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94話 帰路

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 僕はブランを慰めて、少しして洞窟を後にした。
「お疲れさんだったな」
 八雲は隣で労いの言葉をかける。
 全くだ。
「それよりもこれからどうするか決めてる?」
 僕から八雲に尋ねた。
 八雲は右手で顎を掴みながら、
「決めてない。振り出しに戻ったからな。また、あちこち回ってゲートを探すしかない」
 と答えた。
 それは嫌だなと考えたが、でもそれしか方法がないのも事実だった。
 そこで、僕は1つ気になる事があった。勇者の話を聞いてからずっと頭の中にあったこと。その事を八雲に伝える事にした。
「そういえば八雲。前の勇者が図書館をよく利用してたって知ってる?」
「……初耳だな」
「僕は思うんだけどさ、ゲートももしかして図書館にあるんじゃない?」
 勇者がよく利用していた図書館には、ゲートがあってもおかしくないと思っている。勇者がゲートを作ったのなら尚更だ。
 それに図書館は八雲が利用しているくらいで、他の人が図書館にいるところを見たことがなかった。
 もしも、当時から利用者がいない穴場スポットだったなら……誰にも見られることなく、ゲートを作ることが可能だったのではないだろうか。

「ふっ、まさか」と八雲は笑う。そして続けて「図書館にゲートがあるわけないだろう。ボクは何回も図書館を利用している。そこにゲートがあるなら、ボクの目は節穴だと言う事になるな」と言う。
 しかし、それでも引き下がる気は起きない。八雲を信じていないわけではないが、自分の目で確認しなければ気が済まない。
「そうだよね…でも一応僕も調べてみてもいい?」
「あぁ、いいとも。行こうではないか、図書館に」

 そう言って僕と八雲は図書館に向かった。
 普段から八雲によく会いに図書館に来ていた僕だったが、図書館内を歩く事はほぼしなかった。
 今回は隅々まで見る。
 図書館には図書館という名前に恥じぬ様、複数の本棚に沢山の本が保管されている。
 赤い絨毯に茶色の木の本棚。
 学校の図書室を思い出す。
 しかし、ここにある本はこの国の文字。僕が読めるものはない。
 一冊を除いては……
「ここに勇者が書いた本があったんだね」
「そうだ、ここに今は戻してある」
 部屋の最も奥の端っこにある本棚に、前見せてくれた勇者が書いた薄い本が置かれていた。
 辺りを見渡しても、本以外これといってない……いや、なぜかそこにはあるものがあった。姿見だ。
「ねぇ、八雲、こんな所に姿見なんてあった?」
「あったぞ。一番最初からな」
 部屋の奥にある本棚。その横には直角に壁付けされた本棚。そして、その本棚の正面に人が通れる空間があってまた本棚。だが、その本棚の横の部分に姿見が取り付けられている。その姿見は勇者の本があった、本棚を写すように置かれている。

「この姿見がゲートだったりしないかな?」
「ははぁ、まさか……」
 八雲は笑う。
「でも、よく言うじゃん!鏡は異世界に通ずるって」
 と僕が言うと、八雲は笑うのをやめて、少し考えてから、姿見を触った。
 しばらくすると、鏡は正面に立つ僕らを写していたはずなのに、濁り白くなっていく。
「八雲何やってるの?」
 そう尋ねると、八雲は「魔力を込めている」と答えた。
 魔力を込めると鏡は白くなるらしい。
「そんなわけないだろう……鏡に魔力を通したくらいで白くなったりしない。これは、君の言っていることが正しかった事を物語っているかもしれない」
 八雲が曖昧な返事をする。
 僕の言っている事って、この姿見がゲートかもと言う発言かな。
「まさか、ボクがこれを見落とすとは……」
 ショックを受けている様子だ。
 もしも姿見がゲートであれば、答えはすぐそばにあったことになる。
 それはショックを受けても仕方ない事だろう。
「今すぐブランを連れてこい。ゲートなら彼女の魔力が必要だ」
「わかった、行ってくる」
 僕は急ぎ、ブランがいる洞窟に戻った。
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