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42. さらに深くをお望みですか? *
しおりを挟むぢゅっ、と音を立てながら蓮哉に性器を舐められている。
まさか蓮哉にフェラされるとは思ってもいなかったから、綾春は混乱のままに喘ぎ声を上げた。
「口で、するの……無理、っ……。それ、気持ち、よすぎ……っ……」
逃げそうになる腰をがしっと掴まれる。
根元から竿を舐め上げられ、先端をぐりぐりと舌で捏ねられ、きつめに吸い上げられると、瞬く間に快楽が育った。
「あ、あッ、だめっ。出る……ッ、出、るって……は、ンッ」
「だめ? 嘘は禁止って言ったのにな」
お仕置きが必要か、と呟くと、蓮哉はじゅぽじゅぽと口中で綾春の性器を追い詰めていく。
「イく、それっ……。ああっ、だめだめ、イっちゃ、アッ……!」
蓮哉の温かく濡れた口内と巧みな舌使いによって、綾春は一気に快感の階段を駆け上がった。精が吐き出される瞬間、頭が真っ白になる。
しかし、余韻に浸っている場合ではない。
ぼやける頭をなんとか回して、自分の下肢に顔を埋めていた男を見遣ると、口から手のひらに白濁の液を吐き出していた。飲み込まれなくてよかったとか、いやいや口の中に放ってしまったとか、いろんな考えが目まぐるしく頭をよぎるが、綾春が口にしたのは全く別の言葉だった。
「れんや、さ……っ。俺、このままは……も、むり、かも……」
縛られた手を口元に寄せた。
何を言ってしまうのかという不安から、口を塞ぐように寄せた手に無意識のうちに噛みつく。歯が立てられた肌は、じくじくと痛んだ。
「こら。手、噛むなって。それ、痛いだろ」
綾春の行動を優しく諌めながら、蓮哉がその手を掴んで引き剥がす。その手に甘えたくなって、不自由な手を伸ばす。触れた指先は、蓮哉の大きな手の中に収まった。
引きずり出されたSubの本能が暴れて、頭がおかしくなりそうだった。自分を戒めないと、もう訳のわからないことを言ってしまいかねず、柔らかな皮膚に噛みつくことでしか理性を保てない。
どうにかして、理性を取り戻したいのに、もう後戻りは不可能なところに来ている。
——もう、このままではいられない。
欲望を曝け出したことに対する羞恥と快楽と後悔と期待で、頭の中がぐちゃぐちゃで、助けてほしい。綾春の理性が完全に戻らないうちに、蓮哉の好きなようにしてほしい。
限界なんて、ぶっ壊してほしくて、このままではもう無理だ。
「……場所、移動したい?」
その問いに綾春は、涙目になりながら、こくこくと頷いた。
今、二人がいるのは晴海のプレイバーにあるVIPルーム。周囲に他人はおらず、あるのはスタッフのみが確認できる監視カメラのみ。——ただ、この部屋でできることには限りがある。
「コマンドで、欲しい……。蓮哉さんに、逆らいたく、ないから……」
セーフワードを言うつもりはないけれど。
怖気づいて逃げ出したくなってしまわないように。
それだけでなくて、『嫌』も『止めて』も言いたくなくて。
蓮哉に最後まで縋ってみたい。
「おねだりが上手だな」
「あ、ぅぅ……だって、おれ……」
「わかった、いいよ。——綾春、服を着たらCome。それから、俺がいいと言うまでShush。そのはしたない声をほかのやつらに聞かせたくないからな。口にしていいのはセーフワードだけだ。できるね?」
声を封じられた綾春は、深く頷いた。
「Good。さあ、服を着て。俺も手伝ってあげるから」
そう言って、蓮哉は自身のベルトで一纏めにしていた綾春の手首の拘束を解いた。プレイ中にだいぶ擦れたようで赤い痕がついていた。
その痕を愛しく思っているうちに、一度精を吐き出した性器を備え付けられていたティッシュで拭われる。ノンアルコールのウェットティッシュもあって、白濁にまみれた薄い下生えと腹も、蓮哉が甲斐甲斐しく拭いてくれた。
下腹部が綺麗になると、うっすら汗ばむ肌はそのままに、綾春はベッドからふらふらと立ち上がった。言われたとおりに服を着なければと、床に投げ捨てっぱなしだった服を手に取る。
それから、いそいそと服を着て。よろめく綾春の手を取りながら、階段を降りて——。
綾春が蓮哉に命じられた〈Come〉と〈Shush〉で頭をいっぱいにしているうちに、彼があれこれ対応してくれて。晴海に優しい笑みで見送られながら、二人は店を出た。別れの挨拶もないままだったけれど、晴海が綾春を訝しむことはなかった。
二人はその足で、ホテルへと駆け込んだ。
なんてことはないシティホテル。空いていたツインルームにチェックインして、宛てがわれた六階まで辿り着くエレベーターでの時間がひどくもどかしかった。
カードキーで解錠するや否や、縺れるようにして部屋へ雪崩れ込む。オートロックのドアだけど、後ろ手で器用に内鍵までかけた蓮哉を横目に見たときには、もう男の両腕の中にすっぽりと収まっていた。
ここまで蓮哉が持ってくれていた二人分のコートが床に落ちる。
「……セーフワードはちゃんと覚えてる? 覚えていたら頷いて」
「…………っ」
耳元で問われる優しい質問。
これから行われることなどわかりきって、彼のコマンドに従っているのに、この期に及んでも綾春のことを第一に考えてくれている蓮哉に心臓が鷲掴みにされる。この男になら、綾春のすべてを預けてしまえる。
こくりと一つ頷いてから、綾春は男の胸元から伸び上がって、唇に己のそれを寄せた。たった数秒——触れ合うだけのキス。
封じられた言葉の代わりに、許しているのだと行動で示した。
だから早く、もっとコマンドで満たして、グレアで縛りつけてほしい。
箍を自ら外すように見つめれば、ぶわっと部屋の空気が変わった。
「ふ、ぁ……ッ」
強められたグレアにガクッと体が頽れた。
それを床に座り込む前に、蓮哉が受け止める。広い胸板に縋るような格好で見上げると視線が絡みついた。はぁ、と吐かれた吐息の色気に、蓮哉もまた劣情が掻き立てられているのだとわかり、幾分収まっていた欲望が溢れかえりそうになった。
「ここまでちゃんと転ばずついて来れたな。Good boy、綾春。はは……それにしても、足、ガクガクだな。立ってられない?」
「……っ、ん……」
「Shushのコマンドも守れててGood。そのまま体、俺に預けてて」
思わず小さな声が漏れてしまっているが、蓮哉は綾春を褒めてくれた。
腰を抱える腕の逞しさに安堵して足の力を抜くと、掬い上げられるように体を持ち上げられた。ホテルの狭いドア付近じゃ、横抱きなんてロマンチックな格好はできない。
だからか、蓮哉は綾春を尻から持ち上げるようにして縦に抱きかかえると、二つあるベッドのうち、ドアから近いほうへ降ろした。
「っ、んッ……」
優しい手つきで降ろされると、そのままシャツのボタンを外される。
一秒でも早く肌を重ね合わせたくて、綾春も自分のボトムスに手をかけると、蓮哉がそっと手を掴んできて動きを止められた。
「Stay。次は俺が脱がせるから、綾春はじっとしていて」
コマンドを出されてしまうと、体は自然とそれに従順する。
抗う意志はないと手を投げ出すと、「いいね」と呟いて、蓮哉は綾春の衣服を脱がしていった。
一つ一つ、肌の感触を確かめるように脱がされると、否が応でも体が火照る。裸なんて、もうすでに一度見られているのに、これから始まることを思うと、先ほどとはまた違う熱で体の奥が疼いた。
「足開いて。Present」
「ん……」
性器はすでに露わになっている。だから今の〈Present〉はその奥で色づく蕾のほうだ。
綾春は顔を赤くしながらも、赤く擦れた痕が手首に残る両手で、自らの両脚を持ち上げた。触れれてもいないのに、その中心では再び性器が硬さを取り戻し始めていた。
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