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57. おねだりとお仕置き *
しおりを挟む怪我したところ以外を丹念に愛撫され、綾春は息を弾ませていた。
「はぁ、っ……あ……はぁ」
ほんのり赤く染まった肌に、無数の噛み痕やキスマークが浮かぶ。キスマークというよりは、唇で強く吸われた鬱血痕というほうが適切なほど、胸や横腹には濃い赤をした所有の痕が数多く散らばっていた。
スウェットの裾はぐしゃぐしゃになりながら肩口あたりまで捲られていて、露わになっている肌のありとあらゆる箇所に、蓮哉のものだという証が印されている。
「っ……」
乳首の周りにつけられた歯形を舌でつぅっと撫でされると、ピリッとした痛みが走る。痛みに体が跳ねると、蓮哉はくくっと小さく笑った。
「痛い?」
「痛ぃ、けど……嬉し、っ、あッ」
痛みに体を捩ると、今度は乳首を吸い上げられる快楽が降ってくる。『気持ちいい』と『痛い』が同時に押せ寄せてきて、この心地にもっと酔いしれたい。もっと惜しみなく与えてほしい。
綾春は、熱い息を吐きながら強請った。
「ぁ、蓮哉さん、コマンド……なにか、コマンド、ちょうだい」
もっとコマンドで支配して、グレアで縛ってほしい。
セックスとプレイ、両方で満たしてほしい。心ごと縛りつけてほしい。
はしたない欲求だけれど、蓮哉なら与えてくれるという無条件の甘えが綾春の口を軽くさせた。
その希求を受けた双眸が欲情の色を濃くしていく。
「おねだりできて偉いな。いいよ、もっとグレアもあげるし、コマンドもあげる。——綾春、Kiss」
精悍な顔が近づき、唇を近くまで寄せられる。けれど、触れ合う寸前で蓮哉は止まって、自分から唇を重ねようとはしない。それ以上は綾春から求めなければ、キスはできない。
「ぃ……ん、んぅっ」
綾春は、痛む腹に力を入れて伸び上がった。
わずか数センチの距離をゼロにして、唇を重ねる。薄く口を開いて舌を出し、下唇を舐めると、蓮哉の舌が応えるようにして絡まってくる。舌や唇を吸い付かれると甘い痺れが走って、綾春は夢中で舌を差し出した。苦しいほどに吸い上げられると、じくじくと腹の奥が熱くなる。
深いキスを味わっていると、いまだ触れられていない下肢が切ないと訴え始めた。
「んぁ、っ、も……」
両脚をすり合わせて、持て余し始めている熱を蓮哉にアピールする。
けれど、蓮哉は薄く笑うだけで、唇ではキスを楽しみ、手は相変わらず脇腹をいやらしく撫でたり乳首をつまんだりして、綾春の上半身だけを楽しみ続けていた。
「蓮哉さっ、んっ……そればっか、なん、で……。っ、ん」
「ん? どうした?」
キスの合間に言葉を紡ぐが、蓮哉は取り合ってくれない。
それなのに、綾春の足の間に割って入り、勃ち上がっている綾春の性器を膝で軽く押し上げてくる。触れているのだから、何をしてほしいのかなんてわかっているくせに……。意地悪をして楽しんでいるのだ。
それはきっと、蓮哉のDomとしての本能。
綾春にとってはその意地悪すらも喜悦となる。自分が悦がり、悶え、辱められている様を見ることで蓮哉が満たされているのだから、興奮しないわけがない。
けれど、その意地悪を楽しむ余裕がないのも確かだ。体の熱はぐるぐると昂ぶり続けて、もっと強い刺激を望んで止まない。刺激の欲しさからか、その膝に押し付けるようにして、つい腰が揺れてしまっていた。キスにうっとりして、愛撫に息を上げながら、綾春は蓮哉をもっと欲しがった。
「まったく……。腰揺らして、綾春はいやらしいな」
「うぅ、っ……だって、欲しい、から」
ようやく唇を離される。
名残惜しさに伸ばした綾春の舌をちゅっと吸ってから、耳元に唇を寄せて耳朶を食まれた。
「何してほしい? Say。俺なら、たくさん綾春を満たしてあげられるよ」
囁かれて、コマンドを放たれて、ぞくぞくと脳から犯されていく。
こんなんじゃまだ満たされない。だからもっと全身くまなく愛撫して、支配してほしい。
甘いグレアに導かれるように、綾春は蓮哉を求めた。
「下もっ。下も、もっと触って……前も後ろも、体の中も心も、全部ぜんぶ、蓮哉さんにぐちゃぐちゃにしてほしい……っ」
ぐっと股間を膝に押し当てて、腰を揺らして、強請る。恥も外聞もかなぐり捨てて、蓮哉が欲しいと声を上げた。
すると、蓮哉が嬉しそうに目を細め、上気する頬や細い顎、眦や額にキスを降らせていく。
「ああ、ほんと……可愛いな。Good boy。お望み通り、ぐちゃぐちゃのどろどろにしてやるから、下、Strip」
「で、でも……手が……」
「できるだろ? ほら、早く」
そう言って、蓮哉は綾春の上から体を退かした。
先ほどまで肌を撫でていた手も、悪戯に股間を弄んでいた膝も、今は綾春に触れようとしない。蓮哉は、意地悪な笑みを浮かべて、隣で綾春を見下ろすだけだ。
(脱ぐ……脱がな、きゃ……)
言われたことをやり遂げたくて、手枷の嵌められた両手をなんとか動かし始める。ベッドの上でもぞもぞと動きながら、手だけでなく足や胴体をくねらせて。じゃらじゃらとチェーンの金属音を立てながら、どうにかして下のスウェットをパンツごと引き下ろした。
「はぁ、っ……ぅ……」
「Good。ははっ、すごいことになってるな」
「あぁっ!」
ふるんっと飛び出した性器を、蓮哉が指先で撫で上げる。
欲しかった直接的な刺激に、堪らず声を上げた。
すでに先端が濡れているそれは、今にも達してしまいそうだ。指先で僅かに触れられただけで、綾春の腰が面白いように跳ねた。ローションなんか使っていないのに、先走りのものだけで性器が濡れていく。
「もう出そうだから、これで縛っておこう」
「えっ……や、ぁッ」
蓮哉が手にしていたのは、藍色のリボン。
それは、一番はじめに蓮哉とプレイで使ったラッピング用のリボンによく似ていた。
同じものではないようだけれど、そのきれいなリボンを蓮哉はしゅるっと取り出して、綾春の性器の根元にきゅっと結ぶ。グロテスクで、卑猥な、それでいて愛らしい大人のプレゼントの完成だ。
「赤も似合うけど、青も似合うな。って、綾春はきれいでかっこいいから、なんでも似合うか」
「ん……それ、やだぁ。あ、あっ……」
根元を縛られ、精を放つことを止められたはずなのに、蓮哉は綾春の性器を上下に扱く。吐き出し先がないことは知っているのに、恋人の責め手は止まるどころか加速した。
「あっあっ」
「気持ちいい? それとも苦しい?」
「は、ぁ……きもち、けど……出せな、の……苦しっ」
素直に気持ちを口にすれば「そうだろうな」とだけ言われて、リボンを解かれることはない。
「ゃ、ンんっ、も……むり、っ、だ……って」
性器を扱く腕を振り払いたくて、手枷がされた腕を伸ばす。
だが、もちろん蓮哉はそれを良しとはせず、両手を大きな手で捕まえ上げられた。
「だめ。まだ楽しませて」
「ん、あっ、いじわ、る……ッ」
「好きだろ。そういうの」
口角を上げた蓮哉の色気を帯びた表情に釘づけになる。
ダメと言われると、綾春はそれ以上腕を伸ばすことができない。コマンドで命じられているわけではないけれど、蓮哉の言うことは聞きたいから。
伸ばされた腕の力が抜けたことを受けて、蓮哉は捕まえた手を放す。胸元あたりで、くったりと腕を投げだしていると蓮哉はベッドサイドに置かれたチェストから、ローションの入ったボトルを取り出した。
その様子を荒げた息を吐きながら見ていると、ボトルからとろりとした粘り気のある液体が綾春の下肢へと零されていく。
「冷た、ぁ……あ、んんっ」
ぬるぬるとした液体が、遠慮なく性器に塗り付けられる。
滑りがよくなったそれを、蓮哉はさらに巧みな手つきで愛撫し始めた。
大きな手に竿を扱かれ、長い指でカリや先端を撫で回される。ぬちゅぬちゅとした濡れた音が響き、綾春は堪らないというように腰を揺らして啼いた。
リボンはべとべとに濡れていくが、縛られているそれは緩みはしない。むしろ、性器が一段と勃ち上がってしまいリボンが食い込んでしまう。
「あ……出した、い……リボン、解い、て、ぇ……」
「だめだって言ってるだろ。……聞き分けのない子にはお仕置きが必要だな」
「え……あ、待っ、やぁっ」
綾春が何度もリボンを解いてほしいと喘ぐから、蓮哉はお仕置きだと言い放つ。その言葉に慌てて上体を起こすのと同時に、蓮哉はリボンをもう一本取り出して、綾春の性器を根元だけでなく竿の中心までぐるぐると縛り上げてしまった。
「これ、やだっ。蓮哉さんっ、リボン……ひぅッ」
「お仕置きだって言っただろ。Stayだ、綾春。俺が挿れるまで、そのままでいて」
「そんな、っ……あ、ぁっ」
美しい色のリボンできつく締め上げられた性器は、張り詰めたままにふるふると揺れる。
ローションと先走りでぐちょぐちょに濡れたそこは、精を吐けないままに、蓮哉に甘く苛められることとなった。
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