【完結】欲張りSubは欠陥Domに跪く

秋良

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番外編

熱帯夜は熱く、長く 04 *

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 表参道から一時間ほど走らせて、二人を乗せた車は葉山へと辿り着いた。
 夜になっても気温が下がらず熱帯夜なのは葉山も同じようで、車内から出た途端に蒸し蒸しとした空気が肌に纏わりつく。

 暑さから逃げるようにして、二人が急いで玄関へと駆け込めば、自宅に着く何分か前にスマートフォン経由で電源をオンにしていた冷房で冷えた室内が迎えてくれた。玄関先まで届く冷気は僅かでも、蒸し暑い外気よりはよっぽどいい。

 先に綾春が靴を脱いで上がりかまちを登り、続いて玄関の内鍵を閉めながら、蓮哉も靴を脱いでいく。時刻はとっくに日付を跨いでいた。

「風呂はできてないから、シャワーでいいか? それとも溜まるのを待——」

 待つか、という続く言葉は、二人の唇の中へと溶けていった。振り返った綾春がぐいっと蓮哉の体を引き寄せて、唇を奪って、塞いだからだ。
 代わりに響くのは、性急に伸ばした舌と舌が触れ合い、濡れる音。

 貪るがままに貪って、舌を吸い、吸われて、脳の奥がじわりと痺れてきたところで、どちらともなく唇を離した。

「……ん、はぁ」

 酒が入った綾春の舌は熱く、素面の蓮哉の口内を同じ体温へと上昇させる。

「我慢できなくなった?」

 揶揄いまじりに訊く蓮哉に、綾春は恥じらいもなく頷いた。

「今日暑いし、汗でべとべとだけど、どうせならこのままもっと汗だくになりたい。うんと激しいやつが欲しい」
「へぇ。おねだりなんて、可愛いことする」
「だってさ。仲直りできたって思ったら、堪らなくなっちゃって」

 前回プレイとセックスをしたのは、先週末。
 だから、常ならばSubとしての欲求不満に陥るのはまだ時間がある。でも、今すぐ恋人と体ごと愛を確かめ合って、自分のDomに服従したくて、相手に支配させたかった。

「そんなこと言って、歯止め効かないかもだぞ?」
「セーブワード言うまでなら、どこまでも」

 望むところだと返せば、蓮哉は小さく笑って、一気に雄めいた表情を見せた。

Strip脱いで

 淫猥なコマンドで、二人の情欲に火がともる。

 自ら強請ねだった命令に、綾春は素直に従った。何を、どこまで、とは言われていなくても蓮哉が求めてくれていることはわかる。シャツもボトムスもすべて脱いで全裸になれ、という欲望をゾクゾクするほどのグレアとともにあてられて、綾春の性器はすでに兆し始めようとしていた。

 このまま二階の寝室にあるベッドか、それとも一階にある書斎か、はたまたリビングのソファか。
 はしたない予想をしながら、次のコマンドが欲しいと気持ちをこめて蓮哉を見つめれば、嬉しそうに頬を綻ばせる男がそこにはいた。

Goodいいね。じゃあ、ちょっとそこでStay待ってて
「えっ?」

 思わず漏れ出た疑問の声に蓮哉は何も返さず、綾春の頭を二、三度撫でてから、家の奥へと入ってしまった。残されたのは全裸のままの綾春だけ。

「ちょ、蓮哉さん⁉︎」
「はいはい。もーちょい待てって」

 言われたコマンドを投げ出すこともできなくはないけれど。
 でも、そんなことをしたいわけでもなく、綾春は羞恥の状況のまま蓮哉が消えていった先をじっと見つめ続けた。

 彼が消えた先には、風呂場がある。
 しばらくすると『湯張りをします』という女性の声が聞こえてきた。給湯器の操作音だ。それから間もなく、蓮哉が廊下に顔を出した。

「あーや。Comeこっちおいで
「ん……っ」

 投げかけられたコマンドに、綾春の心と体はすぐに反応する。玄関先に脱ぎっぱなしにした衣服などお構いなしに、脱衣所にいた蓮哉のもとへ急いで向かえば、両手を広げて迎えられる。綾春は躊躇うことなく、その胸板にダイブした。
 ぎゅっと強く抱き締められて幸福感に浸りつつも、少し不服を交えながら綾春は蓮哉に問う。

「先にシャワーってこと?」

 シャワーなんか浴びる前に、激しいものを望んだのに、と言外に言えば、蓮哉は綾春の耳朶を食みながら、余裕のある様子で答えた。

「いいや? でも、汗だくになったあとに風呂に入れたら気持ちいいだろうなって思って。——まあ、風呂入れるほど体力残してやれる気もしないけど」
「あはは。そしたら、蓮哉さんが入れてくれるってことだろ?」
「それは、そう。じゃ、後ろ向いて」

 今度はコマンド無しの命令。
 命令というか要求ではあるのだけれど、興奮が昂まっているこのタイミングだと、コマンド並みに熱を帯びたものに感じる。

 緩められた腕を名残惜しく思いながらも、綾春は蓮哉の腕の中からするりと抜け出て、背中を彼へと向けた。すると、蓮哉のきれいな指先が綾春の背中をつぅ……と撫でる。明らかに性的な触れ合いに、綾春が背中を震わせると、耳元からはくつくつと嬉しそうな笑い声が聞こえた。
 再び耳朶を食まれたと思えば、器用な舌先が耳の中をねぶりに来る。くちゅ、という卑猥な音がダイレクトに響いて、体の力が抜けそうになるのを綾春はなんとか耐えていた。

 その間も、指先は背中をなぞり、肩甲骨を撫で、腰骨を這っていく。小さな快楽を余すところなく引き出そうとする、いやらしくも巧みな動きに脳の痺れはさらに増していった。

「そのまま、足開いて。それから少し前屈みに……そう、いいね」

 甘く低く、蕩けるような声で、コマンドではない指示を下す蓮哉。
 その声に応じるように、綾春は両足を肩幅ほどに開いて、脱衣所の壁に手をついて僅かに腰を突き出すような格好をとった。淫らな格好に羞恥が高まるものの、それがプレイのスパイスになっていく。

「ちょっと冷たいかも。でも我慢な」

 くすっ、と色気のある笑い声が耳を擽った瞬間、ひやりと冷たい感触がした。そこは、まだ何も解されていない双丘の奥の窄まりだ。

「んんっ……な、に……?」
「いいから、力抜いて」
「ふ、ぅ……ひあっ」

 抜けと言われて素直に体の力を抜くと、ぐっと圧迫感とともに後孔に何かが入れられたのがわかった。そんなに大きなものではなく、おそらくローションを纏っていたために痛みはない。

「なに、入れたの……?」
「綾春が好きなもの」
「好きな、って……ぇ、あっ! ちょ、なか……ぁあっ」

 自分たちはただの同性カップルではなく、DomとSubのパートナーでもあるから、所謂アブノーマルなセックスを楽しむことは間々ある。具体的に言えば、縛られたり、性的な玩具を使ったりだ。
 だから、入れられたのはローターか何かだろう。そう踏んだ綾春は、急に何をするんだと、蓮哉に抗議をするべく振り返った。しかし、上げた声はまともな言葉になる前に、あえかな声に変わる。体の内側で起きた細かな振動に頽れかけて、蓮哉にもたれかかってしまった。

「あっ、急すぎ、る……って、んんっ」

 縋るように見つめる蓮哉の手元には、予想通りに遠隔操作ができるリモコンが握られていた。見せつけるように掲げたマットな質感の黒いリモコンは、これまでのプレイやセックスでも使ったことのある遠隔ローターのものだ。

「じゃ、行くか」

 リビングと寝室、どっちがいい? なんて、愉しげに訊いてくる蓮哉に「ベッドがいい……っ」とだけ答えると、「Good boyよくできました」と褒めてくれて、ローターに震える後孔がずくりと疼く。

Heelついて来な、綾春。もちろん、ナカのやつは落とさないように」
「えっ、あっ、待っ……ひぅっ」

 男くさい笑みを浮かべながら、蓮哉は縋りついていた綾春を引き剥がして、一人で脱衣所を出てしまう。向かうは、寝室のある二階。階段の一段目に日本人らしからぬ長い足をかけながら、「早くしな?」と声をかける蓮哉に、綾春を手伝おうという意思はまったく感じられない。
 困惑しながらも、これはプレイがすでに始まっているのだと察した綾春は、後孔を好き勝手に翻弄しようとする淫猥な振動に甘い息を漏らしながら、足を動かした。

「ぁんっ、これ……あたっ、て……歩けな、ぁっ」

 はしたない声を上げながらも蓮哉のいる階段下まで行くと、すぐに蓮哉は階段を上がっていく。

「ほら、行くよ?」

 蓮哉は決して手を差し伸べず、数段上から綾春を見下ろすのみ。
 獰猛な獣のような眼差しを向けられて、熱を煽られた体は自然と最初の一段目に足をかけた。しかし、平地の廊下を歩くのとは勝手が違って、足を上げるという動作が体内のローターの位置を否が応でも変えていく。それが、ちょうど前立腺を掠めそうになって、思わず動きを止めると「どうした?」と意地悪めいた問いが頭上から降ってきた。

 ふっと視線を上げると、リモコンのスイッチにかかる蓮哉の指先が視界に入る。

「あ……待っ——んんッ!」

 振動を一段階上げられて、堪らずに声を上げた。内壁がじゅくじゅくと蠕動して、擦れるところが気持ちいい。綾春は立っていられずに前のめりになり、蓮哉の足元に手をついた。

「そんなに気持ちいい?」
「だ、って……これ、あぁっ」

 答えようとするうちに、また一段階振動が強くなる。
 次々と与えられる快楽に、これがお仕置きプレイの一環だということに、綾春も薄々気づいていた。喧嘩は仲直りを迎えたけれど、元カレへの嫉妬心をプレイにしてぶつけてくれているのだ。

 となると、寝室ではいったいどんな責め苦を与えてくれるのか——。

 日頃、涼しい顔をして隠しているDom欲を全開にした愛しい男を前に、綾春もまた、Sub欲が一気に昂るのを抑えようもなかった。


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