【完結】欲張りSubは欠陥Domに跪く

秋良

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番外編

熱帯夜は熱く、長く 06 *

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「は、ぁ……ぁ、蓮哉さ……腹んなか、も……いっぱい……」

 抜いてほしい、という素直な欲求に蓮哉は小さく笑みを浮かべながら、ずるりと自身を引き抜く。それから、なかでスイッチをオンにし続けていたローターに繋がるコードも摘み、ゆっくりと引いていく。

「あっ……んんっ、はぁっ……」

 振動を止めないままに引き摺り出されると、内壁をずろずろと擦り上げられ、下がり始めていた快楽の最後の一滴まで搾り出されてしまい、甘い声が漏れた。
 ちゅぽ、と音がしそうなくらい、最後は呆気なくローターが後孔から抜けて、綾春は脱力しながら、はぁはぁと息を乱す。

「可愛かったよ、綾春」

 手枷足枷を一つ一つ丁寧に外しながら、蓮哉は綾春の頬や耳朶、首筋、肩……胸や太ももの内側に至るまで、あちこちに唇を落としていく。服で隠しづらいところには痕をつけないに気をつけつつ、脱がなければわからない箇所には肌に映えるキスマークやちょっとした噛み跡を浮かせれば、綾春も満足そうに微笑んだ。

「はぁ。もう、くたくた……」
「お望みは叶ったか?」
「うん……ものすごく良かった」

 うんと激しいのがいい、と先に望んだのは綾春だ。
 それに答えてくれた蓮哉からの愛情を一身に受けて、くたくただけれど、心も体も隅々まで満たされていた。

「風呂は?」
「入りたい。けど、やばい……力、全然入んない……はは、蓮哉さんの宣言通りだ……」

 ベッドの上で四肢を投げ出したままに綾春は答えた。
 手首と足首にはうっすらと拘束の痕がつあている。それを視界に収めながら、指先程度しか力が入らない自身の体に苦笑する。

「連れていくよ」

 柔らかな笑顔を向けながら、蓮哉は綾春の体を抱き上げた。
 綾春だって、細身ではあるものの小柄なほうではないのに、こういうときに蓮哉は難なく綾春を抱き上げてしまう。それほど特別なトレーニングをしているわけではないらしいけれど、健康維持も兼ねた朝晩の走り込みと、たった一人で陶芸をして仕入れをして、土を捏ね、焼き上がったものを納品しているからか、蓮哉はかなりの力持ちだ。

「いつもありがと、蓮哉さん」
「俺も好きでやってるから」
「ん。……ふふっ」

 甘えるように蓮哉の首筋に鼻先を埋めて、綾春は恋人の体温と匂いを体いっぱいに吸い込んだ。


 ◇◇◇


 蓮哉によって浴室に連れてこられた綾春は、恋人に体を預けながら湯船に浸かっていた。
 ローションや体液でどろどろになっていた体も髪もきれいさっぱり洗われて、温かな湯に心地よく目を閉じる。

 いくら蓮哉宅の湯船が広かろうと、長身の蓮哉と男性として平均身長はある綾春とが一緒に入ると、正直言って浴槽はキツキツだ。けれど、蓮哉は綾春を放す気はないようで、綾春もまた、ぎゅっと密着する肌からは離れ難かった。

「生き返るー……」
「あや、風呂好きだよなぁ」

 色素の薄い髪を指先で遊びながら、蓮哉は言う。
 髪を梳かれる心地良さにうっとりしながら、綾春は答えた。

「んー……そうだなぁ。シャワーで済ますってやつもいるけど、俺は断然湯船派だなぁ。忙しくても、できれば湯船に浸かりたい」
「広い風呂だったら、もっと良かったんだけど」
「いやいや、十分でしょ。男二人でギリギリ入れるんだから。てか、ここより広かったら、ちょっとした温泉じゃない? あー、温泉もいいよなぁ。今度行こ? 俺、温泉もすごい好き。サウナはそんなに得意じゃないけど」
「へぇ? そうだったんだ」

 なぜ? と問いかける蓮哉に、綾春は身を預けながら言葉を続けた。

「だって、サウナって『暑いの我慢大会』みたいなとこ、ない? あれさ、自分で自分を苛めてるみたいで、Sub欲がなんか混乱するんだよね。無理やりに満たそうとしてる感じっていうか……。まあサウナに限らず、一人プレイっぽいのは俺はあんまり。脳と体が一致しないから、逆に欲求不満になってダメ」
「ふぅん?」

 性的快楽を一人で得る自慰のように、人によっては脳内で仮想Domを作ったり、Sub向けのプレイ動画を観ながら自分で自分を虐めたり、責めたりといった『一人D/Sプレイ』を楽しむ者もいるとは聞く。綾春も若いときはそういうことを試したこともあるのだけれど、生来のSub欲の強さゆえか、一人で擬似的にプレイを楽しむというのは性にも体質的にも合わなかった。
 サウナは、その一人プレイのときと状況が少し似てるからか、少し苦手だ。

 やっぱり、セックスもプレイも、一人より二人——それも、愛し合っている相手とがいい。

「俺はDomだから、よくわからないけど、そういうもん?」
「うん。そういうもん。あと単純に、暑いの我慢する意味がわかんないってのもあるけど」
「ははっ。その気持ちは、俺もわからんでもないかな。綾春とならサウナも楽しい気はするけど、それよりは貸切風呂で綾春をじっくり苛めて、楽しみたい」
「蓮哉さん、変態」
「あやも好きだろ?」

 耳元に唇を寄せられて、擽るように耳朶と首筋にキスを落とされる。

 何気ない会話に二人でくつくつ笑いながら楽しむ事後のひととき。——この時間は一人では味わえない。湯船が時折ちゃぷりと揺れて、まったりとした時間が流れていく。
 プレイとセックスの前に準備してくれていた風呂は適温で、体が温まってきたからか、綾春には眠気が訪れ始めていた。

 その気配を敏感に察した蓮哉は、綾春の形の良い頭を引き寄せて、優しく撫でた。

「ねぇ、蓮哉さん」
「ん?」

 少しずつ、うつらうつらとしながらも、綾春は話を続ける。

「喧嘩もさ、たまには悪くないよね」

 どういう意味だと蓮哉が問う前に、綾春は困り笑いをしながら自分の言葉に補足した。

「あーいや、喧嘩自体はできればしたくないけどさ。でも、思ったこと、考えてることを伝え合うのは大切なんだなって思えたから、結果オーライかなぁって」

 喧嘩も、二人だからできる。
 できれば喧嘩はしたくないけれど。でも、二人の絆を確かめ合えたと思えば、悪い思い出も多少は良い思い出に変わっていく。

「そうだな。まあでも、俺はやっぱり仲良いままがいいよ。喧嘩しなくても、うんと激しいやつはやってやれるし?」
「あはっ、そこが目当てじゃないってのー……んっ」

 軽口とも言えないやりとりは、蓮哉が綾春の顎を上へと引き上げて、熱っぽいキスで塞いだ。くちゅくちゅと、優しい愛撫の音が浴室に反響する。
 とろりと眠気に溶けていた頭が少しだけ覚醒して、けれど違う感覚で頭はぼんやりとしてくる。

「ん……はぁっ……、ちょっと……ここで第二ラウンド? 俺、さすがに何も出ないよ……」
「そう言いながら、勃ち始めてるけど?」

 ちょっとだけな、と笑って蓮哉は、綾春の足の間で緩やかに勃ち上がり始めていた性器に手をかけた。
 先ほどまでの激しいプレイではなく、労わるような愛撫に、散々ハードにまぐわいあって解消し尽くしたはずの性欲に、再び火が点る。

「ゆるいの、気持ち、いぃ……」
「体、預けてな。力も抜いて……リラックスしてて……」
「あ、んん……やばい、また欲しくなっちゃいそ……はぁっ」

 ちゃぷり、と湯が揺れた、はぁっと甘い吐息が響く。
 一度快楽にずぶずぶに溺れきったあとの体が、再びの波に溺れるのはもはや時間の問題で。容易く全身の感度を上げられた綾春は、自然と腰を浮かせていた。

 ローションでぐちゃどろだった後孔は綺麗に洗われているけれど、ローターやら蓮哉の猛った性器やらで苛められたそこは、おそらくそう苦労せずに雄を受け入れてしまうだろう。

「なか、欲しいんだ? やらしい……」

 ちゅ、とリップ音をわざと鳴らしながら耳に舌を差し込まれ、ぞくぞくとした快感が綾春の体に走った。——もうそれからは、なし崩しだ。

 寝室での激しいセックスとは打って変わって、ゆるく甘やかな交合が始まる。

「あっ……んん、蓮哉さん……好き……」
「俺も好きだよ。愛してる」
「ん、ぁ……もっと、言って……」
「好きだよ、あや。俺にもSay言って。俺に綾春のこと、もっとAttract魅せて
「う、ん……好き。すごく……好き……ぁッ」

 ちゃぷちゃぷ、くちくち、と濡れた音が増えていく。

 たまの喧嘩など無かったかのように……いや、何てことはない喧嘩をしたからこそ、二人の愛はいっそう深まり、より互いを求めたくなったのかもしれない。
 底の見えぬ欲望を互いに抱えながら、二人は欲を惜しみなくぶつけ合い、時間をかけて愛情を確かめ合い、恋人のすべてを味わい尽くしていく。

 茹だるほどに熱い、夏の熱帯夜。
 空が白み始めるまで、二人の体は混じり合い、溶けていった。



 『熱帯夜は熱く、長く』 End.



・ーー・ーー・ーー・



(2024.8.3 後書き)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

本編にしても前2つの番外編にしても、蓮哉と綾春はかなり仲良しカップルだなぁと思っているので、たまには喧嘩する二人が書きたくて書きました。そして、夏と言えば汗だくえっち…!
と意気込んでたんですが、ただのハードプレイえっちになりました(笑)
DomSubは変態なプレイも好き勝手書けるのでいいですよね。本当はもっとハードめなのも書きたいんですが…結局は愛ある睦み合いを書いてしまいます。

連日猛暑で暑いですね。
みなさま、お体にはお気をつけて、楽しいBLライフをお過ごしください。
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