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17.卒業式
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ハイジと入れ替わる必要がなくなったので、翌日から、アデレイドは離れには夕方に寄るだけになった。書斎でアデレイドは、学院での様子をハイジに話す。
「最近は卒業式の準備ばかりだわ。式典の後にパーティーが開かれるから、みんなファーストダンスのパートナーを誰にするかで騒いでいるの」
パーティーには家族以外にも親しい人を呼んでいいらしく、みんな恋人や好きな人とダンスをするとはしゃいでいるそうだ。
「ジェフリー様が仕事で卒業式に来られないっていうから、おばあ様がすごく怒っておられるわ」
「え? ジェフリー様は、卒業式にいらっしゃる予定だったんですか?」
メールでは何も聞かされていなかったので、ハイジはびっくりした。
「婚約者の卒業式に出席するのは当たり前じゃない。それなのに、仕事を入れているなんて失礼だわ」
「卒業式の日程を、ジェフリー様はご存じだったんですか?」
「教えていなくても、調べればわかることでしょう」
そういってアデレイドは怒っているが、おそらくジェフリーは知らなかったのだろう。ハイジは彼に教えていないし、自分が参加できない卒業式など興味はない。ジェフリーからも聞かれたことがなかった。
「まあ、彼が来ないから、私はデニスとファーストダンスを踊れるからいいけれど」
むしろ堂々とデニスと踊れると、アデレイドは喜んでいる。
ジェフリーが来るのなら、彼女は婚約者である彼をパートナーにしなければならなかったからだろう。
学院の卒業式の朝、アデレイドは、ジェフリーから贈られたゼクレスのドレスとミューエのアクセサリーセットをつけて離れにやってくる。
「おじい様がうるさいから、これで行くことにしたわ」
アデレイドの持っているものの中で、一番上等な品らしい。そのため、侯爵は卒業パーティーに着ていけと命令したそうだ。
「今日は、こっちで休む許可をもらったから、私が帰ってくるまで、ハイジはここで待っていてね。卒業アルバムを一緒に見ましょう」
入れ替わりでハイジも通っていたので、アルバムのどこかに彼女が映っている可能性がある。アデレイドはそれを二人で探そうというのだ。
同じ顔だから区別がつかないだろうと言っても、カメラマンが来た時のことを思い出せばわかるだろうと譲らない。
「わかりました」
ハイジは仕方なく、夕食が済んだ後で離れにくることにする。
隠しカメラとつながっているテレビは、普通の番組も見られるので、ハイジはそれを見ながら書斎でアデレイドを待った。
夜になって、アデレイドはドレス姿のまま書斎に入ってくる。
「あー疲れた!」
倒れこむようにソファーに座る彼女に、ハイジはテレビを消してお茶の準備をした。
「お疲れさまでした。卒業式はいかがでしたか?」
「急にジェフリー様が現れびっくりしちゃったわ!」
「え?」
驚いたハイジのお茶を入れる手がびくっと震えたが、アデレイドはそれに気が付かない。
「同僚の方と仕事を代わってもらったって言っていたから、パーティーからの出席だったけど、一緒にダンスをしたわ」
そういって、ハイジが入れたお茶を一口飲んだ。
ジェフリーからは相変わらず何も連絡がないのは、メールする暇もないほど、忙しいかったのだろう。
それなのに仕事の都合をつけてくれて申し訳ないと思った。
「ファーストダンスをジェフリー様と踊られたのですか?」
彼女が尋ねると、アデレイドは「まさか!」と笑う。
「そんなことをすれば、デニスがファーストダンスを踊れなくなるわ。余計なことを言われる前にさっさと彼とダンスをして、ジェフリー様とはその次に踊ったのよ」
デニスも卒業生なのだから、パートナー交代などできるわけがない。当日の直前で、新しいパートナーを見つけるのは困難だろう。
「お嬢様がデニス様を優先されて、婚約者であるジェフリー様は、気を悪くされませんでしたか?」
「ぜーんぜん! なにも文句を言われなかったわよ。来た時もお祝いの花束を渡してくれたし、意外と優しい人ね」
「花束?」
アデレイドが何も持っていないので、ハイジは首を傾げた。
「ああ、ギーゼラに渡して、屋敷のほうに飾ってもらっているわ。きれいだけれど、邪魔だもの」
まるでジェフリーのことを”邪魔”だと言われたように感じて、ハイジはむっとする。けれど、アデレイドは平然としてアクセアサリーを外し、ドレスを着替える。
「ジェフリー様に会ったのは、今日が初めてだけれど、彼とならうまくやれそうだわ」
「……お気に召されたのですか?」
ハイジは、ざわざわとする気持ちを隠しながら訪ねた。
「そうね。思ったより精悍だったし、紳士的にもなっていたから、結婚相手としては申し分ないわ」
ジェフリーと会えばアデレイドが彼に惹かれてしまうかもしれない。それを心配して、ハイジは二人を会わせないように一生懸命画策していた。恐れていたことが偶然に起きてしまい、ハイジの努力は水泡に帰してしまったようだ。
「ねえ、それより、卒業アルバムを見ましょう」
着かえを済ませたアデレイドが手招きをして卒業アルバムを開いた。
彼女のそばへいったハイジは、アルバムを見るふりをしながら、どうにかしてアデレイドと入れ替わりたいと望む。
(アデレイドに、ジェフリー様を渡したくない)
ハイジは心の底からそう思った。
「最近は卒業式の準備ばかりだわ。式典の後にパーティーが開かれるから、みんなファーストダンスのパートナーを誰にするかで騒いでいるの」
パーティーには家族以外にも親しい人を呼んでいいらしく、みんな恋人や好きな人とダンスをするとはしゃいでいるそうだ。
「ジェフリー様が仕事で卒業式に来られないっていうから、おばあ様がすごく怒っておられるわ」
「え? ジェフリー様は、卒業式にいらっしゃる予定だったんですか?」
メールでは何も聞かされていなかったので、ハイジはびっくりした。
「婚約者の卒業式に出席するのは当たり前じゃない。それなのに、仕事を入れているなんて失礼だわ」
「卒業式の日程を、ジェフリー様はご存じだったんですか?」
「教えていなくても、調べればわかることでしょう」
そういってアデレイドは怒っているが、おそらくジェフリーは知らなかったのだろう。ハイジは彼に教えていないし、自分が参加できない卒業式など興味はない。ジェフリーからも聞かれたことがなかった。
「まあ、彼が来ないから、私はデニスとファーストダンスを踊れるからいいけれど」
むしろ堂々とデニスと踊れると、アデレイドは喜んでいる。
ジェフリーが来るのなら、彼女は婚約者である彼をパートナーにしなければならなかったからだろう。
学院の卒業式の朝、アデレイドは、ジェフリーから贈られたゼクレスのドレスとミューエのアクセサリーセットをつけて離れにやってくる。
「おじい様がうるさいから、これで行くことにしたわ」
アデレイドの持っているものの中で、一番上等な品らしい。そのため、侯爵は卒業パーティーに着ていけと命令したそうだ。
「今日は、こっちで休む許可をもらったから、私が帰ってくるまで、ハイジはここで待っていてね。卒業アルバムを一緒に見ましょう」
入れ替わりでハイジも通っていたので、アルバムのどこかに彼女が映っている可能性がある。アデレイドはそれを二人で探そうというのだ。
同じ顔だから区別がつかないだろうと言っても、カメラマンが来た時のことを思い出せばわかるだろうと譲らない。
「わかりました」
ハイジは仕方なく、夕食が済んだ後で離れにくることにする。
隠しカメラとつながっているテレビは、普通の番組も見られるので、ハイジはそれを見ながら書斎でアデレイドを待った。
夜になって、アデレイドはドレス姿のまま書斎に入ってくる。
「あー疲れた!」
倒れこむようにソファーに座る彼女に、ハイジはテレビを消してお茶の準備をした。
「お疲れさまでした。卒業式はいかがでしたか?」
「急にジェフリー様が現れびっくりしちゃったわ!」
「え?」
驚いたハイジのお茶を入れる手がびくっと震えたが、アデレイドはそれに気が付かない。
「同僚の方と仕事を代わってもらったって言っていたから、パーティーからの出席だったけど、一緒にダンスをしたわ」
そういって、ハイジが入れたお茶を一口飲んだ。
ジェフリーからは相変わらず何も連絡がないのは、メールする暇もないほど、忙しいかったのだろう。
それなのに仕事の都合をつけてくれて申し訳ないと思った。
「ファーストダンスをジェフリー様と踊られたのですか?」
彼女が尋ねると、アデレイドは「まさか!」と笑う。
「そんなことをすれば、デニスがファーストダンスを踊れなくなるわ。余計なことを言われる前にさっさと彼とダンスをして、ジェフリー様とはその次に踊ったのよ」
デニスも卒業生なのだから、パートナー交代などできるわけがない。当日の直前で、新しいパートナーを見つけるのは困難だろう。
「お嬢様がデニス様を優先されて、婚約者であるジェフリー様は、気を悪くされませんでしたか?」
「ぜーんぜん! なにも文句を言われなかったわよ。来た時もお祝いの花束を渡してくれたし、意外と優しい人ね」
「花束?」
アデレイドが何も持っていないので、ハイジは首を傾げた。
「ああ、ギーゼラに渡して、屋敷のほうに飾ってもらっているわ。きれいだけれど、邪魔だもの」
まるでジェフリーのことを”邪魔”だと言われたように感じて、ハイジはむっとする。けれど、アデレイドは平然としてアクセアサリーを外し、ドレスを着替える。
「ジェフリー様に会ったのは、今日が初めてだけれど、彼とならうまくやれそうだわ」
「……お気に召されたのですか?」
ハイジは、ざわざわとする気持ちを隠しながら訪ねた。
「そうね。思ったより精悍だったし、紳士的にもなっていたから、結婚相手としては申し分ないわ」
ジェフリーと会えばアデレイドが彼に惹かれてしまうかもしれない。それを心配して、ハイジは二人を会わせないように一生懸命画策していた。恐れていたことが偶然に起きてしまい、ハイジの努力は水泡に帰してしまったようだ。
「ねえ、それより、卒業アルバムを見ましょう」
着かえを済ませたアデレイドが手招きをして卒業アルバムを開いた。
彼女のそばへいったハイジは、アルバムを見るふりをしながら、どうにかしてアデレイドと入れ替わりたいと望む。
(アデレイドに、ジェフリー様を渡したくない)
ハイジは心の底からそう思った。
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