泥棒冒険者!恵まれなスキルですが勇者目指して頑張ります。

真っ白 磨代

文字の大きさ
上 下
69 / 114
第二章【仲間】

【43】元パーティー①

しおりを挟む
 魔王国の田舎で生活を始めた俺たちは朝ご飯(正しくは夜ご飯)を食べながら今後の話をしていた。

「リフォームに必要な工具が欲しい」

「工具?」

「それはなんですの?」

 ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。

「人族が使う道具や」

 ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
 九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。

「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」

「旦那様は人族のようなことを言うんやね」

 確かに、今の発言は迂闊うかつすぎたかもしれない。

「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠とさかもゴミです」

 気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属けんぞく

「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」

「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」

「ギンコは?」

「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」

「尻尾割れてるくせに偉そうに」

「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」

「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」

 今日もバチバチにやり合っている二人。
 ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。

「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」

「ウル~ッ」

 圧倒的癒やし!

 急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。

「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」

「仕方ありませんね」

 いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
 よっぽど太陽が嫌いらしい。

 そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
 ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。

 背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。

 さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。

「どう見ても人間には見えへんよな」

 自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。

 別段、変化はない。
 ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。

 ホンマかよ――

 と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。

 おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
 彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。

「これ何の魔法?」

 ギンコが無言で首を振る。
 喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。

「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」

 息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。

 俺、そんな魔法使えないんやけど……。

「あと、もう一つ」

 またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。

「うおぉ!」

「これも子供騙しです」

 これなら誰が見ても人族だ。
 大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。

 近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。

 到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
 街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかをかついでいる。

 大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。

「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」

 人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。

 こういう時は――

「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」

「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」

「そんな感じです」

「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」

「ありがとうございます」

 普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
 ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。

 早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。

「初めてなんですけど」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」

「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」

「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」

リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠とさかをカウンターに取り出す。

「……………………」

 さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。

 すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。

「待ってろ」

 続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
 目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。

「デスクックだ」

 やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。

 「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」

 ツレが倒した、と言いそうになる口をつぐんで頷く。

 疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
 ごめん、クスィーちゃん。

「金貨千枚を出す。構わないか?」

 ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。

 この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。

「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」

「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」

「ドワーフ! ありがとうございます」

 あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。

「デスクックってレアモンスターなんか?」

「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」

 相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
 でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。

 見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。

 俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

小倉みち
ファンタジー
 公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。  自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。  ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。  彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。  信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。 「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」  持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

処理中です...