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第152話 私には……?

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「何やってるの?」

とリビングに入ってくるなり妹の千穂はそう言った。

「撮影~」

母は笑顔で一眼レフカメラのシャッターを切っていた。
僕はというと母の命令で動くな、といわれたうえグラビア撮影のようなポーズを取らされていた。
すでに写真撮影を開始してから三十分がたとうとしていた。服一着に五分。机にあった服はすでにあと一着となっていた。

「この服どうしたのお母さん?」

とさっきまで僕が着ていた服たちをみて妹は母に問いかけた。

「あぁ、それはね、みくりのために用意した服よ」

とカメラから手を離さないどころかひたすたシャッターを切る母。動きは止まるところを知らないといったように動き続けていた。そんな母の姿を見ながら僕の妹である千穂が母に向かってこういった。

「私の服は?」

その言葉はなんてことない言葉だった。兄に服を買ってきたのであれば、私にもあるんじゃないかという思いからでる言葉。しかしその言葉は母の動きを止める一言となった。
今まで笑顔だった母がなぜか急にひきつった顔に変わったのだ。一気に窮地に立ったかのようなそんな顔だった。

「え、えっと……」

言葉に詰まったかのように口をモゴモゴさせ始める母。
その後ろで母の返答を後ろから見守る妹。
そして恥ずかしいグラビアポーズを取らされている、女装した僕。
いつの間にかリビングがカオスな現場と化していた。

「お母さん?」

どうやらいつもと違う母の反応を見て心配しているようだ。
しかしその心配されるような母にしたのはまぎれもなく、千穂お前の一言だ。

母の反応を見てわかる通り、僕の服はたくさん買ってきたが、妹の千穂の分は買わなかったのだろう。その真実を告げれば妹が悲しむ、そう思っているのだろう。
だが、あまい。母よ。その程度で妹が悲しむわけないだろう。子供じゃないんだから、兄である僕には妹である千穂がその程度のことで悲しまないことくらいわかっている!


「ごめんなさい千穂……みくりの分しかかってこなかったの」

母は冷や汗をかきながら素直に妹に謝罪した。どうやら真実を話す気になったらしい。
そして、妹はというともちろん僕の予想通り……

「え、そ、そんな……お兄ちゃんにだけこんなに服買ってあげて私にはないなんて……わたし最近服買ってもらってないのに……」

と泣きだしてしまった。
僕は兄失格だ。
妹のことなど何もわかっていなかったようだ。

妹は泣きながらリビングを出ていってしまった。
「千穂」
母は妹の名前を呼ぶだけで後を追わなかった。いや、追えなかったのかもしれない……

こうして僕の撮影会は終えた。
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