ポニーテールの勇者様

相葉和

文字の大きさ
上 下
202 / 206

202 太守会議、そして

しおりを挟む
「うん。やっぱりしっくりくるね!」
「うむ。妾もそう思うのじゃ」

バサッバサッと大きな翼を羽ばたかせ、大きな嘴で毛づくろいをする仕草。
何人か人を殺したと言われても納得してしまいそうな目つき。
ディーネは数日ぶりにハシビロコウの依代へと戻ることができ、ご満悦の様子だ。

「はあ。やっぱりハシビロコウさんは素敵ね・・・」
「今更だけど、水の精霊が鳥ってどうなのよ」
「いいじゃない、ミっちゃん。カッコいいし」
「理由になってないわよ」

完全に体調が良くなったわたしは、精霊達の依代作りを行っていた。
アフロ、ミネルヴァは前と同じ初期設定の依代、そしてヤミも同じく初期設定のままでいいということなので人型の依代だ。
ヤミはわたしの記憶にアクセスできなくなることを少し残念そうにしていたが、あんまり黒歴史に触れられても困るのでこの辺で勘弁していただきたい。
そしてディーネは前回と同じくハシビロコウの依代になったわけだが、サラは新しい依代を所望した。
それは構わないのだが・・・

「本当にこれでいいの?いや、わたしは好きだし、風の精霊的にはまあギリギリ有りだとは思うけど・・・」
「前と同じくカピバラにしようか、かなり悩んだけどね。いい機会だからこっちも試しておこうと思ったわけよ」

そんなわけで、わたし達の目の前には立派なコウテイペンギンが立っていた。
つぶらな瞳、大きくて白い綺麗なお腹と黒い背中のツートンカラーの体、嘴と頬あたりに映える黄色、そして細長い手、もとい、フリッパーという名の翼。
まごうことなきコウテイペンギンである。

「サラちゃん。ペンギンは鳥類だけど飛べないよ?いや、カピバラも本来飛ばないから今更な話だけど。やっぱり風の精霊なんだし、大空をカッコよく舞う『鷹』とか『鷲』のほうが良かったんじゃない?」
「何言ってるの。ちゃんと飛べるから問題ないわよ」

そう言うとサラは、フリッパーをピョコピョコと動かして空中に浮かび上がった。

「いやいや、それ魔術で飛んでるだけだよね?翼で飛んでるわけじゃないよね?飛べない地球のペンギンに謝ってほしいわ」
「別にいいじゃないのよ。お、この体型、結構飛びやすいわよ」

サラは部屋の天井付近をクルクルと器用に飛んでみせた。
ペンギンは空を飛べなくなった代わりに、高速で水中を泳ぐことに適した体型へと進化したと考えられている。
その体型は水の抵抗を受けにくい紡錘形であり、水中を全力で泳ぐペンギンの姿はまるで弾丸が飛んでいるようにすら見えるという。
紡錘形の体は空気抵抗も少なそうなので、飛びやすいというサラの感想には頷ける。

「まあ、サラちゃんが気に入ったのならいっか。じゃあみんな、役所へ行きましょうか」

わたし達は宿屋を出て、王都の役所へと向かった。
今日は各領地の太守との重要な会議があるのだ。
現在王城は修復工事中のため、王城内の施設は使えない。
そのため、フラウス達は王都の城下町にある役所の一角を借りて公務を行っている。
今回の会議も役所の会議室を借りて行うのだ。
なお、会議は双方向の投映の魔道具を使い、お互いの顔を見ながら皆で会話もできる、いわばオンライン会議だ。
そこでわたし達は今後の政策のことについて話し合うことになっている。
骨子については王都のフラウスとニューロックのカーク、そしてそれぞれの首脳陣の間である程度固めてあるので、政策内容の確認とその可否の話になることだろう。

「ねえ、その会議、あたし達も参加しないといけないの?」
「他の領地に精霊の紹介をしておきたいのだそうよ。会議が一段落したところで退出して良いんじゃないかな?ずっといても暇でしょうし。それに昨日の今日だから、会議の内容も大雑把に方針の大枠を決めるだけになりそうだって、フラウスさんが言っていたわ」

昨日、フラウスが投映の魔道具を使い、王都から全領地に向けて発信を行った。
その中で、戦いの終結と元王であるバルゴの死が正式に発表された。
そしてバルゴが前王の一族を私利私欲のために殺害して王位を簒奪したこと、その後の国民への圧政、王位簒奪の真実を知る一部の者達を反逆者として追い立てたこと、そして忌まわしき人体発火事件などはすべてバルゴの指示によって行われたことであることも公表された。
その事に関してフラウスは、国民に辛い思いをさせたことに対する謝罪と、人体発火事件に関する賠償の用意があることも告知した。
また、バルゴと戦った勇者と、勇者と共闘し、これまで反バルゴ体制を掲げて水面下で活動してきた国民解放組織『アーガス』、そしてその後援をしたニューロックに対して、公敵という位置付けを正式に抹消し、逆に救国の英雄として褒賞を検討していることについても発表された。

なお、バルゴの死亡理由は『わたしとの戦いで互いに死力を尽くして戦った結果、バルゴが火の精霊の力を無理やり引き出し過ぎて、その反動で自滅した』ということになっている。
この筋書きは、わたしが直接手を下して殺したわけではないという点が重要である。
実際のところ、バルゴは火の精霊によって殺され、わたしはバルゴの体を乗っ取った火の精霊を倒したわけだが、事情をよく知らない第三者からすれば、わたしがバルゴを殺したと思われてもおかしくない。
たとえバルゴが罪人だとは言え、わたしが皆から人殺しという目で見られたくないという、わたしの勝手で我儘な注文が原因なのだが、フラウスもカークも承諾してくれた。
『もう一つぐらい嘘が増えても構わないし、これでユリ殿も共犯だ』とカークは言った。
弱みを握られた感もあるが致し方なし。

王都からの発信の終盤、バルゴと戦った当人であるわたしも少しだけ顔を出した。
今後の政策についてはまだ何も決まっていないので余計な事は言わず、もうバルゴの恐怖政治に怯える必要はないこと、わたしもこの星の精霊も健在であること、そして最後に、これまでに亡くなった人へのお悔やみの言葉で話を締めた。
王都発表が終わった後、『これで多少なりとも国民の溜飲は下がることでしょう』とフラウスは言い、わたしもそうであることを願った。

そんなこんなで、明けて今日の会議である。
役所へ向かう道中、通りに面した茶店のテラス席でミライとジンがお茶をしていた。
二人も一緒に役所に行くのだが、わたしが精霊達の依代を作っている間、ミライとジンはここで待っていてくれたのだ
ミライが興味深そうにコウテイペンギンをジロジロと見る。
正体がサラであることを教えると、ミライは納得した表情をした。
ミライの中で、サラはお笑い枠あるいはイロモノ枠になっている気がするが、きっと気のせいだろう。
二人と合流し、再び役所へ向かって歩いている途中のことだった。
少し前を歩くジンが足を止めると、こちらを振り向いて怪訝そうな顔をしながら文句を言った。

「歩くのが遅い。もっと早く歩けぬのか」
「いやー、そう言われても、ペンギンって歩くのが遅いのよ。泳ぐのは速いけど」

新しいペンギンの依代にご満悦のサラは、ヨチヨチペタペタと楽しそうに歩いている。
わたし達はその速度に合わせてのんびり歩いていた。
その姿がまためちゃくちゃ可愛いので、ついつい見とれてしまう。
ただ、遅い。

「その魔獣の名前などどうでも良い。早く歩けと言っているのだ」
「魔獣じゃないし。別に急がなくてもまだ会議には間に合うからいいじゃない。アレだったら先に行っててもいいわよ」
「そうか。ではミライお嬢様、先に参りましょう」
「ジン、ミライはゆっくり歩いてもいいよ」
「ミライお嬢様のお許しが出た。ゆっくり歩くがいい」
「あんた本当にブレないわねえ・・・」

ミライもペンギンが物珍しいのだろう。
少し先を歩いていたミライは一度足を止めてサラが来るのを待った。
ミライは、自分の目線より少しだけ低いペンギンをじーっと眺めた後、恐る恐るサラの体に触れた。
サラもまんざらではなさそうで、もっと触りなさいと言わんばかりにミライにすり寄る。

「フワフワじゃないけど、スベスベしてて・・・とってもかわいいの!ねえ、サラお姉ちゃん。手をつないで歩いても良い?」
「いいわよ!」

サラはフリッパーをぴょこっと上げてミライに差し出し、ミライはその先っぽをキュッと握った。
そして二人は手をつないだまま、チョコチョコと歩き出した。
その後ろ姿は、かわいいの一言では表現しきれない。
尊いとはこういうことを言うのではないだろうか。
連射モードでめちゃくちゃ写真を撮りたい。

「・・・ワタシもペンギンになろうかしら」
「アフロちゃん!?気持ちはわかるけど落ち着いて、冷静になってね!」

アフロならば、イワトビペンギンのほうが似合うかなと一瞬思った。



そんなわけで時間は少々かかったものの、無事役所に到着した。
役所の入り口を警護していた兵士がわたし達を見つけると、すぐに庁舎内へと案内してくれた。
庁舎内を歩いてそのまま会議室へ通されると、会議室には既にフラウスがいて、会議の準備を進めていた。
アドルとノーラも会議室にいたので、設営を手伝っていたのかも知れない。
わたしはフラウスに挨拶した。

「フラウスさん、準備おつかれさまです」
「いえ、昨日の全領地向け放送に使った状態からほとんど手を入れていませんので、準備は楽なものです」
「そういえばこの会議室を使ったんでしたっけね」
「さ、ユリ殿、そして精霊の皆様は席でお待ち下さい。まもなく会議が始まりますので」

各々指定された席に座り、お茶を飲みながら会議が始まるのを待つ。
なお、ミライ、ノーラ、アドルの三人も戦いの功労者ということで紹介はするが、精霊達と同じく、切りの良いところで中座する予定だ。
やがて時間となり、会議が始まった。
投映の魔道具が壁にはられたスクリーンに各領地の太守を映し出す。
同様にこちらの様子も先方には見えているはずだ。
ニューロックからはもちろんカークが出席していた。
目が合ったタイミングで会釈をしたが、一応公的な会議ということもあって、私的な談笑は控えることにした。
ライオット領からは太守のジェイスとその婚約者のロティナが参加している。
わたしに気づいたロティナが笑顔で小さく手を振るので、わたしも同じように小さく手を振り返した。
その他の太守は全て知らない面々だ。
バルゴがいなくなった王都、そしてわたしに対してどんな印象を持っているのか分からないので、会議で何を言われるかちょっと不安だ。
一応、セントロード領は太守の顔こそ知らないものの、通話の魔道具で話をしたことがある。
あれは王都がニューロックに宣戦布告をして、セントロード領とグレース領の艦隊がニューロックを攻めて来た時のことだ。
ニューロックの西海岸側を攻めてきたセントロード軍に対し、わたしは予めミネルヴァに設置してもらった光の結界を使い、首都コーラルから一瞬で正反対の西海岸に転移して、セントロード軍を撃退したのだ。
もっとも、セントロード領はもともと中立で、むしろバルゴの専制に反対する姿勢を示していたためやむなく戦いに参加したしたようだが、わたしが参戦していると知るやいなや、大きな被害を被る前に『勇者にやられたので退散します!』と口実をつけて自領へさっさと帰っていった。
また、セントロードの太守は戦いが落ち着いた後で友好的な関係を結びたいとも言っていたので、こちらはあまり心配する必要はないだろう。

問題は、グレース領の太守かな・・・
わたし、ずっと睨まれてね?



会議はまず、各人の簡単な紹介と、先日の戦いの詳細についての話から始まった。
フラウスがよどみなく一部始終を説明する。

「・・・以上が戦いの顛末です。昨日公表した内容と相違なく、細部の補足をしたのみですが。ここまでで何かご質問は?」
「発現してもいいだろうか」

挙手をしたのはグレース領の太守だった。
頭髪の半分以上は既に失せ、全体的にふくよかな体型をしているグレース領太守は、フラウスとわたしを交互に見るように目をしきりに動かしている。
早くも嫌な予感しかしない。

「ではグレース領太守、フェンダル殿。発言をどうぞ」
「うむ。まずは戦いが終わったことを労わせてもらおう。しかしだ。儂はバルゴ陛下がグレース領の太守を務めていた頃から、その人となりを知っている。私利私欲で動き、王位簒奪をしたとは未だに信じられんのだ。何か明確な証拠は無いのだろうか」
「証拠ですか・・・では、こちらにいる火の精霊様から証言をいただきましょうか?」
「精霊の証言など証拠にはなるまい。なんなら火の精霊がバルゴ陛下を唆したのかもしれぬであろう?」

・・・グレース領太守、よくぞ見破った。
いやいや、感心しちゃ駄目だ。

「フェンダル殿。あいにく物的な証拠はありませんが、これは事実です」
「フラウス殿。儂はニューロックが反逆した時の出征で、太守だった甥のフェイムも亡くしているのだ」

・・・この人、前グレース太守の叔父だったのか。
ということは、フェイムと直接戦ったわたしに恨みを持っていてもおかしくないね。

反逆と言ったフェンダルの言葉を聞き流すわけにはいかず、すぐさまカークが反論した。

「フェンダル殿。ニューロックは反逆したのではなく、正しい行動をしたまでのことです。現にすべての精霊様はユリ殿に味方しています。つまり、ユリ殿こそが正義なのです。これが証拠になりませんか?」
「すべてはその娘・・・いや、勇者殿の陰謀ということは無いのか?」
「そんな事はありません。グレース太守、さすがに言葉が過ぎるのではありませんか?」
「儂は明確な証拠が無ければ納得がいかぬと言っているのだ・・・そこでだ、フラウス殿」

フェンダルが不敵な笑みを浮かべ、フラウスを呼んだ。

「フラウス殿、次期王はまだ決まっておらず、勇者殿は王になる意思がない。そうだったな?」
「・・・現状はその通りです」
「ならば儂が王になるというのはどうだろうか」
「は?」
「バルゴ陛下はグレース領の出身であり、グレース領太守の職務を経て王となった。バルゴ陛下が私利私欲で王位を奪ったとは未だに信じられぬが、仮にそうだったとするならば、同じグレース領出身の儂がその汚名を晴らしたいと思う。儂がバルゴ陛下の意思を継いで王になろう。これで万事丸く収まるというものではないか?」

・・・こいつ、何を言ってるんだ?
こいつこそ、私利私欲で動いていることが丸見えじゃないの。

わたしも一言文句を言ってやろうと思って口を開いたのだが、タッチの差で先に口を挟まれてしまった。
・・・まさかのミライに。

「前の王様は本当にひどかったの!ユリお姉ちゃんもミライも殺されそうになったの!」
「ちょっと、ミライちゃん、今大事なお話をしているから・・・」
「そのおじさん、ユリお姉ちゃんのことをずっと怖い顔をして見てるの。ユリお姉ちゃんをいじめるような人が王様になっちゃ駄目なの!」
「お、おじさんだと!?なんだこの生意気な子供は!?」

フェンダルの矛先がミライへと向く。
わたしは慌ててミライを庇った。

「フェンダルさん。この子はさっき紹介した通り、先日の戦いで協力してくれた子で・・・」
「それがどうした!このような重要な会議に子供など参加させるな。さっさと追い出せ!」

・・・こいつ、王どころか、太守にも向いてない!
もしかしてグレース領の人間ってみんなこんな感じなの!?

「フェンダル殿。ミライ殿は確かに子供ですが救国の功労者です。実際、私と一緒に行動し、大変な活躍をしてくれたのです。フェンダル殿こそ大人げないのではありませんか?」
「フラウス殿こそ目が曇っているのではないか?そんな子供が救国の功労者だと?そんな年端も行かぬ子供に何が出来るというのだ。どうせ大衆の同情を引いたり話題を作るために用意した、お飾りの子供なのであろう?」

その後もフェンダルはミライやわたしを口汚く罵り、その都度フラウスに窘められたが、引き下がる様子もなく聞くに堪えない口撃が続いた。

「あんた、いい加減に・・・」

フラウスの諫言に聞く耳をもたず、それどころか妄言でミライを誹謗するこの男に、わたしの怒りも限界に達した。
そして爆発しかけたところでまたしても先を越された。
・・・まさかのジンに。
そのジンは、スクリーンの向こう側でフェンダルの胸ぐらを掴み、そのままフェンダルを宙に持ち上げていた。

「は!?ジンさん!?いつの間に!?」

改めてジンの座っていた席を見るが、既にもぬけの殻となっていた。
やはり分身や偽物ではなく、ジンがグレース領にいるフェンダルの元にいると考えたほうが良さそうだ。
しかし一体、どうやって・・・
テレポート?

「きっ、貴様・・・く、苦しい・・・」
「ミライお嬢様への暴言。取り消してもらおうか」

ジンがさらにフェンダルの喉を締め上げる。
このままではフェンダルが死んでしまうという恐れで頭が占拠され、同時にわたしの堪忍袋もしぼんでいった。

「ジンさん、一旦落ち着いて!ひとまずそいつを下ろして!」
「謝罪するまでは下ろさん」
「ぐっ・・・がはっ・・・」
「いやいや、ジンさん!そのままじゃそいつが喋れないでしょう!それに力で屈服させるやり方は、今までのあ・・・バルゴと同じよ!」

『今までのあなたと同じ』と言いかけて慌てて言い直したが、やはりジンは締め上げをやめない。
一体どうすれば・・・あ、そっか。

「ミライちゃん、ジンをやめさせて!」
「分かったの・・・ジン。もうそこまでにして、そのおじさんを助けてあげてほしいの」
「承知しました」

ジンは無造作にパッと手を離した。
するとフェンダルは自由落下し、尻もちをついた後で無様に転げて咳き込んだ。

「がはっ・・・ごほっごほっ・・・」
「お前の命を救ったのはミライお嬢様だ。ミライお嬢様に心から謝罪し、助けられたことを感謝しろ。だが忘れるな。ミライお嬢様が許しても、我はお前を許したわけではない」
「ひっ・・・」

ジンに睨まれたフェンダルは何も言えず、真っ青な顔をしたまま硬直していた。
とりあえずフェンダルはもう放置でいいとして、わたしはジンに、王都の役所の会議室にいたはずのジンが一瞬でグレース領に現れたわけを聞いてみた。

「どうと言うことはない。我の棲処はグレース領の太守の城からそれほど遠くないところにあるのだ。我は棲処と王城へは自由に転移することができる。この男がミライお嬢様に罵声を吐いた直後、我は棲処へ転移して、そこから全力で太守の城へと向かっただけだ」
「全力過ぎでしょう・・・」

・・・時間にして数分よ?
それほどまでに怒り狂っていたのね。

「ジン、一人で行くなんて・・・」

そんなジンの様子を見ていたアフロがボソッと呟いた。
アフロもミライが罵倒されている状況に怒り心頭で、腕組みした右手の人差し指のトントンする動きが高速すぎて見えないほどだった。

「ワタシも一緒に連れて行ってほしかったわ」
「アフロちゃん。貴方まで行ったら間違いなくフェンダルは死んでたと思うわ」
「そんなの当たり前でしょ。生かしておくとでも思って?」
「・・・」

その後、フェンダルは会議から退出させられた。
フェンダルは、バルゴが存命中にフェイムの後任としてバルゴから太守に任命された人物だった。
その任命の背景には、当時のバルゴの野望にそぐう人物として登用された可能性が高い。
フェンダルは会議中に、太守としてふさわしくない言動で騒ぎを起こした責任を取らせるという名目で罷免されることが決定した。
次のグレース太守にはまともな人が選ばれることを願うばかりである。

その後の会議の進行はスムーズなものだった。
まだ決めなければいけないことは多々あるものの大筋は固まったので、ひとまず今日の会議は終了した。

「終わったよー、お待たせ!」

予定通り途中で会議を抜けて外で待っていたミライや精霊達と合流し、宿に帰ろうとしたところで、王城経由でグレースから戻ってきていたジンに呼び止められた。

「娘、話がある」
「何?あ、そういえばさっきはありがとうね。あの太守の発言と態度はわたしも許せなかったから、ジンさんのおかげでスカッとしたわ。会議中にお礼を言うわけにはいかなかったら、今言わせてもらうわね」
「構わん。我はミライお嬢様の名誉を守っただけだ。言うまでもないが、最初から殺すつもりは無かったぞ」

ジンとは『決して人を殺してはならない』という約束を交わしている。
そのことはちゃんと意識して守ってくれていたようだ。
まあ、条件付きで半殺しは認めているので、今回はそれに該当したわけだが。

「で、話って何だっけ?」
「お前のせいで話が逸れたのだ。我はお前に渡すものがある」
「わたしに?何をくれるの?」
「忘れたのか?我は魔道具を秘匿していると言っただろう」

そういえば、先日の戦いの最中にジンがそんなことを言っていたことを思い出した。
ジンは先人から様々な魔道具の破棄を命じられたものの、実際は破棄せずに隠匿していたそうだ。
そして、その魔道具の中には確か・・・

「棲処に戻ったついでに、お前が望んでいた送還の魔道具を持ってきたのだ。それを使えばお前は元の世界に帰れるのだろう?」

ドクン、とわたしの心臓が大きな鼓動を打った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...