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第二章
39. 乱れ求めて *
しおりを挟むレオンスは白い肢体をシーツの上でくねらせながら、嬌声を上げ続けていた。
重く冷たい鉄の扉を開けて男を誘い込む前から、ぐずぐずに溶け切っていた後孔は口いっぱいに欲しかったものを頬張っている。そこからは、ぐぷっどちゅっと濡れた音が響いて、肉のぶつかる音がした。
「ふ、あっ……あん、んうっ、は……あっ……」
すでに理性を手放しているレオンスの、艶やかな姿にくらくらする。
シモンはギリギリ保っている理性を搔き集めて、せめて彼を抱き潰さないようにと加減をしながら腰を動かす。しかし彼から匂い立つフェロモンが、今にもシモンの理性を消し去ってしまいそうだった。
「あぁっ、そこ……いいっ、あぅ、ん、ん……やぁっ」
「レオンス……名前で呼んでくれ。ブラッスールではなく、シモンと」
「ひゃ、あっあっ……隊ちょ、っ? シモ、ン……た、いちょっ……ん、あぁっ」
名前を呼ぶように言えば、喘ぎ声の隙間を縫って素直にその名を口にする。
今の今まで、一度も彼から呼ばれたことのない響き。それを耳にするだけで、彼の中に埋め込んだ自身の性器が一段と膨らんでしまうのを感じた。それを彼に想いをぶつけるようにして打ち付ければ、中が吸いついてくる。
物凄く気持ちがよくて、欲望を放ってしまいそうになった。
「く……すごいな、っ」
「あ、ふぅ、んっ……ひゃ、ぁあっ」
今、自分の腕の中で淫らに腰を振る彼が、シモンのことをそういう対象として見ていないことは明らかだった。
赴任してきた当日、シモンはレオンスとはじめて出会ったときに嗅いだ彼の匂いに、僅かな劣情を感じたのを覚えている。無論、任務の最中であったし、彼がやってきたときは周囲に人がいた。自分を律することは慣れているため、そこで相手をいきなり組み敷くなんてことはしなかったが、彼の仕草や表情から目が離せなかった。
匂いからして、レオンスとは相性が良いと悟った。そして手元にある彼のプロフィールには、パートナー無しの記載。
彼を自分のものにしたい、というアルファの本能がそのときすでに、むくりと頭を擡げていた。
しかし彼の話を聞くに、どうやら体だけの関係を持つことは性分に合わないようだと気づく。そして、それはシモンも同様だった。
彼の匂いは薄荷のように清々しく透明で、同じ空間にいるだけで心が満たされた。それでも、体の相性だけで相手を好きになるなど……と、アルファの本能を自ら一蹴したのだった。
第二の性に翻弄される愚か者になりたくなかった。
しかし、レオンスの放つ色香とは別に、彼の内面を垣間見るほどに、彼への興味は沸いた。
配属されてきたオメガの中でも、ひときわ美しい容姿をしたレオンス。一見冷たい美貌に反して、彼は同じく配属された年下のオメガ二人に心を砕き、何くれとなく手を差し伸べているようだった。任務にあたる態度も勤勉で、二次性に囚われぬ働き方をしていた。アルファやベータに比べたら細身ゆえに力仕事には限度があるようだったが、自分にできることがあればと各所を駆けている姿を何度も目にしてきた。
淡々とした態度に見合わず、心優しい男であることをシモンは見抜いていた。
その一方で時折、昏い光を薄水色の瞳に灯していることにも気づいた。
それは年下のオメガ二人が具合を悪そうにしているときや、帝都から兵器が補充されたとき。あるいは戦地へと向かう兵に向けられていたこともあった。
その昏い目が気になって、聞いたことがある。軍は嫌いか、と。
すると彼は「戦争が嫌いだ」と答えた。
その瞳は、今は昏さを消して、シモンすらも見ていない。
快楽にずぶずぶとのめり込んでいく、発情したオメガ特有の熱に浮かされたものだった。
「ん、はっ、あ……やぁ、ぅんっ、あっ」
「すまない……。レオンス、すまない……っ!」
こうして性器を埋め込む直前、彼には本当に良いのか訊ねた。彼は肯定の返事をしたが、前後不覚になりかけていた者の返事を鵜吞みにしてはいけない。そう頭では理解していたのに、その答えを聞いたら退くことができなかった。
今この瞬間も、彼へ己の欲望を打ち付けながら、頭のどこかでは今すぐ彼のもとから去るべきだと警鐘が鳴り続けている。しかし、その警鐘を搔き消すように本能が彼を——レオンスを求めた。
どちらかが果てきるまで終わらない。
これは事故だ。けれど止められない。
「あう、んっ、あぁっ。欲しい、っ……奥、もっ……と……来て、っ」
抑制剤を服用していないからなのか、はたまた二人の相性が良すぎるからなのか。
レオンスの後孔はしとどに濡れ、咥えた雄を放すまいと蠢き続けている。その熱さと、柔らかさといったら。
彼の中に何度も性器を穿てば、やがてレオンスが快楽を一番に得る場所に気づく。
「ここか?」
「ああっ! そこっ、いい……だめ、あっ!」
いっそう艶めいた声が上がり、シモンは口角を上げた。
「気持ちいいな……レオンス、っ」
「う、ぁっ! うん、はぁっ……気持ち、いぃっ。ひぁっ、ああっ」
奥を突き、悦い場所を擦ってやれば、レオンスは子犬のように啼き声を上げる。
自らも腰を振って、自分で悦い場所をあててくる。淫らな動きにシモンの熱はさらに高まった。
精を吐き出しそうになるのを、まだぐっと堪える。
もっと彼には乱れてほしい。乱れて、啼いて、曝け出してほしい。
それはアルファの本能からくる圧倒的な独占欲だった。目の前で乱れる美しいオメガを自分のものにしたい。そのために、もっと自分に溺れさせたい。
自分の奥底で疼く浅ましい欲望にシモンは歯を食いしばって耐える。チョーカー越しであっても、その艶めいたうなじや喉元に噛み付きたい衝動を、自分の手の甲や腕を噛むことで逃がした。
そうでもしないと、組み敷いている細腰を壊れるほどに抱き潰してしまいそうだった。
「あ、やぅっ……も、出る……あ、ああっ」
「くっ……」
背中を反らせたレオンスが、びゅくっと精を吐き出す。
それと同時に後孔がきゅうきゅうと締め付けてきて、シモンもまた誘われるように精をレオンスの中へと放っていた。
アルファの射精は長い。子種を彼の中へと植え付けるように、最奥へと穿ちながらも、なおも白濁を吐き出し続ける。
発情期中に中で出すのはよくない。妊娠させてしまう可能性が高いからだ。
そうはわかっていても、止められなかった。
「は、ぁ……ん、んんぅっ……ダメ、あ、う……もっと、ぉ……」
「レオンス……ダメだ」
「ダメじゃ、なっ……もっと、欲し……っ」
氷のような薄い水色の瞳が、シモンを見つめていた。冷たい色は熱を帯び、濡れた瞳はとろんと溶け切っていて、オメガの本能を露わにしている。きっとおそらく、彼がもっとも忌避している姿だろう。
だがシモンの目には、なんとも艶やかに、蠱惑的に、魅力的な姿として映っていた。
レオンスは両腕をシモンの首に回し、離すまいと足を逞しい腰に回す。
「離れちゃ、やぁっ、おねがっ……ぁあっ」
「ああ、レオンス……終わったら、必ず詫びをいれる。だから今は——」
今だけは、この体を掻き抱かせてくれ。
回された腕を解くことなく、幾つものキスマークを散らせることで応える。
彼の中に埋め込んでいる性器は、新たな熱を灯していた。
求められるがまま、求めるがままに、シモンとレオンスは互いの熱を溶け合わせ続けた。
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