てようとしていた。
「くっ、出すぞ……!」
「あぁっ、ぁっ! ひ、ぅ……んんっ!」
ぐぐっ、と腰を引き寄せられて、これでもかというほどに最奥を猛った雄で突き上げられた。それと同時に、中で熱いものが放たれるのを感じて、エルナは体を何度も跳ねさせる。男がエルナの中で達したとき、エルナも薄くなった精液をわずかにだけ放った。今夜はもうこれ以上は出ないだろう。
「はぁ……、はぁ……。エルナ……今日も、お前は最高だったぜ」
ずるり、とエルナの中から男の性器が抜ける。同時に、こぷっと精液が漏れ出た。
エルナはその気持ち悪さをこらえ、怠い体を叱咤して身を起こした。そして、先ほどまで自分の中を我が物顔で暴れていた男の性器を手に取って、丁寧に舌で舐め上げていく。これもまた、男がエルナに求めた行為の一つであった。
(痛くないから、これは大したことじゃない)
そう自分に言い聞かせて、エルナは精液を放って萎えつつある男の性器を舌で舐めていく。男がエルナの中で何度も放った精液と、口に含んでも差し支えない香油にまみれた性器をエルナが舌で舐め取り、掃除することを男は好んでいた。些か変態めいた行為だが、これがエルナに与えられた仕事であり、男が商品を買った理由でもある。
商品である娼婦や男娼を傷つける行為はご法度だ。
しかし傷がつかないのであれば、長時間の交合も、卑猥で特殊な性具を使うのも、凶悪な大きさの性器を挿入して激しく揺さぶるのも、多少普通ではない行為を求めることだって、客の金払いがよく、かつ娼館の許しさえあれば可能なのだ。
娼館は商品を買いたい客と、その客が求める商品との相性、客の質、なによりも商品自体の価値を見定めて許しを出すか否かを決める。
先ほどまでエルナが強烈な交わりを行い、今こうして性器を舌で掃除させられているのは、娼館がエルナを組み敷く男にその許可を与えたからだ。エルナは対価を払った客に、きちんと奉仕をせねばならない。
(苦いのに、甘い……。変なの)
男の精液は青臭く、変な味がする。それと混じった香油は、おそらく男娼がこういう行為を行うことを想定しているのか花の蜜のように甘い。でも二つの味が口の中で混じり合って、大して美味しくはない。けれど拒否することはできない。
きれいに舌で舐め取り終わる頃には、男の性器はだいぶ大人しい様子に戻っていた。
「よかったぜ、エルナ。また来週くる」
それじゃあな、と男は満足そうな笑みを浮かべて部屋を去っていった。
+ + +
足を運んでいただき、ありがとうございます。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
どこへでも行けそうな白い雲。
柔らかな陽差しに照らされた街では、荷物を抱えた人が行き交う。
街の人々は再び迎えることができた朝を喜び、その日一日を謳歌するべく、それぞれの目的地へと向かう。
鳥はさえずり、空へと飛び立ち、新たな地へと旅立っていく。
そんな光景を、エルナはなんの感情も揺らさずに部屋の窓から眺めていた。
人々の笑顔も、街の喧噪も、毎日のように窓下からエルナに懸想をする若者の熱烈な視線さえも。
目に見え、耳に届けど、エルナは何も感じない。
エルナの心を揺り動かすものなど、何一つない。楽しいことも、つらいことも、何も。
エルナが持っているものは何もない。
その髪も、顔も、体も、声さえも。
エルナのものであって、エルナのものではない。それらには持ち主がいる。
だって、エルナは男娼なのだ。
男娼のエルナは娼館の主のものであって、エルナのものではない。
主に言われたとおり、エルナを買ってくれる人間に、エルナのことを好きにさせている。日々を無為に過ごしている。
エルナは自分が生きているのか、死んでいるのかも、よくわからない。
部屋の音が途切れれば、自分のものと思しき呼吸音が聞こえてくるので、おそらく生きている。
生きる理由はないけれど、死ぬ理由もないから生きている。
ただそれだけだ——。
+ + +
娼館の上級部屋に設えられた大きな寝台の上で、エルナはほっそりとした四肢をくねらせ、艶かしく肌を汗ばませ、嬌声を上げていた。
「ほら、もっと締めろ」
「ひゃぅっ! んっ、あぁ……はぁっ」
エルナの後孔には、華奢な腰を背後から揺さぶる男の猛った性器が根元までぐっぷりと埋め込まれている。
男はエルナの客だ。何度かエルナを指名してくれる馴染みの客。多少派手な行為を好むが金払いの良い、娼館から見れば上質な客であった。
エルナを買い求めた男は、エルナの膝が胸につくほどにエルナの足を折り曲げさせて、その間で色づく蕾へと何度も自身の雄を穿った。その性器は男ならば羨むほどに大きく、男娼ならば息を呑むほどに凶悪だ。
そんな性器を最奥に穿たれ続けて、エルナは何度も精を放った。白濁で汚れたエルナの腹は薄く、揺さぶられるたびに寝台に広がる長い髪は薄い金色。嬌声をあげる唇は柘榴のように艶やかで、その上には銀色を混ぜ込んだ薄灰色の大きな双眸が並んでいる。その双眸は今、涙で濡れていた。
「んっ……ゃ、も……出な、ぁ……」
「なんだ、涙が出るほど嬉しいか。んじゃ、たっぷり種付けしてやるよっ」
「あぅっ! やっ、奥……えぐれ、るっ……」
この涙は生理的なものだ。男に媚びを売るためでも、快感に飲まれているわけでもない。いや、エルナは男娼なので無意識のうちに全身で媚びを売っているだけなのかもしれない。ただ、男が言うような嬉し涙ではないのはたしかだ。
だがエルナは明確な否定をできる立場ではない。そもそも否定をしようにも、口からついてでるのは悲鳴に近い喘ぎ声だ。
ガツガツと性器を穿ち続けられ、もう足の力は入らない。それなのに浅ましいエルナの後孔は雄がほしいと蠢き続ける。中で暴れる男根から、精液を絞り出すようにきゅうきゅうと締まるので、男もいよいよ果てようとしていた。
「くっ、出すぞ……!」
「あぁっ、ぁっ! ひ、ぅ……んんっ!」
ぐぐっ、と腰を引き寄せられて、これでもかというほどに最奥を猛った雄で突き上げられた。それと同時に、中で熱いものが放たれるのを感じて、エルナは体を何度も跳ねさせる。男がエルナの中で達したとき、エルナも薄くなった精液をわずかにだけ放った。今夜はもうこれ以上は出ないだろう。
「はぁ……、はぁ……。エルナ……今日も、お前は最高だったぜ」
ずるり、とエルナの中から男の性器が抜ける。同時に、こぷっと精液が漏れ出た。
エルナはその気持ち悪さをこらえ、怠い体を叱咤して身を起こした。そして、先ほどまで自分の中を我が物顔で暴れていた男の性器を手に取って、丁寧に舌で舐め上げていく。これもまた、男がエルナに求めた行為の一つであった。
(痛くないから、これは大したことじゃない)
そう自分に言い聞かせて、エルナは精液を放って萎えつつある男の性器を舌で舐めていく。男がエルナの中で何度も放った精液と、口に含んでも差し支えない香油にまみれた性器をエルナが舌で舐め取り、掃除することを男は好んでいた。些か変態めいた行為だが、これがエルナに与えられた仕事であり、男が商品を買った理由でもある。
商品である娼婦や男娼を傷つける行為はご法度だ。
しかし傷がつかないのであれば、長時間の交合も、卑猥で特殊な性具を使うのも、凶悪な大きさの性器を挿入して激しく揺さぶるのも、多少普通ではない行為を求めることだって、客の金払いがよく、かつ娼館の許しさえあれば可能なのだ。
娼館は商品を買いたい客と、その客が求める商品との相性、客の質、なによりも商品自体の価値を見定めて許しを出すか否かを決める。
先ほどまでエルナが強烈な交わりを行い、今こうして性器を舌で掃除させられているのは、娼館がエルナを組み敷く男にその許可を与えたからだ。エルナは対価を払った客に、きちんと奉仕をせねばならない。
(苦いのに、甘い……。変なの)
男の精液は青臭く、変な味がする。それと混じった香油は、おそらく男娼がこういう行為を行うことを想定しているのか花の蜜のように甘い。でも二つの味が口の中で混じり合って、大して美味しくはない。けれど拒否することはできない。
きれいに舌で舐め取り終わる頃には、男の性器はだいぶ大人しい様子に戻っていた。
「よかったぜ、エルナ。また来週くる」
それじゃあな、と男は満足そうな笑みを浮かべて部屋を去っていった。
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足を運んでいただき、ありがとうございます。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
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