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番外編

エフェドリンに浮かされて 04 *

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「綾春、もっと奥まで咥えて」
「ん、ぐっ……っ、ぅ、んんぅっ」

 ぐいっと腰を動かして、ボトルからローションを出す前に、後頭部に手を添えて喉の奥まで押し込んでやる。咥えきれていなかった根元まで入るように、奥の奥まで捻じ込めば苦しそうな声が上がった。

「くっ……すごい、な……っ」

 口淫によって与えられる快感に下半身を痺れさせつつ、蓮哉はボトルからローションを手のひらに手に取って、じんわりと温める。
 本当はもっと温かめてからまぶしてやりたい気持ちはあったのに、綾春が必死に己の性器を喰らう様を見ていると性衝動のほうが優ってしまい、中途半端なままに後孔へ塗りこめた。びっくりするほど冷たいわけではないだろうそれに、綾春が背中を跳ねさせたのは、冷たさよりも期待からかもしれない。それでも口は蓮哉の性器から離れまいと、必死にしゃぶりついていた。なんとも刺激的な光景だ。

 口内全体を使いながら、綾春は先端や竿を舐め上げてくる。舌を絡めるようにして唾液ごと吸い上げられると、いっそう質量が増した。その苦しさに綾春の喉がきゅっと締まり、それがまた新たな快感を生む。
 彼の口内でびくんびくんと脈打つ、自身の凶器を早く恋人の中へぶち込むために、自分も彼を可愛がってやりたくなる。

「腰、動いてるぞ」
「んっ……ぐ、ん、ふっ」

 蓮哉は可愛い恋人の痴態を薄く笑いながら、ローションと手技を使って後孔を柔らかく仕上げていく。まるで煽るような口淫してくるので、蓮哉もすでに知り尽くした綾春のなかをぬちぬちと攻めていった。

 一本でぎちぎちだった指が三本まで増えると、さすがに苦しさに耐えきれなかったのか、彼の口から蓮哉の雄が溢れかける。だが、それを許すまいと、蓮哉は空いているほうの手を綾春の後頭部に添えた。

「ぐっ……んんッ!」
「あや、出すから、全部飲み干せよ」

 ぐっと喉の奥の奥まで犯すように腰を穿ち、蓮哉は精を放った。

「んんーっ……ん、ぐ、んっ。んんっ」

 粘つく精液が綾春の喉を犯していく。苦しげに呻く恋人の姿に、射精しながらも次の熱が宿るのを止められない。
 喉がごくっと数度鳴ったところで、蓮哉はようやく綾春を解放した。

「っは……けほっ、ごほ……」
Goodいいね、よかったよ、綾春。苦しかったか?」
「ううん。俺も……きもち、よかった」

 グレアと愛撫に溶かされて、うっとりと見上げる眦が涙に濡れている。それを身を屈めて舌で舐めとってから、蓮哉は綾春の脇の下に手を入れて、その体をベッドへと押し倒した。
 すでに解れた後孔の入り口を指で撫で回す。なかに挿れてほしいと蠢くそれに、一度精を放ったはずの性器はとっくに硬さを取り戻していた。

「挿れるよ。声、たくさん出しな?」
「あ……れんや、さん」

 ローションを取り出したときにベッド脇に出しておいたコンドームのパッケージに手を伸ばしかけたところで、とろりとした蜂蜜みたいな声で甘えられる。

「ゴム、しないで」

 ね、と見つめてくる綾春にはっとして。苦笑混じりに困ったな、と笑えば「おねがい」と小さく微笑まれた。

「あとがつらいのは綾春だぞ?」
「だいじょぶ。それより、今日は……生でしたい」

 ——だって、興奮してるから。

 そう向けられる劣情に、蓮哉は僅かに逡巡する。
 綾春は男性なので、中で出しても予期せぬ妊娠の心配はないのだが、出したままに放置すれば腹を下すなどの不調が出る場合がある。そうでなくとも後始末が大変だ。挿入する側の自分はさておき、受け入れる側の綾春の負担は最小限にしたい。
 それに、ただでさえSubとして負荷をかけがちなのだ。恋人になってからの二人のプレイとセックスは、歯止めをかけなくてよくなったために、ごちゃ混ぜになることが多く——どちらかだけというときもあるけれど——互いのプレイ欲を満たすため、それなりに際どい行為もする。だからこそ、できるだけゴムをつけてのセックスを心がけてはいるのだけれど……。

「おねがい。ちゃんとさらっていってよ、俺のこと」

 甘く掠れた声でねだられて、蓮哉の理性は吹っ飛んだ。

「知らないからな……!」
「うん……! あっ、あっ……おっきいの、なか、入って、くるッ」

 一気に突き入れるようにして猛った性器を埋め込むと、蓮哉の腕をぎゅっと掴みながら綾春は眉を寄せて、嬌声を上げた。十分に解したから痛みはないはずだけれど、内臓が迫り上がるような圧迫感は彼を悶えさせる。
 苦しくて、苦しくて、気持ちいいほどの熱を与えるために、蓮哉は落ち着く間も与えずに細身の体を抱きこみ、腰を何度も打ちつけた。

「んっ、んぅっ。あっ、奥、もっとぉ」

 薄い背中を引き寄せて、彼の両足が壊れかねないほどに大きく割り開かせて。その間を境目がなくなるようにと、強く、強く突き入れる。奥の奥まで、際限がないほど奥深くまで性器を捩じ込んで、彼のなかを暴いていく。

「ああっ! だめッ、頭、おかしくなりそ……っ」

 ほどよく筋肉がつきつつも、細くしなやかな足がガクガクと震えていた。内腿が痙攣しているのと同時に、熱い媚肉が収斂し、蓮哉の精を搾り取るように絡みつく。
 綾春の性器も張り詰めて、いつの間にか精液を垂らしている。漏れた蜜が二人の腹を汚しながらも、まだまともに達していないそれが上下左右に動き回る様は、ひどく愛おしい。

 なかでは何度も達しているのに、意外にも前では勢いよく射精できていないのは、達する前にとろとろと蜜を溢してしまっているからだろう。それが慈悲を乞い、泣いているようにも見えて、蓮哉は腰の動きを止めないままに、彼の性器に手を伸ばした。

「っ、いいね、あや。——中も外も、たくさんイっていいよ」
「あっ、ああっ、前、きもち……むり、ぃっ」

 激しく体を揺さぶって、二人の間で揺れている性器をも扱いていく。綾春が好きなくびれの部分を指で擦り、鈴口をぐりぐり弄り倒せば、びくんびくんと面白いように体が跳ねる。快楽が過ぎるのか、目には涙を溜めて、唇は濡れていた。ひっきりなしに悲鳴のような声をあげる口を覆うようにして深く味わえば、綾春はいっそう乱れた。
 目眩がするほどに愛らしい恋人に、何度喰らいついても冷めない熱が、自分よりもさらに熱い彼のなかで暴れ狂っていく。

 ——もっと、もっと、綾春が欲しい。

「ほら、いいだろ。もっと。Cumイって、綾春っ」
「うっ、ああッ! や、あ……ああっ——……ッ!」

 奥まで入れてもなお、さらに最奥まで飲みこもうとする動きに眉根を寄せながらも、何度だって欲望を撒き散らしていく。ローションと精液でぐちゃぐちゃにされながら、綾春も悦がり狂った。

 頭も精も、何もかもが空っぽになるまで、二人はベッドをぎしぎしと揺らしながら、互いを貪り続けた。


 ◇◇◇


 たっぷり愛し合い、組み敷く綾春が射精する回数を途中で数えることを止めて。レースのカーテン越しに差し込む陽射しも消え去った頃。

「はい、水」
「ありがと。あはは……あー、声掠れてる」

 キッチンから持ってきたペットボトルを手渡して、自分も同じように水分を摂る。さんざん蕩けさせて、喘がせて、泣くほどに悦がらせたから、少し喉を痛めさせてしまったようだ。
 やりすぎたな、と反省しつつ、蓮哉は脱ぎ散らかした衣服を集めていく。と、ぐぅぅ……と、腹の虫が空腹を訴える声を上げた。

「あははっ。さすがに腹減ったよなぁ。…………あ」

 ベッドの上に立てた膝頭に顔を埋めて蓮哉のことを眺めていた綾春のほうを向くと、タイミングよく彼の腹の虫も同じように声を上げた。
 性欲とプレイ欲がいったんは満たされたので、そうなれば次は……となるのは、綾春も同じだったようだ。

「綾春もな」
「んー、ふふふ……。だってさ、そりゃーそうだよ。出掛ける前に、早めの昼を食べたあとはスコーンを食べただけだろ? しかも、あんなに動いたし。もう、いろいろ空っぽ」

 足腰立たないかも、と綾春はふにゃりと笑った。
 その間も互いの腹がきゅうきゅうと侘しそうに鳴いている。

「じゃあ風呂入って、飯にするか」
「そうだね」
「用意してくるから。風呂ができるまで休んでな」

 先ほど綾春が自分で言ったとおり、きっと彼の足はふらふらだ。二階に浴室があればよかったが、残念ながら一階にある。せめてシャワーブースでもあればよかったけれど、そんな小洒落たものがあるわけてもない。清拭だけで済ますにしては、二人ともどろどろだし、ゆっくり風呂に浸かりたい。
 ひとまずは自分が階下へ降りて、浴槽に栓をして自動湯はりのスイッチを押してこようと、蓮哉は掻き集めていた衣服から自分のパンツを身につけた。

 用意をする間に多少でも、綾春の体が休まればいいのだけれど。

「あ、待って蓮哉さん」

 廊下へと繋がる扉へ向かおうとしたところで、不意に名前を呼ばれた。まだ甘さが残るトーンに振り向けば、まるで満開に咲いた花のような顔で笑う。

「また、花見に行こう。今年だけじゃなくて、来年も再来年も、いろんなところにさ」

 それは本当に桜を見たいだけなのか——なんて野暮なことは訊かない。

 咲き誇る桜を愛でるのは日本人でなくとも、心踊る春の風物詩だ。それ加えて、蓮哉と綾春は専門分野は違えど、豊かな感性が求められる職に就いているから、美しいものを見ることは好きだ。桜だけじゃなく、四季折々の花や木々を愛でたり、きらめく空や海、萌える山々を見たり。そうやって感性を高めて、心を昂揚させていくのは好ましい。
 そして、そうやって綺麗なものを愛でたあとは、きれいなものを隅々まで味わって、食べ尽くす。——そういう日々を送りたい。

「ああ。もちろん」

 桜が散ったあとは、何を見に行こうか。
 尽きぬ幸せに思考を巡らせながら、蓮哉は階下へ降りる前に綾春の唇に一つ、彼を連れ去るような優しいキスを落とした。



 『エフェドリンに浮かされて』 End.



(あとがき)
お読みいただき、ありがとうございました!
今後もいくつか書きたいネタがあるので、不定期になりますが番外編として更新予定です。
相変わらずの遅筆ですので、のんびりとお待ちいただければと。


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5.5万字くらいのさくっとファンタジー、投稿始めました。
ファンタジーがお嫌いでなければ、ぜひ。

『騎士が今宵、巡り逢うは星の初恋』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/938400437/741867284
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